早稲田大学石田研究室


運転者群におけるハザード知覚の違い

斉藤 隆太


1.序論
交通事故件数は依然として高い水準を維持しており,人的損失額,物的損失額,合計経済的損失額は年間で3兆円に上るほどである.
交通事故は運転者の行動の結果として発生する.運転行動を決定している要素は様々であるが,減速や回避,確認などの安全な行動をとるか否かに大きく影響している要因としてリスク知覚が挙げられる.危険認知は大きく分けるとハザード知覚とリスク知覚に分けられる。ハザード知覚とは事故に結びつくかもしれない個々の対象や事象などの客観的事態を判別、把握する心的過程のことである.(図を参照)具体的には歩行者や自転車などの対象や路面、交差点、天気などの環境のことである。またリスク知覚とは知覚されたハザードに基づき、交通状況全体で事故の発生する可能性がどの程度あるかを主観的に評価する心的過程のことである。リスクを知覚する際には、知覚されたハザード以外に自己の運転能力に関する評価が関係してくる。交通場面ではドライバーはまず、ハザードを知覚し客観的事態を把握する。次に知覚したハザードを基に自己の運転能力を考慮しながら事故の可能性を評価している。そのリスク知覚と実際のリスクにずれが生じ,リスク知覚よりも実際のリスクが大きいときに事故が発生する.つまり,運転者がリスクをどのように知覚しているか,そして実際のリスクより感じているリスクが強いかどうかなど,リスク知覚が交通事故に関係している.初心者の事故が多いのはリスクの知覚に問題があるからだと言える.交通事故件数の減少,そして死傷者数の減少の為には,初心者経験者間のリスク知覚の違いを明らかにし,初心運転者教育に生かしていく必要がある.そこで本研究では,運転者の危険に関する認識を調査し,運転経験によるリスク知覚の違いを明らかにする.初心者は経験の量も少ないために,リスク知覚のタイミングも掴み切れていないので事故に合いやすとも言える.
よって初心者と経験者のリスク知覚の違いを明確にし,その違いを初心者の教育に役立てることで事故の減少につなげる事ができる.先行研究では交通場面の静止画を見せ,リスク評価させるものや,一定時間の動画全体を評価させるものが主流であった.しかし実際の交通場面では,リスク評価はより連続的に行われているはずである.そこで本実験では初心者と経験者のリスク知覚の違いをリアルタイムで被験者の感じた危険度を記録する方法で,明らかにしていく.

2.実験
 被験者に運転席から撮影した刺激映像を見せ,そこから感じた危険度を,危険度測定レバーを用いて連続的にコンピュータに記録した.被験者は普通運転免許証を有する大学生および大学院生21名とし,今までの走行距離が10000Km以上を経験者,10000Km以下を初心者とした.記録したデータを刺激映像と対比させ,経験者群と初心者群及び男女間の比較を行った.なお比較の際に注目した点は,危険と判断されるポイントとそのポイントへの危険度の上昇,そのポイントからの危険度の低下の程度である.

《危険度測定レバー》について 
本実験で,被験者の評価した危険度をリアルタイムで測る為に危険度測定レバーを作成した.危険度測定レバーのレバー部分と可変抵抗がつながっている.常に流れている電流が,被験者がレバーを動かす事によって変化する.その変化をコンピュータで取り込み,危険度データとすることとした.なお本レバーの製作上,電流が大きいほど危険が少なく,電流が小さいほど危険が大きいことになっている.

3.結果
《経験者群と初心者群の比較》
全体的に見ると,初心者は危険因子がまさに目の前に来ているときに危険度が高くなっていた.また,初心者は主に交通他者に危険を感じている.それに比べ経験者群は危険因子がまさに目の前に来ているときに危険度が高くなっている事も多いがそれ以外で,見通しの悪いカーブやT字路,十字路などこれからの危険が予想される場所で予め危険度が高くなっていた.経験者は運転に慣れている為,潜在的危険にも危険を感じると考えられる.

 危険ピークに対する危険度の立ち上がりは経験者の方が初心者より5パーセンタイルを越している.このことから,経験者は初心者よりも,予め遠くで危険因子を認知している事が言える.危険度ピークからの危険度の低下についても経験者は初心者と比べて早く,その分大きな山がいくつも出来ている.このことから経験者は,危険度ピークからの危険度の低下が早くその分次の危険を探していると言える.









《男性群と女性群の比較》
ほとんどの刺激映像(10場面中8場面)でグラフに関して言えば振幅の差はあるが,形に大きな差は見られなかった.そして男性の方が緩やかな曲線を描いている.このことから男女間では危険を感じる場所,タイミングについてほぼ違いが無いと言える.そして女性より男性の方が緩やかな曲線を描いている事から,男性の方があまり危険を感じていないとも考えられる.
危険因子については,男性よりも女性の方が潜在的危険に多く反応している.5パーセンタイル値を越えるタイミングは男女差がほとんど見られなかった.しかし,危険度ピークからの危険度の低下については男性の方が女性と比べて早い.経験者初心者の比較では,危険度ピークからの危険度の低下早い分,山がいくつも出来ていたことが言えたが,今回はそれが言えなかった.





4.考察
 経験者群と初心者群では,初心者は交通他者がまさに目の前に来ているときに危険度が高くなっており,初心者は主に交通他者に危険を感じていた.それに比べ経験者群は目の前にある交通他者以外に,早い段階から反応していた.このことから,経験者は初心者よりも,予め遠くで危険を認知していると考えられる.
 男女間の比較では,男性よりも女性の方が潜在的危険に強く反応していた.危険度のピークからのレバーを戻す速さは男性の方が女性よりも早かった.このことから男性より女性の方が危険の感受が丁寧であると言える.

4.結論
 初心者は交通他者に強く危険を感じるのに対して,経験者は交通他者以外に潜在的危険危険を強く感じている.経験者と初心者の事故割合の差は潜在的危険を感じるか否かにあると考えられる.従って初心者の事故を減らすためには,経験が身につけている潜在的危険に対する感受性を,初心者に対して早く安全に教育する必要があると考えられる.
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