早稲田大学石田研究室


歩行者に対する運転者のリスク知覚 
佐藤 章紘

1.はじめに
 交通事故統計年報(平成17年度版)によると、自動車対歩行者の交通事故数では7.1%と人対車両の事故のほとんどを占め、死亡事故に至っては28.8%と自動車相互の事故よりも大きく、もっとも大きな割合を占めている。人対車両の事故において、歩行者側は大きなダメージを受けるため、死亡率が高い。歩行中の死亡事故を減少させるには運転者と歩行者の関係を探る研究が必要となってくる。

2.目的
 被験者に歩行者の存在する交通場面の映像を見せたときに運転者はどの程度のリスクを感じるかということ調査し、得られたデータを元に歩行者の条件、車の速度により運転者が感じるリスクの違い、また被験者のリスク知覚の特徴について分析していく。

3.実験方法
道幅3mの片側1車線の直進道路にて、車内にカメラを取り付け、車が歩行者の横、約1mを通過するように走らせ、実験映像を撮影した。
車は30km/h、45km/h、60km/hの三速度で走らせた。
 歩行者は、
・停止した状態で道路側を向いた条件(以後、道路側条件)
・道路に背を向けた条件(以後、道路逆向き条件)
・向かってくる車を向いている条件(以後、対面条件)
・向かってくる車に背を向けた条件(以後、背面条件)
・歩行者が車の進行方向とは反対方向に歩行する条件(以後、対面歩行条件)
・ 歩行者が車の進行方向と同じ方向に歩行する条件(以後、背面歩行条件)
の2条件を加え、計6条件を歩行者側の条件として設定した。

映像はiBook G4のモニターで提示した。その際実験映像をQuickTime Player7.3で再生した。

基準試行を車側45km/h、歩行者:道路側条件として、各刺激映像の前に提示した。基準試行のリスクを30とし、歩行者と自動車が接触し、歩行者が死亡に至る場面のリスクを100とした場合、刺激映像の場面でのリスクはどの程度感じたか口答してもらった。この被験者が試行ごとに感じたリスクを『回答リスク』と呼ぶことにする。
 また最後に、基準刺激である車側45km/h、歩行者:道路側条件の場面が、歩行者と自動車が接触し、歩行者が死亡に至る場面のリスクを100とした場合のみを基準として、被験者はどの程度リスクを感じたか口答してもらった。

4.被験者
 19歳から24歳の普通自動車免許を持つ21名(男性14名:年齢平均21.9歳、女性7名:年齢平均21.6歳)に実験に参加してもらった。被験者の中には事故を常習的に起こした者はいなかった。なお、男女の運転歴と走行距離を検定したところ、有意差はなかった。

5.結果
 回答リスクに対して、性別を被験者間要因、車側速度と歩行者側条件を被験者内要因として、
2×3×5水準の分散分析を行った。
 歩行者側条件は6条件であったが、基準試行に道路側条件を含むため、ここでは道路側条件を除いた5条件で分散分析を行った。
 その結果、歩行者側条件の主効果が有意
F(4,47)=4.548 (p < .01)
Bornferoni法により下位検定を行った結果
対面条件―対面歩行条件
対面条件―背面歩行条件
の差が有意であった。(図1 参照)
 速度に関しては、速度×性別の相互作用が有意であった。男女ごとに各速度間の回答リスクの差を比較したところ、女性の車側速度
45km/h―60km/hのみ有意差が見られず、他のすべての組み合わせで有意差が見られた。

6.まとめと考察
 回答リスクに対して、性別を被験者間要因、車側速度と歩行者側条件を被験者内要因として、
2×3×5水準の分散分析を行った結果、歩行者側条件の主効果が有意と認められた。本実験での歩行者側条件による、回答リスクの平均は、対面条件<道路側条件<道路逆向き条件<背面条件<対面歩行条件<背面歩行条件であった。
 Bornferoni法により下位検定を行った結果、2つの組み合わせで有意差が見られたが、対面条件―対面歩行条件では歩行の有無、対面条件―背面歩行条件の差は、回答リスク平均の最小と最大の歩行者側条件であるために、有意差が認められたと考えられる。
 これらから、歩行が加わることで被験者はリスクを高く見積もる傾向があると考えられる。
運転者が知覚するリスクを高め事故を削減する場合、歩行を妨げない幅員を確保することは有効であると考える。
 速度×性別の相互作用が有意であったが、図1を見ても、車側速度が上がるほど回答リスクが高くなっていることがわかる。このことからも知覚された自動車の速度をよりリスク知覚に反映しているものと考える。
回答リスクと車側速度には相関が見られる(図1参照)。しかし、運動エネルギーは速度の2乗になるので、その他の要因も含めても客観的なリスクは速度に線形に回帰することはない。
この運転者のリスク知覚の特性を踏まえて、運転教育に生かしていかなければならないと考える。

7.反省点
 実験映像をモニターで提示するなど、提示方法として不適切であった。
 被験者に関しては、被験者数をもう少し多く集め、またほとんどの被験者は大学生ということもあり、運転歴が浅く、走行距離においても分散が大きかったように思われる。
基準刺激の設定に関しても、今回対象とした歩行者側6条件以外(横断中の映像など)を設定すれば、6条件についてよりよく分析できた。

引用文献
財団法人交通事故総合分析センター(2006).交通事故統計年報 平成17年度版 財団法人交通事故総合分析センター
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