早稲田大学石田研究室


見通しの悪い一時停止交差点における非優先側運転者の行動
―運転支援システムによる行動変容―
本間亮平

序論
交通事故総合分析センター(2006)の交通事故統計年報によると,事故総件数の半数以上は交差点とその付近で起きている.そのうち半数以上が無信号交差点内である.よって無信号交差点内での事故防止を目的とした多くの研究がなされている.例えば神田・石田(2001)は,事故事例を用いた事例研究を行い,非優先側運転者の交差点進入モデルを提案している.これによると運転者は,6 つのステップ(交差点の認知,一時停止の認知,安全確認の実施,交差車両の認知,衝突した車両の認知,通過待ちの実施)にすべて成功することで,安全に交差点へ進入することができる.近年では例えば,これらのステップに成功できるよう,運転者を支援する技術の開発が進められている.これは事故発生時の安全技術(パッシブセーフティ)に対し,事故を未然に防ぐ技術(アクティブセーフティ)にあたる.その1 つが運転支援システムである.しかし神田・石田(2000)によると,こういった新しいシステムの導入は新たな形態の事故を発生させる可能性がある.本研究で対象とする運転支援システムは,実用化が進められるシステムの1 つであり,一時停止交差点において非優先側運転者へ交差道路情報を提供する.交差道路に接近車両がいた場合,音声による注意喚起とカーナビゲーションを用いて交差道路の映像を提供する.しかし,このシステムについて安全性を検討した研究は少ない.

目的
そこで本研究では,見通しの悪い一時停止交差点における非優先側運転者に対し支援情報の提供を行い,それに伴う運転行動の変化を明らかにすることによって,システム使用時の安全性について検討することを目的とする.

方法
被験者は大学生など計10 名で,平均年齢は23.20歳(SD 1.75 歳)であった.被験者は実験車両を運転し,1 周で4 箇所の一時停止交差点を通過する周回コースを15 周走行した.支援を行う支援有条件10 周と,通常の運転すなわち支援無条件5 周を比較条件として行った.各条件の前に,同一条件での練習試行を2 周行った.実験計画は被験者内計画で,条件の順序にはカウンターバランスがとられた.運転支援システムは,交差点に右側交差道路を撮影するカメラを設置し,それらの映像により支援を行った.交差点進入時に右から交差車両が来た場合,まず音声によって警告がなされ,続いてカメラの映像がナビゲーション画面に提示される.ただし支援有条件でも,右からの交差車両がない場合は音声と映像による支援は行われない.運転者はアイカメラを被り実験車両を運転した.これにより,運転者の注視行動が記録された.また速度,ブレーキランプ,距離を記録した.これらはすべて同期され,4 分割動画としてDV へ記録した.動画はPCへ取り込み,分析時は1 秒間30 フレームの静止画によるフレーム解析を行った.

結果及び考察
得られた全600 試行のうち,交通状況(歩行者など)の影響を強く受ける81 試行を除去した.
一時停止率
まずこれら519 試行の車両挙動について分析を行った.車両挙動で特に重要と考えられるのが,一時停止率である.そこで一時停止率を従属変数,支援要因(2水準)と交差車両要因(2 水準)を独立変数とした2要因分散分析を行った.分散分析の結果,支援×交差車両による交互作用F(1, 9)=4.37, p=.07<.1 が認められたため,Bonferroni 法による多重比較を行った.多重比較の結果,支援無条件及び有条件それぞれにおいて,右からの交差車両あり,なし間で有意差(p<.01)が認められた.また右からの交差車両がない場合,支援有条件と無条件間に有意傾向(p<.1)が認められた.図2 は各条件における一時停止率を示す.

右からの交差車両がある場合,両支援条件下で高い一時停止率となった.右からの交差車両がない場合,運転者は一時停止するかを判断する.運転者は支援有条件下で支援がないことで,右からの交差車両は来ないと判断したため,支援有条件における一時停止率が低下したと考えられる.
一時停止交差点において,一時停止は事故防止の最後の防護壁である(神田・石田,2001)ため,支援方法を再検討する必要があると考えられる.この点を考慮した支援方法として,例えば一時停止を促す支援を加える方法などが提案できる.
注視対象交差点通過行動は交差車両の有無が大きく影響していると考えられるため,左右の交差車両がない場合112 試行において,支援条件が注視対象に及ぼす影響を分析した.注視対象に対する注視時間を合計注視時間で割ることで,対象への注視割合を算出した.支援無条件と支援有条件においてt 検定を行った結果,右方向への注視割合(t(16)=3.27,p<.05),ナビゲーションへの注視割合(t(16)=-4.75,p<.01)において有意差が認められた.図3 は支援条件による注視対象の比較を示す.

本分析対象での支援有条件は,右からの交差車両が来ない場合であるため,音声及び映像による支援は行われていない.しかし,ナビゲーションへの注視がみられる結果となった.これは無意味な注視である.ナビゲーションへの注視割合が増加している分,右方向への注視割合が減っている.よって音声及び映像の支援がなくても,運転者は交差車両が来ないと判断していると推察される.右方向への注視割合が減ると,支援システムの誤作動時の危険性や,右からの交通他者,特に歩行者の飛び出しなどの見落としにつながる可能性がある.よって,支援により運転者に交差車両が来ないことを悟られては良くないと言える.
ナビに対する注視時間と速度
次に音声及び映像による支援が行われた場合146 試行について,ナビゲーションに対する注視行動の分析を行った.ナビゲーションに対する注視,全248 個について,2 秒を超える注視が見られた.そこで注視時間と各注視中の平均速度との関係を調べた(表1).
Zwahlen, et al.(1988)は,カーディスプレイへの1 回の注視時間が2 秒を超えると危険であると指摘している.しかし,表1 より28 個が2 秒を超える注視であった.

平均速度12 km/h 以下で2 秒を超える注視があることから,低速走行時における支援映像の提供は,長い注視を誘発する可能性があることが示唆された.平均速度13 km/h 以上では,1 秒前後の注視時間となっていた.これは麻生・村木(1999)の,ナビゲーションに表示された情報量が多い場合,運転者は1.4 秒以内の注視を数回に分けて行い,情報を読み取る傾向を支持する結果と言える.以上の結果から,支援映像の提供は,低速走行時を避けた区間及び停止してからの区間で行うべきである.

結論
システム使用時において右からの交差車両が来ない場合,一時停止率の低下や右方向への注視が減少する傾向が見られた.よって交差車両が来ない時の支援方法について,今後検討しなければならない.また低速走行時において,支援映像に対する2 秒以上の注視が見られた.よって,支援映像の提供は,低速走行時を避けた範囲で行うべきである.本研究の結果に基づき提案される支援方法は,約15km/h までに一時停止を促す音声及び映像による注意喚起を行い,その後停止が確認されてから,支援映像を提供する方法である.より安全性を高めるために,今後の研究が求められる.

文献
麻生勤・村木俊彦 (1999). 車室内に呈示された文字情報に対する視認行動 自動車研究, 21, 50-54
神田直弥・石田敏郎 (2000). 航空機事故とヒューマンファクター オペレーションズリサーチ, 45,574-579
神田直弥・石田敏郎 (2001). 出会い頭事故における非優先側運転者の交差点進入行動の検討 交通科学協議会誌, 1, 11-22
Zwahlen, T. H., Adams, C. C., & Debald, P. D. (1988).Saefty aspects of CRT touch panel controls inautomobiles. Vision in Vehicles, 2, 335-344
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