早稲田大学石田研究室


交通事故時における過失割合

立石 憲男


1.はじめに
 今日の交通社会において運転免許を保持している人は約7,500万人に上ると言われている.(参考文献4)しかしそのような状況の中で運転免許保持者数が増加するにつれて交通事故の発生件数も増加してきている.交通事故を起こした場合に,損害賠償という問題が生じているが,その際に事故当事者にそれぞれ過失がある場合には,その過失を相殺する仕組みになっている.事故が生じた場合に,「どちらにどれだけの過失があるか」という,いわゆる過失割合について「認定基準」というものがある(参考文献3).一般の運転者が認識している過失割合はこの基準と一致しているのであろうか.一般運転者の判断と認定基準による割合がどれほどの誤差があるのかということに関して過去の研究は存在しない.

2.目的
 本研究では過失割合の認定基準と一般運転者が認識している過失割合の判断がどれほどの相違があるかということを調べることを目的としている.その際に性 別や免許の有無,事故類型やYG性格検査の結果などで判断にどれほどの相違があるのかも調べる.

3.調査
 本研究では「別冊判例タイムズNo.15 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(平成9年,全訂3版)」(以下模範解答とする)より事故事例を選出し,12事例のから成り立つ調査用紙を作成した.その12事例では事故に関わる2者にそれぞれの過失割合(%)を足して100になるよ    
うに数字で記入してもらう.
また調査用紙の記入事項の中で以下のものを被験者間因子として使用する.
1. 性別・免許
2. 免許の有無
免許保持者なら
@ 過失割合に関わる事故経験の有無
A 運転頻度
B 運転経験
C 運転に対する自信度
調査用紙の事例中で
1. 「歩行者と自動車の事故・自動車と自動車の事故」
2. 「歩行者と自動車の事故の中で歩行者に過失がある場合・自動車に過失がある場合」
3. 「交差点での事故・交差点でない場合の事故」
4. 「信号有の事故・信号無の事故」
5. 「右折車と直進車による事故で4種類の信号の変化」
を被験者内要因として使用する.
調査の対象者は大学生を中心とした115名(平均年齢21.9歳)であり,うち男性67名・女性46名,免許保持者83名である.




4.結果・考察
 データ処理の際,調査用紙の各事故事例の中で第一事故当事者(事故事例の中で過失割合が高い方)の過失割合に焦点を当てる.その過失割合と模範解答との差を各対象者のそれぞれ12事例に対して求める.各事例に対する模範解答との誤 差及びその絶対値は以下の通りである.

まずここで全事例の平均値を性別で比較した場合の誤差を表すと以下のようになる.


このグラフより男性のほうが第一事故当事者に対する過失割合を低く評価しているが,分散分析を行ったところ,有意差は見られなかった.
免許の有無で比較した場合は有意差が見られた.


その他の被験者間要因でも分散分析を行ったが,有意差は見られなかった.被験者間要因で有意差が見られたのは免許の有無だけであったが,免許保持者は,実際に自動車の対場を経験していることにより,過失割合の判断に差が見られたと思われる.一方,被験者内要因で比較した場合は前ページに掲載した全ての要因で有意差が見られた.



自動車と自動車の事故事例より自動車と歩行者の事故事例の方で誤差が大きく,過失割合も低く評価されている.
また,自動車と歩行者の事故事例の中でも第一事故当事者が自動車の場合と歩行者の場合とで比較した.

自動車が第一事故当事者の場合より歩行者が第一事故当事者の場合の方で誤差が大きく,過失割合も低く評価されている.



歩行者は自動車と比較して,「交通弱者」であるということは,誰もが認識していることであろう.歩行者が自動車に轢かれたときには,歩行者が優先であるために自動車に責任があると強く意識している人が多いということをこの結果が裏付けているのではないだろうか.
さらに信号の有無で比較した場合以下のような結果が得られた.


信号が含まれている事故事例より信号が含まれていない事故事例の方で誤差が大きく,過失割合も低く評価されている.信号が含まれている事故事例の中では,対象者にとって信号の色が過失割合の判断基準となっているため,誤差が含まれていない事故事例より小さかったのではないだろうか.
 信号の変化で比較した場合,以下のような結果が得られた.

事例1・5・8・10は信号の色だけが異なっており,事故形態は同じである.それゆえ,信号の変化で比較した場合事例8のみ過失割合が正の方向に評価された.これは全ての対象者が赤信号での交差点の進入禁止という意識が強いということを表していると考えられる.

5.各事例の過失割合
3ページ前から1ページ前にかけて調査で使用した事例を掲載してきたが,ここで模範解答となる過失割合を掲載する.



6.今後の課題
l 対象者を選ぶ時に性別・免許の有無・過失割合にかかわる交通事故の経験などデータを分析するにあたっての要因を比較する上で極力均等にするように心がける.
l 運転頻度・運転経験などを被験者間要因として考慮する場合には,実際の走行距離・運転時間など別の尺度で考慮するようにするべき.
l 事故事例の中に第一事故当事者が自分であるのかそうではないのか,事故が発生した後の状況(自動車の破損度・歩行者の症状など)といった事故事例の提示方法を変化させることによって対象者の性格との関連性を追及する.

参考文献

1. 交通事故事例における危険予見性と責任判断(千葉工業大学研究報告人文編)
2. 別冊判例タイムズNo.15 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 平成9年全訂3版(東京地裁民事第27部(交通部)編)
3. 交通事故の「過失割合の研究」〜交通事故工学の視点から「過失割合認定基準」の問題点を衝く(林洋 技術書院)
4. 交通統計平成13年度版(財団法人 交通事故総合分析センター)
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