早稲田大学石田研究室


自動車運転者の自転車に対する注視行動の分析

萩原弘治


1. 1.はじめに
平成14年度の交通事故統計年報によると,近年わが国の死亡事故件数が減少傾向を見せる中,自転車の死亡事故件数は横這い状態にある.自動車では運転者の生命を守るための2次的手段を講じることが出来るが,自転車ではそのような安全対策を行うことが難しい.また,自転車は巻き込まれる形で事故に遭遇することが多い.このことから,自転車事故の削減には自動車運転者の教育による行動改善が必要であると考えられる.そのためには自動車運転者がどのように自転車を注視し,運転を行っているのかを明らかにすることが,不可欠であると考えられる.自動車運転者の注視行動全体を取り扱う実験(三浦1996)などは盛んに行われてきたが,自転車に対する注視に特化して行われた研究はほとんど存在しない. 
本研究では自動車運転者の自転車に対する注視行動を分析することで,自動車運転者の自転車に対する注視行動の特性を解析することを目的とする.

2.実験
2-1.実験映像の作成
実際に路上を自動車で走行して撮影した映像から16パターンの実験映像を作成した.それぞれの実験映像の長さは約15秒程度である.また,被験者に実験の意図が分からないように,分析に用いない約15秒の交通場面の映像30シーンを用意した.表2-1にその一覧を示す.
各実験映像の間隔には3秒間の暗転映像を挿入した.順序効果を防ぐために,実験映像は4パターンのランダムな提示順序を作成し,各被験者に均等に提示した.それぞれの映像の長さは全体で15分程度である.


2-2.被験者
被験者は普通自動車免許を取得している大学生,及び大学院生21名.被験者は今までの走行経験が10,000km以上の者と10,000km以下の者を分類し,前者を経験大群,後者を経験小群とした.被験者の内訳は男性の経験大群が5名,経験小群が6名,女性の経験大群が4名,女性の経験小群が6名であった.

2-3.実験装置,機材
今回の実験に使用した機材は以下のとおりである.
・アイマークレコーダー(nac EMR-8)
・プロジェクタ(EPSON ELP-735)
・映像投影用DVデッキ(SONY WV-DR9)
・アイマーク記録用DVウォークマン(SONY VIDEO WALKMAN GV-D900NTSC)
・投影スクリーン(UCHIDA)
・被験者用の椅子
・機材設置用としてOAデスク,および机
・照度計(KONICA MINOLTA ILLUMINANC METER T-10)
・輝度計(MINOLTA LS-110,LS-100)

2-4.実験概要
実験を行う前に実験室の照度と投影用スクリーンの輝度を測定した.実験室の照明を落とし,スクリーンに実験映像を投影した状態での眼前照度は約15.5lx,スクリーンの輝度は18から25cd/m2であった.
実験では,被験者に実験内容と要領について教示した後,アイマークレコーダー(nac EMR-8)を被験者に装着し,キャリブレーションを行い,実験室の照明を落とし,実験映像を投影した.この映像を見ているときの被験者の注視点の軌跡を録画し,これをフレーム解析にかけた.
解析に先立って,島崎(2004)の実験を参考に,実験映像に映っている注視対象を全て40の対象に分類するリストを作成した(表2-2).

このリストに従い,被験者のアイマークがどこに留まっているかを映像のフレームごとに分類した.今回の解析では1秒間を30フレームに分割して行った.このとき注視として扱うものは,対象にアイマークが4フレーム(約0.13秒)以上留まったものとした.また注視点がスクリーン上を移動しても,同じ対象の上に注視点が留まっている場合は注視として扱った.各注視については,注視対象,停留時間を記録し,注視と注視の間のアイマークの移動,まばたきは注視点移動時間として記録した.フレーム解析は実験映像の中でも比較分析に必要な区間をそれぞれの映像の中で選定し,その区間についてのみ行った.それぞれの区間の長さは比較分析の必要上から一律5秒間(150フレーム)とした.

3.結果と考察
分析ではシーンごとの注視対象に対する注視時間の割合(以下,注視割合)を比較した.
このとき,表2-2で示した対象分類では分類数が多く,各サンプル数がきわめて少なくなるため,より大きなくくりの上位分類を作り,それに基づき対象のデータをまとめて,分析を行った.
上位分類は基本的に表2-2の大分類を元に改訂を加えて作成し,路面,車,歩行者,自転車,障害物,標識,固定物,その他,の8分類とした.
また,自転車の有無で変化した注視対象の増減率もしらべた.



自転車以外の交通他者のいない場面(図3-1,3-2)で,自転車への注視は,主に路上と障害物から割かれていることがわかる.増減率のグラフで車の減少率が大きく見えるのは,実験映像に映っていた割合がもともとごく短いためである.この実験映像は路上で撮影したため,本来車のいない条件であるが,ごくわずかに車が映ってしまっていた.
車の存在する場面(図3-3,3-4)で,自転車への注視は,主に障害物から割かれている.また,車への注視は自転車の有無に関わらず,確保されていることが現れている.
歩行者のいるシーン(図3-5,3-6)で,自転車への注視は主に歩行者への注視から割かれていることがわかる.このことは,ドライバーは自転車と歩行者を同等なものとして認知していることを示唆している.
すべての交通他者がいる場面(図3-7,3-8)で,自転車への注視は,主に路上と障害物から割かれている.また,単独同士では削られていた歩行者への注視が,自転車のある条件でも確保されていることが分かる.これは,ドライバーが多くの交通他者のどれもを認知しようとするために,このような傾向が現れたのではないか.
全体を通して,車への注視割合があまり変化しない傾向が見られた.車への注視は自転車の有無とあまり関係なく確保されているようである.
自転車を見ている割合のみに着目すると,自転車単独のとき(図3-1)に比べて,歩行者と自転車が同時に存在しているとき(図3-5)では,歩行者に対する注意と自転車に対する注視は同程度になっている.
自転車単独のとき(図3-1)と,車と同時に存在しているとき(図3-3)では車への注視の割かれ方が自転車よりも大きくなっている.
歩行者と同時に存在するとき(図3-5)と,車と同時に存在するとき(図3-3)を比べると,車と同時に存在するときのほうが,自転車に対する注視の割合が少ない.
ただし,自転車,歩行者,車のすべてが同時に存在するとき(図3-7)には,自転車単独の場合(図3-1)と同程度に自転車への注視の割合が割かれている.
次に自転車の存在するシーン全体と自転車の存在しないシーン全体での注視割合を比較した.



図3-9と図3-10を見ると車への注視割合が変化しない傾向がよりはっきりと現れた.また,大きく注視割合が減っているのは主に障害物と路上である.

4.結論
すべての結果から,以下の内容を結論付けた.
・自転車が車と共に路上にある場合,自転車への注意は少なくなる傾向にある.
・自転車が歩行者と共に路上にある場合,自転車への注意は歩行者への注意と同程度である.
・自転車を見るためにドライバーは主に,路上と障害物への注意を削っている.

5.反省点と今後の課題
実験映像の統制は実際の路上の映像では非常に難しく,実験映像の条件を厳密にそろえることが出来なかった.この点を改善するためには実験映像の作成方法自体を見直す必要がある.具体的にはCGなどを用いることが考えられる.

参考文献
(財)交通事故総合分析センター 2003 交通事故統計年報平成14年版
島崎敢 2004 事故多発運転者と優良運転者の注視特性,日本交通心理学会発表論文集,69号,pp40-41
三浦利章 1996 行動と視覚的注意,風間書房,第2部,第4章,pp93-166
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