早稲田大学石田研究室


メインタスクの課題特性による作業負荷特性の実験的検討

曽我部 真樹



1.はじめに
作業者のワークロードの適正な管理は,作業者の疲労やヒューマンエラー防止の観点から極めて重要である.ワークロードの評価方法は生理的指標,主観的指標,行動的指標に大別されるが,これらを組み合わせた測定が必要であるとされている.しかし,実際の労働環境下においては,電極装着に伴うわずらわしさや,主観評価を実施するための作業中断などの問題があり,これらの実施が困難である場合も多い.
 実験環境下のみでなく,通常の労働環境における評価手法として,実際に実施している作業(主課題)のパフォーマンスをもとにワークロードを評価しようとする試みもある.曽我部ら(2003)は,作業の後半でタイムプレッシャーがかかるような状況で入力作業を行わせ,作業後半では入力時間が減少し,入力間違いが増加する反面で,確認時間は変化しないことを指摘した.しかし,実施したのは単一の課題であり,これらの特性が課題特有のものであるかについてのさらなる検討が求められた.これに対して,遠藤・藤垣(1998)は行動を情報処理のレベルから3種類に分割するSRKモデルを用いて作業を分類し,作業負荷の特性を検討している.この結果,最も高レベルの知識ベースの課題では思考時間が長いために単位時間当たりの達成量のばらつきが大きく,最下位のスキルベース,中位のルールベースの課題とは異なる特性を持つことを示した.一方,スキルベースとルールベースの課題については大きな差異が見出されなかった.
 しかし,ルールベースの行動を行う場合,適用されるルールには単純なものもあれば複雑なものもある.遠藤・藤垣(1998)はルールベースの課題として2桁の加算課題のみを実施していた.そこで本研究では複数のルールベース課題の実施を求め,ルールの特性によるパフォーマンスの差異についての知見を得ることを目的とした.あわせてスキルベースの課題についても実施を求めることで,スキルベースとルールベースの課題の特性についても検討を行った.

2.実験
2-1. 被験者
大学生及び大学院生20名(平均年齢23.4歳)

2-2. 実験装置・器具
・ Windows2000ノート型 PC(SHARP:Mebius Note PC-GP10-BM)
・ USBテンキーボード(サンワサプライ:NT-2USV)
・ デジタルフリッカ(竹井機器工業)

2-3.作業課題
・ スキルベース課題:d,f,j,kで構成される4文字文字列の入力
・ 単純なルールベース課題:2桁同士,3桁同士の加算(いずれも繰り上がりあり)
・ 複雑なルールベース課題:命令記号による文字列並び替え(難易度の異なる2種類でcab-e,cab-dとする)

2-4. 実験手順
 入力したキーのログと時間間隔を記録するプログラムを作成し,5つの課題の実施を求めた.作業時間は疲労の影響をできる限り排除し,かつ十分なパフォーマンスデータを確保するため,各課題につき15分間とした.各課題を実施する上で,なるべく速くかつ正確に入力し,間違えた場合には回答を修正することを求めたが,作業ペースは被験者に委ねた.
なお,課題の前後には自覚症状しらべとフリッカーの測定を行い,課題後にはNASA-TLXによる作業負荷の評価を求めた.5種類の課題の実施順はカウンタバランスした.

3. 結果および考察
3-1. 生理指標および主観的指標
 フリッカー値は作業後に低下しており,低下率は課題による差が見られなかった.NASA-TLXでは,スキルベースの文字入力課題ではフラストレーションが高い反面,3桁計算課題,cab-d課題をはじめとするルールベースの課題では知的・知覚的欲求が高く,作業負荷の内容が異なっていたといえる.また自覚症状しらべからは,注意・集中の困難の訴え数が文字入力課題で顕著に増加した.計算課題では頭がぼんやりするとの訴えが多かった.
 同じ入力作業を行う上でも,知的要求の少ないスキルベース課題では,注意・集中の困難を感じ,作業による負担を高く評価しているといえる.ルールベースにおいては,適用するルールによって疲労感や負担評価が異なり,3桁計算課題の実施を最も困難に感じていたと考えられる.

3-2. パフォーマンス
3-2-1. 経過時間ごとの課題達成量
 15分間を100秒×9ブロックに分割し,達成率の推移を調べた.その結果,いずれの課題も達成率に大きな変化は見られず,累積達成率は直線的に増加していた.

3-2-2. 分析項目
キー入力のログをもとに,1問の回答を[1]回答全体時間,[2]回答時間,[3]回答入力時間,[4]文字間隔,[5]確認時間,[6]思考時間の6項目に分割した(図1,図2).エラーは修正をせずに誤ったまま決定キーを押した問題数と,修正はしたが1つでも誤ったキーを押した問題数の総和とした.また,被験者ごとに課題別に90パーセンタイルを超える値を遅延入力と定義した.これら各項目について平均値,変動係数,遅延入力を除いた場合の平均値,変動係数,外れ値出現率,誤答率を算出し,それぞれの課題で分散分析を行った.

3-2-2. 各項目平均時間による分析
 [1]回答全体の平均の分析では遅延を含んだ場合,抜いた場合いずれにおいても,文字列入力,2桁計算の所要時間に差はなく,3桁計算,cab-e,cab-d課題の順で長くなっている(p<.01).これは,下記に示す作業に使用するルール(手順)の多さが起因していると考えられる.

1. 文字列入力に必要なルールは刺激(サイン)に対して,1つの行動が引き起こされる.
2. 2桁計算課題には1桁ずつ2回繰り上がる加算を行う.
3. 3桁計算課題には1桁ずつ3回繰り上がる加算が行われる
4. cab-e課題には命令を4回実行する
5. cab-d課題には命令を5回実行する

 これらのルールが最も影響するのは,思考(ルールの適用を行う)時間である.[6]思考時間の平均値による分析結果では,遅延の有無に関わらず同じ結果となり,文字列入力<2桁計算=3桁計算<cab-e<cab-d課題の順で長くなっている(図3).そこで,[6]思考時間を抜いた場合の[2]回答時間についての検討の結果,3桁計算課題とcab課題での有意差が認められなくなった.つまり,複雑なルールベース課題間では[6]思考時間が回答全体に大きく影響していることが確認された.しかし,文字入力や2桁計算との有意差は依然として存在するため,[6]思考時間以外のパフォーマンスに関しても差異があるといえる.
[3]回答入力時間に関しては,遅延入力の有無に関わらず2桁計算課題が他に比べ,有意に短くなっている(p<.01).これは,2桁計算課題の入力キー数が少ないことが考えられる.そのため,[3]回答入力時間を入力キー数で除した[4]文字間隔について調べてみたが,2桁計算課題が最も短く,次いで3桁計算課題,文字列入力となり,cabの2課題は2倍以上の時間を要していた(図4).特に遅延を除外したときにその傾向が顕著となっている.
文字列入力から決定キー入力までの[5]確認時間については,遅延入力がある場合,ない場合いずれにおいてもcab課題がその他に比べ有意に長かったことから,知的要求が高い場合における入力作業では,低い場合に比べてより慎重に確認していると考えられる(図5).
以上の結果により,cab課題のような実行されるルール(手順)の多い課題では[6]思考時間だけでなく,入力や確認においても時間をかけて慎重に行っていると考えられる.また,文字列入力課題,3桁計算課題における[4]文字間隔,[5]確認時間は似た傾向であるが,[6]思考時間の差が回答全体に影響を与えているといえる.

3-2-4. 各項目変動係数による分析
各課題について[1]から[6]の変動係数を求めた.変動係数は作業実施の安定度の指標となる.平均値においては,遅延入力の有無による差はほとんどみられなかったが,変動係数の場合には,遅延入力の有無により,結果が大きく異なった
遅延入力を除かない場合においては,[6]確認時間では知的・知覚的欲求が高いとされた3桁計算課題,cab-d課題が大きかった.また,[2]回答時間,[3]回答入力時間,[4]文字間隔において,2桁計算課題が最も大きくなった.一方で,遅延を除外した場合には,[2]回答時間,[3]回答入力時間,[4]文字間隔の差は認められなくなった(図7,図8,図9).これらのことから,2桁計算課題は,入力のペースは速いが,入力時における遅延が作業のパフォーマンスに大きく影響を及ぼしているといえる.

3-2-5. 経過時間ごとの外れ値出現率
 [1]回答全体における遅延入力の出現率では,文字列入力課題とcab-d課題で,前半の遅延入力が多くなっているという傾向がみられた.cab-dに関しては,作業前半での[6]思考時間の遅延入力出現率が高く,これが[1]回答全体の遅延入力出現率に影響を及ぼしていたと考えられる.文字列入力課題に関しては,[4]文字間隔,[5]確認時間個別に前半で出現率の増加が見られるが,統計的には有意でなかった.ただし,双方を足し合わせた回答入力時間においては,有意差がみられた.したがって,cab課題については,思考過程が遅延に影響を与え,文字列入力課題においては入力・確認過程が影響を与えていたと考えられる.

3-2-5.誤答率
誤答率の比較を行うと,文字列入力,cab課題が多く,計算課題が有意に少ない結果となった(p<.01).この結果は,主観的ワークロードを必ずしも反映しておらず,これまでのキー入力の結果とも異なる結果となった.文字列入力課題では,主観的な疲労感と対応した結果が得られたと推察される.cab課題に関しては,新規性の高い複雑な課題を実施したため,誤答率が高くなったと考えられる.

4. まとめ
 ルールベースの課題では,ワークロードが高く評価されていた場合でも,入力時間が必ずしも短くならないことから,キー入力課題において曽我部ら(2003)の指摘したワークロード下でのパフォーマンス特性は,課題特有の特性であったと考えられる.2桁計算課題は入力作業は速いが突発的な遅延が見られ,難易度の低いルールベース課題では達成量や精度ではなく,こうした遅延をワークロードの指標とすることの可能性が示唆される.一方で,実施に困難を感じていた課題では[5]確認時間の変動係数が大きいという特徴が見られた.これはルールベース下での作業中における,課題の困難度を評価する指標となりうると考えられる.

参考文献
遠藤正樹, 藤垣裕子: 思考作業の階層モデルと作業負荷特性の分析, 人間工学, 34(1), 1-8, 1998
曽我部真樹,三品誠,神田直弥,石田敏郎:主課題のパフォーマンスによる作業負荷評価の試み,第33回日本人間工学会関東支部大会講演集, 29-30, Nov., 2003
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