早稲田大学石田研究室


過失割合の修正要素に関する研究
國永 峻介

1.はじめに
 交通事故により人的・物的損害が発生した場合,賠償責任が生じる.事故当事者にそれぞれ過失がある際,その過失に応じて賠償額を調整する.これを過失相殺といい,数値化された両者の過失を過失割合という.自分の過失の過小評価,又は相手の過失の過大評価が紛争の原因となるが,この紛争解決のために裁判官らによる過失割合の基準化が図られている (以下,認定基準) .また,同じような事例でも,当事者に脇見や飲酒等(以下、修正要素)があった際,過失割合が増減する.例えば,飲酒の修正は+20であり、認定基準の過失割合が70:30の事例で過失70の当事者が飲酒した場合には、過失割合は90:10になる1).岡本・神田・石田 は認定基準と一般人の認識の差を明らかにしている2)が修正要素については明らかにされていない.

2.目的
 本研究では,修正要素提示前の過失割合を評価させ,その過失割合を基準に修正要素提示後の過失割合を評価させることで一般人が修正要素をどのように捉えているのかを明らかにする.

3.調査方法
事故の修正要素そのものを見る為,4事例(車対車,車対歩行者を2事例ずつ,事例1〜4)を選出し調査用紙を作成した.回答の合計値を100に設定して予備調査を行ったところ,ほとんどの回答が90:10や100:0になってしまった.本調査では天井効果を防ぐため上限を設けずに思うままの過失割合を評価させた.修正要素は,交通事故総合分析センター3)より2006年度,車対車の事故,車対歩行者の事故において,主な事故要因となったものを選出した.事例1,3はA,Bの脇見(20),A,Bの20キロオーバー(15),A,Bの飲酒運転(20),A,B共に飲酒(0) 事例2,4はAの脇見(20),Aの20キロオーバー(15),Aの飲酒(20),Bの飲酒(0),A,B共に飲酒(0),Bが子供(−5),Bが高齢者(−5)括弧内の数値は修正要素の認定基準である.
はじめに修正要素なしで、両当事者の過失割合の合計が100になるよう評価させ,その後,修正要素を加えた過失割合を評価させた. 調査対象者は,総数148名,うち男性109名,女性39名 免許所持者110名,同不保持者38名である.


4.結果と考察
過失割合の増加分について
 岡本らの研究2)から免許や性別には差が無いことが分かっているので,本研究では,調査対象者が修正要素により増加させた過失割合(以下,増加分)に焦点を当てた.また,上限を設けずに回答させているため,正規分布となっていない.そこで,wilcoxonの符号付き順位検定を行い,増加分に差があったかどうかの検定を行った.
車対車の事例,車対歩行者の事例により修正要素,比較する対象が異なることから,事例1と事例3の比較,事例2と事例4の比較を行う.修正前の過失割合が大きい方(第一当事者)の飲酒運転の増加分は,全事例において,他の修正要素より5倍以上大きかった.(事例1の第一当事者はB,事例2はA,事例3はA,事例4はA)飲酒運転は脇見運転や速度違反と比べ,責任が重いと考えられていることが分かった.また,事例3のみ第一当事者の速度違反と脇見運転の間に有意差があった.事例3では直進車が赤信号無視であったことから,右折車よりも増加分が大きく評価されたと考えられる.脇見運転は,無意識であるのに対し速度違反は,赤信号無視が意図的であることから,脇見運転よりも速度違反の増加分の方が大きかったと考えられる(図1).
飲酒運転だけを比較したところ,全事例において,第一当事者の増加分の方が第二当事者より大きくなることが分かった.修正前の過失割合が大きい当事者は増加分も大きくなることが分かった(図2).

事例1,3において第一当事者と第二当事者と分けて,飲酒以外の増加分を比較した.事例3の脇見以外では,第一当事者の増加分が大きくなった(図3).

事例1と事例3を比較した時,事例1の当事者Bの増加分が他よりも大きいことが分かった.元の過失割合が,事例1では30:70,事例3では65:35であることから第一当事者の元の過失割合が大きいと増加分も大きくなることが分かった.(図4).

事例2と事例4を比較した時,共に脇見運転,速度違反にはあまり差が無いことが分かる.事例2では,歩行者が子供や高齢者になった場合は増加分が約2倍大きくなっていた.このことから弱者保護の意識が浸透していることが分かる.事例4では事例2と比較して車の過失割合が小さく評価されている.事例2は赤信号で右折したのに対し事例4では黄信号で交差点内に進入したという違いがありことによるものと考えられる.また,元の過失割合が,事例2では85:15,事例4では76:24であることから第一当事者の元の過失割合が大きいと増加分も大きくなることが分かった.(図5).

事例4の高齢者以外は脇見や速度よりも有意に高齢者や子供の増加分が大きい

車対歩行者の事例の場合,歩行者が飲酒した時も車ほどではないが,過失割合が増加していた.歩行者の飲酒は法律では過失割合に影響を及ぼすことは無いが,増加していたことから,世の中で飲酒が悪いと認識されていることが分かる(図6).


 
A,B共に飲酒の時は第一当事者の増加分が第二当事者よりも大きくなった.

認定基準との差
 一般人の回答と認定基準を比較し,認定基準よりも大きいか小さいかの偏りを検討するため,カイ2乗検定を行った.この際,一般人の回答を比率化することで認定基準と上限を一致させた.カイ2乗の結果,事例1のAの脇見,Bの脇見,Bの速度違反,事例3のAの脇見では,有意な偏りがなかった. 事例2,事例4においては,全てに0.1%水準で有意な偏りがあった.  
事例1では,Aの速度違反,Aの飲酒運転において,認定基準よりも過失割合が大きく評価されていた(図8).

事例3では, Bの脇見運転,Bの飲酒運転では認定基準よりも過失割合が大きく評価されていた(図11).増加分を考察したときは赤信号無視をした第一当事者であるAの過失割合の増加が大きかったが,修正前から過失割合が大きかったことから,修正要素を加えても数字が大きくならなかったと考えられる(図9).

事例2,事例4では全ての修正要素において,認定基準よりも過失割合が小さく評価された.このことから,歩行者にも事故の責任があると評価されたことがわかる.歩行者の飲酒は法律では過失の増加が無いにも関わらず,一般人の回答では増加していたことから,飲酒が悪いことと認識されていることが分かる(図10,11).
  

5.まとめ
 飲酒運転は事例に関わらず,増加分が大きくなったが,飲酒以外の修正要素は,事例により増加分に違いがあった.車対車の事例において,脇見運転,速度違反が修正要素となった場合,認定基準では速度違反の過失が大きくなるが,第一当事者の増加分が第二当事者よりも大きくなっていることから,認定基準も一律ではなく,第一当事者に責任を重くするなどの工夫が必要だと思った.車対歩行者の事例では,脇見運転や速度違反の時より歩行者が子供や高齢者になった時の方が過失割合を大きく評価していた.このことから弱者救済の意識が強いことが分かる反面,弱者以外の事故の責任を重く考える傾向がある.

6.参考文献
1)別冊判例タイムズ No.15 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準:東京地裁民事第27部(交通部)編,判例タイムズ社
2)岡本満喜子,神田直弥,石田敏郎 2004 交通事故事例に関する過失割合の認定基準と大学生の責任判断との相違
3)財団法人 交通事故総合分析センター 2006 交通事故統計年報平成18年度版

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