早稲田大学石田研究室


昼間点灯の実態調査

松本美沙



1.はじめに
2003年の道路交通事故による死者数は7,702人と,1957年以来46年ぶりに7,000人台にまで減少するに至った.しかし,交通事故発生件数及び負傷者数に関しては近年増加傾向にあり,依然として国民の約100人に1人が交通事故により死傷するという厳しい状況が続いていることに変わりはない1)2).
政府は今後10年以内に交通事故死者の半減を目標に掲げ,種々の対策が検討されている.夜間に限らず日中もライトを点灯して走行する「昼間点灯」もその中の候補施策として挙げられているものの一つである3).
車両の被視認性は背景との輝度比によって変化し,輝度比が高いほど被視認性は高くなる.昼間点灯は,車両自体に光源を持たせることで輝度比,すなわち被視認性を高く保つことを目的としたものである.
以下に現在先行研究で得られている昼間点灯の効果を示す(表1-1).


昼間点灯により上記の効果が得られることから,昼間点灯には交通事故防止の効果があることが期待され,諸外国を中心として昼間点灯の交通事故防止効果の有無を検討する研究が行われている.
過去の研究によると,昼間点灯の交通事故防止効果を疑問視する研究5)6)も若干見られるが,事故防止に効果有りとする研究4)7)8)が目立つ.これらの研究では,昼間点灯が事故防止効果を発揮するのは日中の車両相互事故であるとされている.事故削減効果の範囲については実施各国により一定の削減率が見られるわけでは無いが,車両相互事故の中でも特に正面衝突及び出会い頭事故に効果が大きいとされている.
だが,緯度が低く日照時間が長いという天候条件,二輪車の走行数が多いといった面で日本の交通環境は昼間点灯を実施する諸外国と大きく異なり,日本においてもそれらの国と同様の効果が得られるのかということには疑問が残る.そのため,日本の交通環境下での効果の検証の必要性があるが,日本における昼間点灯の効果の有無に関する研究はほとんど行われておらず,また,どのぐらいの車両が昼間点灯を実施しているのかという基礎的なデータもない.
よって,日本における昼間点灯の効果についての研究,及び,現在各地方自治体や事業所,個人単位で行われている,昼間点灯実施の現状についての調査の必要性があると言える.
本研究では,実際の道路を走行する車両の昼間点灯の実施状況を調査し,現在の日本における昼間点灯の現状,具体的には,交通環境,特に照度の違う調査地における昼間点灯率を明らかにすることを目的とした.

2.調査
調査日は2004年9月21日〜11月17日の晴天の平日とした.晴天時が最も照度が高いため,昼間点灯車両数が少ないと予想される.そのため,晴天時の点灯車両数が,昼間点灯を常時習慣として実施している車両数に近似すると考えられるためである.
また調査日を平日に限定したのは,週末には車種の割合等が変わってしまう可能性があるためである.また調査時間帯は,日中照度が高い時間帯の120分,及び,日没時刻の105分前からの120分の計4時間とした.

調査地は東京23区内の以下3箇所とした.
・片側2車線道路
東京都道305号芝新宿王子線(明治通り)
・高架下片側2車線道路
国道20号線(甲州街道)
・片側1車線道路
東京都道8号千代田練馬田無線(富士街道)
以上の調査地において,延べ13350台の車両を観察し,以下3点を記録した.
・10分おきの照度
・昼間点灯車両が点灯しているライトの種類
・昼間点灯車両数及び車種 
なお,本調査では車種を以下の16種類に分別することとした.



タクシーは事業所単位で昼間点灯が推奨されており,昼間点灯を実施している車両が多いことが予想された.そのため,タクシー単独での昼間点灯率を調査する必要があると考えた.よって,事業用普通車についてはタクシーとタクシー以外の車両に分類することとした.

3.結果と考察
本調査では,ライト点灯車に関して,点灯しているライトの種類を前照灯,車幅灯,フォグランプ,その他のライトの4種類に分別し,その中のいずれかを点灯して走行していれば昼間点灯車であると見なした.なお調査対象車に,その他のライトとして市販のLED(発光ダイオード)ライト以外のライトを点灯している車両は見られなかった.
また,照度に関しては値を対数変換して用いた.以下に対数変換照度と実照度の対応表を示す(表3-1).

日中の昼間点灯率
前半2時間の点灯車数は347台,昼間点灯率は5.02%であった.なお地点別には,片側2車線道路6.11%,高架下片側2車線道路4.78%,片側1車線道路3.35%であった.

車種別の比較
タクシー,自家用・事業用バス及びその他の点灯率が突出して高い.また,ほとんどの車種で自家用車よりも事業用車の点灯率が若干高い結果となっている.これは,事業所による昼間点灯の推奨の結果,また,職業運転者の安全意識の表れであるとも考えられる.

照度及び点灯率の時間的推移
以下に,各調査地における照度及び前照灯・車幅灯の点灯率の時間的推移を示す.なお,車幅灯点灯車両とは車幅灯のみを点灯している車両を指す.



片側2車線道路,高架下片側2車線道路に関して,前照灯と車幅灯の点灯率を比較すると,いずれの調査地でも,点灯率が増加し始める時間帯にはそれほど差が見られないが,車幅灯の方が点灯率の増加が早いことが分かる.これは運転者が,薄暮時に照度が低下してきた際,まず車幅灯を,次に前照灯を点灯するという2段階点灯を行っているためであると考えられる.
片側1車線道路に関しては,他の2箇所と比較して薄暮時以降の点灯開始自体が遅いことが分かる.そのため,車幅灯のみの点灯車数が前照灯の点灯車よりも多く,またその時間帯も長い.これ以降であれば他の調査地と同様2段階に点灯し,前照灯の点灯が増えることが予想される.この理由としては,まず調査日の日没時刻自体が早く,また,調査道路が東西に走る道路であり日没まで建築物等で太陽光が遮られることが無かったこと,高い建築物が無いことで視界が開けており照度に差が無くても運転者にとって明るく感じられる可能性があるため,運転者がまだ点灯する時間帯ではないと判断した可能性が考えられる.

照度と点灯率の関係
 調査地別に,前照灯点灯車,車幅灯のみの点灯車について照度別の点灯率を算出した.照度の異なる調査地間で比較するために,以下に高架下の調査地と他の調査地を別に示す.



点灯車の割合が高くなる照度が大きく異なることが分かる.この要因としては,まず運転者が薄暮時以降のライトの点灯を,照度依存ではなく周辺の状況依存で行っている可能性,また日中の照度が低いため夕方の照度の低下に気づきにくかった可能性が考えられる.高架下は日中の照度が低く夕方照度が低くなり始める時間も比較的遅い.このことが高架下の照度の低さが点灯率に結びつかない要因であると思われる.
照度が高い日中の昼間点灯に関しては,前照灯点灯車が車幅灯点灯車に比較して若干多い.これは,昼間点灯が前照灯の点灯であると社会的に認知されている点,また昼間点灯として前照灯点灯に取り組む企業が見られる点が原因であると思われる.
若干車幅灯のみの点灯車両も見られるが,それは一般車等が日中に前照灯を点灯して走行することで,パッシングを始めとする,昼間点灯に対する社会的認知度の低さから来る誤解が生じやすいことである.また対向車の眩しさ等の問題もあり,前照灯の点灯に運転者が心理的抵抗を感じている可能性が考えられる.

4.結論
・夕方薄暮時に照度が低下してきた際,まず車幅灯を点灯し,さらに照度が低下したら前照灯を点灯するという2段階点灯が見られる.
・自家用車よりも事業用車の点灯率が高い傾向がある.これは,事業所による昼間点灯の推奨の効果,自動車運転を仕事とし,顧客や顧客の荷物を運搬する運転者の安全意識の表れであると考えられる.
・大型車両の点灯率の高さに関しては,運送会社の昼間点灯への取り組み,及び一度事故を起こせば重大事故になる可能性が高い大型の車両を運転しているという,運転者の安全意識の表れではないかと考えられる.
・タクシーについては,昼間点灯用に車両にLEDライトを装備したタクシー会社が見られる.
・薄暮時以降の点灯に関しては,照度に依存しているわけではなく,時間帯,周囲の車両の点灯状況に依存している可能性が示唆される.

5.今後の課題
運転者が実際には照度依存で点灯を行っているわけではないことから,さらに調査地を増やし,様々な交通環境下での昼間点灯の実態を調査する必要がある.また上記の理由から,ライトの自動点灯装置の有効性を検討する必要がある.さらに,実際の点灯状況のみでなく,質問紙調査,実験的研究等の必要性があると考えられる.

参考文献
1)(財)交通事故総合分析センター:2003 交通事故統計年報平成14年度版
2)内閣府:2004 交通安全白書 平成16年版
 http://www8.cao.go.jp/koutu/index.html
3)(社)交通科学研究会:2004 昼間点灯に関する調査研究 報告書
4)Koormstra,M.,BijleveldF.&Hagenzieker,M.:1997 The safety effect of daytime running lights,R-97-36, SWOV Institute for Road Safety Research, The Netherlands
5)Williams,A.& Farmer,C.M.:1996 Comment on Theeuwes and Riemersma’s revisit of daytime running light, Accident analysis and Prevention,vol.28,no.4 pp.541-542
6)Stone,M.:1999 Question of probability in daytime-running-light argument, Accident analysis and Prevention,vol.31 pp.479-483
7)Elvic,R.:1996 A meta-analiysis of stusies concerning the safety effect of daytime running lights on cars, Accident Analysis and Prevention,vol.28,no.6 pp.685-694
8)Farmer,C.& M.Williams,A.:2002 Effects of daytime running lights on multitiple-vehicle daylight crases in the United States,     Assident analysis and Prevention,vol.34 pp.197-203
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