早稲田大学石田研究室


事故防止ルールの遵守メカニズムのモデル化
和泉 貴大

背景 
近年,わが国の産業事故は幅広い分野において増加傾向にある.特にここ数年の間に大規模な産業事故が頻発し,社会問題となっている.現代社会が,今後一層その不確実性を強めていくにつれて,産業安全の確保は,より困難なものになってゆくと予測される.
そのためには組織のソフト構造的な側面に働きかける「マネジメント」が重要な鍵を握っていると考えられている.経営トップの明確なリーダーシップのもと,アクシデントに強い体制を作り上げることが,事故を未然に防ぎ,仮に事故が発生したとしても被害規模を最小に押さえることができると考えられている.

研究の必要性
CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の理念の広がりにつれて,昨今,あらゆる組織はステークホルダーから安全確保のための,ますますの努力を要請されている.それを受けて,組織が経営トップ層の主導のもと,組織全体を挙げた安全確保活動を開始しており,リスクマネジメントをめぐるプロセスは,徐々に体系化されてきている.
それらの手法は組織に導入するだけでは意味は無く,システムとして正しく運用してゆかなければならない.人間特性を無視して行き過ぎた教育を行うと,人はストレス過剰となり,別な側面に影響が及び,JR西日本の列車事故の例のように,破綻した行動を発生させる事になる(Fig1).

事故発生に対する組織経営層の責任が厳しく問われるようになり,経営層は自らの責任を果たすために,現場に対して厳しいルールを課す.しかし,事故とは常に組織の末端,すなわち現場で発現するものである.経営層は,自分たちの居場所とは異なる現場領域のシステム・ルールを,現場との十分なすり合わせのないまま急造し,現場への介入を強めていくことになりがちである.このことによって,安全のためのシステム・ルールが,現場の実態から遊離したものとなり,「現業部門」と「非現業部門」の間に,意識の乖離が生じる危険性がある.

研究の目的
そうした事態に陥ることを防ぐために,組織において「事故防止ルールが遵守されるために必要な諸因子」を明らかにし,事故防止ルールの遵守メカニズムのモデル化を行う.
モデルの構築によって事故防止ルールの正しい運用に必要な知見を明らかにする.

調査
鉄鋼業A社の製造事業所に勤務する社員を対象とした第一次調査を実施した.
因子分析を実施した結果6因子解が得られた. 6つの因子について,それぞれ,第1因子は「コミュニケーション」,第2因子は「ルールの意義理解」,第3因子は「コンプライアンス」,第4因子は「負担実感」,第5因子は「ペナルティへの意識」,第6因子は「将来展望」と命名した.
また,ネットリサーチを用いた第二次調査を実施し,第一次調査と同条件で因子分析を行なった結果,30項目のうち,27項目が第一次調査における6因子分析と同じ分類となった.
組織の事故防止のための専任部署の有無で,労働災害発生件数に有意差が見られ,専任部署を設置している事業所の従業員は,労災の遭遇件数が少ないことが分かった.また,専任部署の有無は,安全ルール遵守を構成する6つのうち5因子に,影響を与えるものであることが分かった.

因果モデルの構築
 6因子間の相互の関係を明らかにするため共分散構造分析を行なった.その結果,以下のモデル(Fig.2)が得られた.

構築された「事故防止ルールの遵守モデル」を使い,組織における具体的な改善策を見出すために,(Fig.2)に「公的概念の大小」と「視野の長短」の2軸を導入した.その結果,組織として改善取組みを行ない易い因子と,逆に組織として改善取組みを行ない難い因子に分類した(Fig.3). 

 6つの因子の中では,@「ルールの意義理解」
A「職場内コミュニケーション」B「コンプライアンス」C「ペナルティを意識」D「負担実感」
E「将来展望」の順に,組織としてコントロールに馴染む,すなわちコントロールに適した因子であり,因子「ルールの意義理解」と因子「職場内コミュニケーション」は特に組織的な改善取組みに適した因子であることが判明した.

まとめ
「事故防止ルールの遵守メカニズム」は,6因子の相互作用より決定される.
6因子の中のコントロールに適した因子から優先的に強化することが,組織を「より良くルールが遵守される理想的な状態」に改善するための合理的な手法である.

参考文献
三沢良,稲富健,山口裕幸 2006 鉄道運転士の不安全行動を誘発する心理学的要因 心理学研究Vol.77 No.2
宮本聡介,上瀬由美子,鎌田晶子,岡本浩一 2003 組織制度・職場コミュニケーションが違反意識・違反経験に及ぼす影響 社会技術研究論文集Vol.1
細田聡 2007 ヒューマンファクターに基づく安全マネジメント 安全工学 Vol.46 No.7
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