早稲田大学石田研究室


無信号交差点における優先側走行車の運転行動に関する研究

山本 宙志


1.はじめに
 わが国で発生する交通事故の約6割が交差点やその付近で発生している.その交差点事故の4割を占めるのが出合頭事故である.さらに,無信号交差点の場合,出合頭事故の占める割合は6割を超える1).出合頭事故とは2台の自動車が同時に交差点に進入して衝突する事故である.
 交差点における出合頭事故の研究はこれまでに数多くなされているが,その多くが非優先側運転者を対象としたものである.しかし,出合頭事故は優先側,非優先側双方の運転者が相互に関わりあって発生する事故であり,非優先側だけでなく優先側運転者にも焦点を当てる必要がある.道路交通法によると,無信号交差点では「非優先側走行車は優先側走行車の進行を妨害してはならない」となっているものの,その後に「交差点に進入する車両は出来る限り安全な速度と方法で進行しなければならない」とある2).これは非優先側走行車に限らず,優先側走行車にも向けられた条項である.
 優先側運転者に関する研究では,交差点で発生した出合頭事故の報告書の分析結果から「強い優先意識に基づく運転」,「速すぎる進入速度」が問題として指摘されている3).しかし,この結果は事故を起こした運転者の特徴であり,一般の優先側運転者がこのような運転をしていると示すものではない.
 そこで優先側道路の走行車の運転行動を観察することで,一般の優先側運転者の運転特性や,交差点環境が運転者に与える影響を明らかにする.

2.観察
 実際の交通場面を走行車の後方から固定したDVカメラで撮影し,その映像からブレーキの有無と車両の速度を調べた(図-1).
その際に前方から運転者属性として「年齢」,「性別」,交差点状況として「対向車両」,「交差車両」,「歩行者・自転車」の有無,運転者がカーブミラーや交差道路を確認していたかという「注意」の有無をチェックした.

 観察場所は信号のない,優先非優先が一時停止規制で分けられた交差点とした.選定条件としては以下の通りである.
1.道路形状が直線で前方の見通しがよい場所
2.近くに学校や店舗等の施設がない場所
3.優先側道路の交通量が多すぎない場所
4.歩行者.自転車等の数が多すぎない場所
5.交差道路にある程度の交通量がある場所
6.中央線のない1車線道路
 以上の条件のうち,1から4まではいずれも優先側運転者が自分の判断する速度で走行するための条件である.5,6の条件は,このような場所でないと交差道路の有無に関係なく通過してしまう車両が多いと考えられるからである.
 これらの条件を満たす十字路のうち,以下の3箇所を観察場所とした.
場所1:交差道路が左右とも見通しの悪い交差点優先側道路の交通量は1時間に100台
場所2:交差道路が左右とも見通しのよい交差点優先側道路の交通量は1時間に120台
場所3:交差道路が右側だけ見通しの悪い交差点 優先側道路の交通量は1時間に150台
各場所につき300台ずつ,合計900台について観察を行う.車両が複数台並んできた時は先頭車両のみを観察対象とし,先頭車両が後続車で隠れてしまい,ブレーキランプや交差点進入時が確認できなかった場合その車両は分析対象から除外した.
車両の走行速度はフレーム解析で行った.一定時間の車両の大きさの変化の比率で距離を求め,そこから速度を計算するという方法をとった.変化の比率は撮影する角度や撮影した際の縮尺によって変わってしまうため,場所ごとに計算式を求めた.予備実験による速度の誤差はそれぞれ7%,6%,6%であった.
交差点進入時の速度変化を知るために,この計算を2区間において行った.交差点進入1秒前から交差点進入までの速度を”進入速度”,交差点進入2秒前から交差点進入1秒前までの速度を”接近速度”とした.また速度変化を分析するため,両速度の差を”速度差”とした.

3.結果
各場所において正面から観察した結果は以下のようになった.
場所ごとの運転者属性として性別,年齢を表したものが図-2,図-3,場所ごとの交差点状況として対向車,交差車,歩行者.自転車があった場合の場面数を表したものが図-4,図-5,図-6,場所ごとの運転行動として運転者が注意,ブレーキを行っていたかを表したものが図-7,図-8である.
また,運転行動についてχ2検定を行った結果,各場所での運転者の注意の発生の偏りには有意傾向があった(χ2(2)=5.29,0.10<p< 0.05).同じく各場所でのブレーキの有無の偏りは有意ではなかった(χ2(2)=1.62,0.10<p).
場所ごとの注意の発生とブレーキの発生についての内訳はそれぞれ表-1,表-2,表-3となった.各場所の注意とブレーキの有無については相関関係は特に見られなかった(場所1:R=0.207,P=0.000,場所2:R=0.236,P=0.000,場所3:R=0.195,P=0.000).



接近速度
次にフレーム解析の結果から,平均速度を場所別,性別,年齢別に比較したものが図-9,図-10,図-11である.観察場所は3箇所とも制限速度は30km/hなのだが,全体的に速い速度が出ていた.
また,対向車,交差車,歩行者・自転車,注意の有無について,それぞれの平均速度を表したのが図-12である.上のグラフが進入速度で,下のグラフが接近速度である.


 各場所の速度の比較を行うために,要因を場所,性別,年齢として接近速度,進入速度,速度差についてそれぞれ分散分析を行った.接近速度の時は場所×性別で有意な交互作用が見られ,従属変数が進入速度の時は場所×性別×年齢で有意な交互作用が見られ,従属変数が速度差の時は場所で有意な主効果が見られるというように,どの場合でも場所について何らかの影響があるという結果となった.
 次に全体での注意と交差点状況との関係を調べるために,要因を注意と,交差点状況の3要因のうちの1つとして,それぞれにおいて接近速度,進入速度,速度差についての2要因の分散分析を行った.その結果注意と他の要因との間には交互作用は見られなかった.
 対向車があった場合は接近速度,進入速度ともに対向車がいない場合より遅く,有意差が見られたが速度差には有意差は見られなかった.交差車,歩行者.自転車があった場合には接近,進入両速度および速度差に有意差は見られなかった.
 次に対向車,交差車,歩行者.自転車,注意の有無が場所ごとにおいてどの程度速度に影響するかを求めた.年齢,性別を要因として,そのほかに上記の対向車,交差車,歩行者.自転車,注意の4つの要因から1つずつ加えて,3要因の分散分析を行った.従属変数は接近速度,進入速度,速度差とした.
 注意を要因とした際には場所に関わらず,全体と同様に接近,進入両速度において速度が遅く,有意差が見られることが多かった.しかし速度差に関しては3箇所とも有意差は見られなかった.また,場所1と場所2では対向車を要因とした時に接近進入両速度ともに対抗車があったときは無いときよりも速度が遅く,有意差が見られたが,やはり,速度差では有意差は見られなかった.交差車で有意差が見られたのは場所2で接近速度を従属変数とした時のみである.人自転車に関しては有意差はまったく見られなかった.

4.結論
 今回観察した優先道路は全て制限速度30km/hなのだが,平均速度からわかる通り,全体的に速度が速かった.また,中央線のない狭い1車線道路なので対向車がある場合とない場合は速度に差があったが,交差道路側に車両がいた場合にはほとんど差が見られなかった.交差車両は,優先側運転者から見えるような位置にいた時のみ交差車ありとして集計したので,優先側運転者は交差車両を確認していながら減速していない,または非優先側道路に注意を払っていないといえる.この根底には先行研究で指摘された「優先意識の高さ」があるのだろう.「非優先側道路から車両来ているが,一時停止で止まるだろう」という考えである.
 先行研究で指摘された優先側運転手の優先意識の強さや速度の速さは事故を起こした運転者についてであったが,一般の運転手にもその傾向はあるといえる.
「非優先側は必ず止まる」という考えに基づいて運転することは危険であるという認識をもつことが大切である.

5.今後の課題
 本研究では3箇所において比較を行ったが,場所による違いが速度以外にあまり出なかった.今後の研究では場所の特徴がもう少し出るような観察方法や分析方法を考慮する.観察場所は1車線道路の十字路のみの観察であった.同条件で見通しの良し悪しの比較を行うためであったが,片側1車線道路やT字路との比較をする必要がある.交差点の数も3箇所だけであったが,観察場所を増やして観察を行う必要がある.
 また,今回は速度計測をフレーム解析で行ったが,レーダーを使用する等の明確な方法を検討する.

参考文献
1) 交通事故統計年報平成13年度版,財団法人交通事故統合分析センター,2001
2) 警察庁交通局新道路交通法令集,大成出版社,1991
3) 神田直弥.石田敏郎:出合頭事故の分析による優先側運転者の無信号交差点進入行動の検討, 交通心理学研究VOL.18,NO.1,16-17, 2002
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