早稲田大学石田研究室


新聞の段組が読者に与える影響について
井上 怜

1.はじめに
 近年、「新聞離れ」という言葉をよく耳にする。それを物語るように新聞の発行部数は1997年の約5400万部をピークに減少傾向にあり、2006年には5200万部前半まで落ち込んだ。一世帯あたりの購読数も1.22部から1.02部に減っている1)。しかし、新聞の現状の厳しさはこれだけではない。
日本新聞協会の調査2)によると、新聞に対して「親しみやすい」と評価した人は21.6%、「紙面構成・文字が分かりやすい」とした人は18.9%しかいない1)。新聞離れはどのような親しみにくさ、分かりにくさが原因なのだろうか。
そこで、新聞の特徴である「段組」といわれるレイアウトに着目した。段組とは、紙面をいくつもの段に分け、そこに記事や写真をパズルのようにはめ込んでいく紙面構成だ。これにより紙面は細かく複雑になる。締め切りに追われることの多い新聞制作の過程では、しばしば読者の読みやすさよりも記事を効率よく埋め込んでいくことが優先されているという3)。このような手法は読みにくさを招いているのだろうか。本研究では実際の記事を用いて実験を行い、新聞の段組は読みにくいのかどうかを明らかにすることを目的とした。

2.実験
刺激文章は新聞記事と同じ「縦書き17文字」、通常のワープロ打ち文章をモデルにした「横書き40文字」、実際の記事より一行を短くした「縦書き13文字」と通常新聞では使用しない「横書き17文字」の段組を用意した。記事の内容は2007年11月の1ヶ月間に発行された毎日新聞のコラム「余禄」から引用した。刺激で使用する記事は同期間の「余禄」欄の平均文字数、平均漢字数を算出し、文字数は平均の5%、漢字数は平均の10%を許容範囲として選定した。
刺激文章のフォントは、実際の新聞記事に最も近いMS明朝体、10.5pに統一した。

実験では、4種類の記事を4種類の段組に組替えた16種類の刺激文章を用意した。このうち
4つの文章を20歳代の男女16人に黙読させ、
読み始めから読み終わりまでの時間を計測した。その後、普段の新聞の購読状況や実験で使用した記事についてのアンケートを実施した。
提示する4つの刺激文章は、用意した16種類
の中から、ひとりの被験者に対し、全種類の段組を提示し、その際に記事が重複しないように配慮した。これは提示する記事の内容、段組に偏りが出ないようにするためである。アンケートでは4つの段組を読みやすさで順位付けをする形式で読みやすさを聞いた。  

3.結果
16の刺激は、あらかじめ文字数、含有する漢字数、文字の大きさなどの要素が統一され、刺激間のノイズがキャンセルされている。実験により得られた刺激の読みの計測時間を段組、記事の二要因で分散分析を行った。その結果、段組の主効果のみ有効であった。(F(3,48)=20.72,p<.001)。図1はそれぞれの刺激の平均読み時間と有意差の有無を図化したものである。4種類の記事は便宜的にそれぞれ1群から4群と名前を付けた。この実験では記事の違いによる読み時間の差はみられなかった。         

段組では「縦書き17文字」と「横書き40文字」の読み時間が短く、「縦書き13文字」と「横書き17文字」の読み時間が長かった。アンケートの順位付けでも、読み時間の長かったこれらふたつの段組が3、4位の下位、すなわち「読みにくい」という評価が多い結果になった。これは、主観評価で「読みにくい」とされた文章は読み速度が低下するという佐川賢ら(2002)の研究4)とも一致する。図2はアンケートの順位付けで3位、4位の下位に評価された回数を段組群別にまとめたものである。「横書き17文字」が圧倒的に、次いで「縦書き13文字」が「読みにくい」と評価されていることが分かる。

図2 「読みやすさ」下位の段組群別まとめ

また、4つの段組の中で読み時間が短く、アンケートでも「読みやすい」とされたふたつの刺激のうち、「縦書き17文字」は、アンケートで日常的に新聞を読んでいると答えた被験者9人のうち6人に「読みやすい」と評価された。もうひとつの「横書き40文字」の段組は、日常的に新聞を読んでいない被験者のうちひとりを除いて順位付けで上位の「読みやすい」とされた。つまり、新聞を読んでいる人は新聞の段組が、読んでいない人には通常のワープロ打ちの文章がそれぞれ読みやすいという傾向にあることが分かった。

4.考察
実験の結果から、新聞の段組は必ずしも読みにくいものではなく、普段の新聞や文章への慣れによる部分が大きいことが言える。ただ、日本新聞協会による調査で指摘された新聞紙面の親しみにくさ、分かりにくさは、今回の実験で使用したアンケートからも新聞離れの大きな要因であると考える。それは新聞を読み始めない理由について問う質問で親しみにくさを挙げる被験者が多かったからである。今回の実験では慣れている人にとっては新聞はそれほど読みにくいものではないという結果が出たが、新聞を日常的に読まない人々にとって新聞が読みにくいと感じられる結果を見ると、やはり新聞は改善の余地があると考える。

5.今後の課題
 今回の実験で使用した記事は一般にコラムと呼ばれるもので、事件や事故、災害などを報ずる記事とは内容だけでなく、段組も異なる。コラムは新聞記事を代表するもののひとつだが、それだけでは新聞の記事すべてを検証したことにはならない。今後は、コラム以外の内容、段組の記事について読みやすさの評価をすることが必要だと考える。
 また、今回の実験で記事の内容として毎日新聞を使用したが、他の新聞との詳しい比較は行っておらず、新聞による読みの差の有無も検討する必要があると考える。

4.参考文献
1)日本新聞協会経営業務部,2007,新聞の発行部数と世帯数の推移,日本新聞協会
2)日本新聞協会経営業務部,2007,新聞の評
価・接触に関するデータ,日本新聞協会
3)読売新聞社調査研究本部編,2002,実践
ジャーナリズム読本,中央公論社
4)佐川賢・氏栄弘祐・笹木保,2002,日本語
文章読みやすさ評価,照明学会,日本照明
学会全国大会講演論文集,167
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