早稲田大学石田研究室


長時間着座した際の快適性について

田島 小夜未



始めに
 私たちは当たり前のように「座る」という行為を行っている.しかし,一言で「座る」といったとしても,その形は実に様々である.
例えば,パソコンの前に座り30分たったとする.臀部も腰も痛くなり休憩を取りたいと向かった先が,リビングのソファである,ということが私にはよくある.どちらも同じ30分間座ったとしても,前者の「座る」という行為は落ち着いて作業を行うためのいわば補助としてのものである.一方,後者はそれ自体,つまり「座る」という行為がくつろぎや休息を与えるものとなっている.このように,「座る」という行為は様々な役割を持っていると言える.しかし,どのような「座る」であったとしても,時間が同じであるのであればその基本的な体の動きは共通したものがあると考えられる.

目的
 長時間椅子に座った際に,人間が快適だと感じる角度は,実際の体動(座りなおし)などとの間に関係性はあるのか.人間が気が付かないうちに体は疲労をしていることもあるのではないだろうか.長時間の着座の際により人間が快適に過ごせる状態を検討する.

被験者
早稲田大学女子学生 12名

実験方法
 被験者の前方に設置した100インチのスクリーンに90分間映画を投影し,その際の着座の状態をセンサーシートにて測定し記録した.(図1)
 センサーシートの関係上,10分ごとに測定・主観評価を行った.
 本研究は長時間の着座の研究のため,被験者には30分間連続して実験を行っていることを伝えた.10分ごとにデータをとめる事を伝えてしまうと,その際に被験者が休憩をしてしまい正しい確かなデータがでないといけないため.

実験手順
T.被験者にスポーツ仕様のTシャツとスパッツに着替えてもらう.
U.被験者の体重・身長・下腿高・座位殿幅を測定する.
V.被験者を3つの角度(110度・115度・120度)のうちいずれかに座らせる.
 W.教示を行い,体圧センサーのキャリブレーションを行う.
X.室内の電気を消し,映画の上映を開始する.
Y. ビデオカメラで被験者の様子を撮影する.
 Z.体圧分布の測定を開始する.各試行は30分間.
 [. 10分ごとに背・腰・殿部・大腿部4部分に対し快・不快に関する質問を口頭で(11問)行う.

実験条件
・女性
・圧力測定は,被験者一人に対して,総フレーム数
(2400×3)7200フレーム,測定時間(30分×3)90分,1秒間に4フレーム(0.25秒で1フレーム)で行った.
・圧力測定後の主観評価は背・腰・臀部・大腿部における,快・不快の5段階評価.
データ処理
・主観評価のための質問の内容は,くつろいだ感じがするか・安心な感じがするか.・落ち着いた感じがするか.・窮屈な感じがするか.・柔らかい感じがするか.・全体的に快適な感じがするか.・硬い感じがするか.・つらい感じがするか.・ゆったりした感じがするか.・不安な感じがするか.・圧迫感を感じるか,の11個である.
これを5段階にわけ評価をしてもらった.
3つの角度につき,背面・腰・臀部・大腿部の4部分に関して質問を行った.

・圧力センサーシートにより計測された1フレームごとの総荷重値にて,体動の回数,圧力の大きさ,体動の傾向の分析を行った.
・波形の振幅は平均的に250以下(b)であった.そのため,250以上(a)の振幅を体動とみなし,計測行った.


 ※(a)の波形の一番高い値と一番低い値をとり,その差をその体動一つの圧力とし,各2400フレーム内で見られた体動の圧力をすべてあわせたものをここでは体動合計圧と示すこととする.

結果
圧力変化の時系列データ:本研究において,臀部と背部との2点でリクライニングシートの圧力変化の時系列データが得られた.そして,すべての被験者において臀部・背部ともにほぼ右上がりの圧力の上昇が見られた.
実際の画像からは,時間の経過に伴い一定の部分に(足部分においては足の付け根部分に,背部においては肩甲骨の辺りに)圧力が集中していることがうかがえた.


主観評価と角度と時間:ここでは分散分析を行った.その結果有意な交互作用が見られBonferroni法による多重比較の結果,単純主効果が有意であった.
・主観評価(背面に関して安心を感じる)の角度と時間は有意であるといえる(F(4,44)=3.255,p<.05).20分後は椅子の角度が120度よりも115度の方が安心を感じる.
・主観評価(腰に関してゆったりと感じる)と角度と時間には有意であるといえる(F(4,44)=5.536,p<.05).
・10分後では110度より115度の方がゆったりする.
・10分後では120度では115度の方がゆったりする.
・115度の時,30分後より10分後の方が腰がゆったりする.
・主観評価(臀部に関してゆったりと感じる)は角度と時間は有意であるといえる(F(4,44)=3.361,p<.05).
・115度の時30分後より10分後の方がゆったりと感じる.
・115度の時30分後より20分後の方がゆったりと感じる.
・主観評価(臀部に関して窮屈さを感じる)は時間に有意であるといえる(F(2,22)=5.627,p<.05).
・20分後より10分後の方が臀部のほうが窮屈を感じる.
・主観評価(大腿部に関して快適さを感じる)は角度と時間に有意であるといえる(F(4,44)=4.255,p<.05).
120度の時10分後のほうが20分後より快適を感じる.
・主観評価(大腿部ももに関して辛さを感じる)は時間に有意であるといえる(F(2,22)=6.377,p<.05).
・10分後より30分後の方が辛さを感じる傾向がある.
・主観評価(大腿部に関して落ち着きを感じる)は角度と時間に有意であるといえる(F(4,44)=2.944,p<.05).
・120度の時,30分後より10分後の方が落ち着きを感じる傾向がある.
・主観評価(大腿部に関して安心を感じる)は角度と時間に有意であるといえる(F(4,44)=3.326,p<.05).
・115度の時,30分後より10分後の方が安心を感じる傾向がある.

臀部体動頻度・総圧:座りなおし平均回数は,110度 5.417回,115度 3.515回,120度 3.472回であった.


角度別総圧平均は,110度 5893.8回.115度 5538.9回,120度4703.833回であった.



 分散分析の結果,座りなおしの角度は有意であった(F(2,20)=4.126,p<.05).そのため,座りなおしの回数は角度に関係すること挙げられた.また,Bonferroni法による多重比較の結果,単純主効果が有意であったため,110度のときのほうが115度のときよりも体動回数が増す,といえた.
 また,最初の10分で角度が大きくなるにつれ,座りなおしの回数が増す,110度・120度は20分後までに座りなおしの回数が増え,30分後の回数とほとんど変化がない.それに対して115度は30分後のみ回数が大きく変化している,等がグラフから見てとれた.
 座りなおしの総圧に関しても,分散分析を行った.その結果,有意な交互作用が見られたが,Bonferroni法による多重比較の結果では,単純主効果が有意差がみられなかった.そのため,時間によってのみ座りなおしの総圧が異なるといえる(F(2,20)=5.437,p<.05).


相関
主観評価と総圧・角度と時間:115度10分後では『主観評価・腰に関して不安を感じる』と臀部の座りなおしの総圧が増す,『主観評価・腰に圧迫を感じる』と臀部の座りなおしの総圧が増す,主観評価・臀部に不安を感じる』と臀部の座りなおしの総圧が増す,等の結果が得られた.
主観評価と臀部体動回数:背中が柔らかく感じる度合いが高いと座りなおしの回数は少ない傾向にある,背中が辛く感じる度合いが高いと座りなおしの回数は多い傾向にある,背中が窮屈さを感じる度合いが高いと座りなおしの回数は多い,腰がくつろいでいるように感じる度合いが高いと座りなおしの回数は少ない傾向にある,腰が安心さを感じる度合いが高いと座りなおしの回数は少ない傾向にある,腰が落ち着いているように感じる度合いが高いと座りなおしの回数は少ない傾向にある,腰が柔らかく感じる度合いが高いと座りなおしの回数は少ない傾向にある,腰が不安に感じる度合いが高いと座りなおしの回数は多い,等の結果が得られた.
 主観評価の結果より,座りなおし回数や総圧を予測することができるかどうか調べるため,座りなおし回数および総圧を基準変数,主観評価の各項目を説明変数とし,ステップワイズ法による重回帰分析を行った.
腰および背面(に不安感が感じられれば,座りなおしの回数が増す,背面に圧迫感を感じると座りなおしの回数が増す,臀部が柔らかいと感じれば,座りなおしの回数が増す(R=1.000 R2=1.000)等の結果が得られた.
腰に圧迫感を感じれば座りなおし圧力の大きさが増す,背面に硬さを感じなければ座りなおしの圧力の大きさが増す,腰に硬さを感じなければ座りなおしの圧力の大きさが増す,背面に圧迫感を感じれば,座りなおしの圧力の大きさが増す,臀部に圧迫感を感じなければ,座りなおしの圧力の大きさが増す(R=1.000 R2=1.000),等の結果が得られた.

実験終了後(90分後)の主観評価
※サンプル数が少ないため,統計的な処理はさけ,グラフから傾向を述べることとする.
※好ましい角度や嫌いな角度を質問する際は,具体的に角度を示すとイメージが変化する可能性があるため,3試行のうち何番目が好ましいか・嫌いか,と尋ねた.

 90分が経過した状態で,一番楽な部分はふとももであり,全体の50%がそのように返答した.続いて背面(25%)・腰(17%)・臀部(8%)となった,逆に一番辛い部分を挙げると腰51%であった.好ましい角度は115度が50%を占め,120度(33%),110度(17%)ている,逆に嫌いな角度として120度が42%,115度25%,110度が33%である(図6),嫌いな部分・好きな部分,ともに臀部は8%であった,下半身(臀部と大腿部)は58%の割合で楽と感じられ,41%がつらいと感じられた,等の結果が得られた.

 角度別苦痛部分:(10分ごとに4部分の中ではどこが一番苦痛に感じるか,を尋ねた.)
 115度では,臀部に対し,苦痛を訴える人数が時間の経過に伴い,2から4と増す,腰に対し,苦痛を訴える人数が時間の経過に伴い,7.5.3と減少する,背面に対し,苦痛を訴える人数が115度で苦痛は減り120度で増える,等の結果が得られた.

考察:「座る」ことにおいて,好ましいと感じる状態になるための要因は多数あると思われる.その一つとして,着座面と背もたれの部分の角度が大きいことではないか,と考えていた.なぜならば,角度が小さければ小さいほど臀部もしくはある一部分に対してその人の体重が集中し,そのために苦痛が増すであろう,と逆に角度が大きければ大きいほど臀部だけではなく様々な部分にまで体重が分散され,その分臀部に対しての圧力が減少するために苦痛が減るだろうと考えたからである.また,短時間の実験ではあるが,先行研究(佐藤 2000)によれば,女性の場合は主観評価にて110度が快適であるという結果が出ていた.
 本実験で扱っている角度は,110度・115度・120度の3つである.そのため,この中で一番角度の大きい120度か先行研究(佐藤 2000)結果の110度が好ましいと感じられるのではないかと考えていた.
 しかし,実験を行ない,その最終判断として好ましいと感じられた角度は,考えていた110度(17%)や120度(33%)ではなく115度(50%)であった.
 また,背部・腰・臀部・大腿部の4部門に関して,快適に関する項目に関し,115度は角度・時間すべてにおいての値が高かった.
 なぜ本実験では「115度という角度が好ましい」,と感じられたのであろうか.
 まず,主観評価に関して考えていくことにする.
 主観評価の44の質問(4部門×11質問)のうち,115度に関して有意差が見られたのは4項目あった.そしてそれらすべてが快適に関するものであった.このことから,すべての部分に対して少なくとも一度は115度に対して快適を感じていることがわかる.他の角度においては,4部門すべてに関してということはなかった.
 なお,主観評価の「腰に関してゆったりと感じる」においては座り始めてから10分後において110度・120度よりも115度の方がゆったりと感じることも明らかになっている.
 また,実験の10分ごとに尋ねた「今の状態で一番辛い部分はどこであるか」,という質問に対して,115度の場合は時間がたつにつれ臀部や太ももの苦痛度が増したが,その一方で腰の苦痛度合いは減少した.時間の経過に伴い,腰の苦痛度が減ることは他の角度については見られない傾向であった.
 これらの結果から,この「腰」という要因も快適さに関してなんらかの影響があるのではないだろうか,と考えた.
 そもそも,長時間座った際に一番辛いと考えられる場所はどこか,というアンケートに対し,60%の人が「腰」という返答をしていた.また,本実験の結果において 90分後の苦痛場所は51%の割合で腰であり,約半数の人が長時間の着座に関して腰に苦痛を感じることが明らかになった.
 主観評価を分析においても,有意差が見られた18の質問のうち5問が腰に関してであり,圧迫を感じる・辛く感じる・窮屈を感じるというように,他の部分よりも不快なことに関して有意がでたものが多かった.
 体動回数は角度に関係しているという傾向がでたが,その中でも115度(3.515回)より110度(5.818回)のときの方が座りなおし回数が増すということがわかった.数値だけで比較した場合,120度が一番座りなおしの回数(3.472回)が少なかった.また,体動の総圧力に関しても,120度(4703.833)が一番低かった.続いて115度(5538.879),110度(5693.806)である.しかし本実験の結果において,90分後に一番嫌いな角度として120度を挙げている人(42%)が一番多かった.そのため,体動回数やその合計圧力だけでは,好みもしくは快適さはいえないと考えられる.ただ,主観評価と座りなおしの回数や総圧に少しも関係がない,ということは考えられない.今回の実験に関して主観評価等の質問内容自体に問題があったと考えられる.この検討は今後の課題とする.
 座りなおしの回数と主観評価には関係があると考えるので,これらに関して考察を進めるとする.44質問中8問に有意差が見られ,そのうちの5つが「腰」に関するものであった.そこでは,腰に関してくつろぎや安心,落ち着き,やわらかい等の快適に感じた場合,座りなおしの回数は減ること,逆に不安に感じる,というような不快を感じた場合座りなおしの回数が増すことがわかった.
 より詳しく検討したところ,腰に不安を感じると,ほとんどの割合で座りなおしの回数に影響を与えることが分かった.
 こういったことにより,長時間の着座に関する快適さは,腰の快適さに大きく影響をうけるのではないだろうかと考えられた.

 先行研究(佐藤 2000)との比較:先行研究では結果として110度が好ましいと出ていたが,本研究では115度が好ましいと感じられた.この2つの研究との大きな違いは実験時間である.佐藤(2000)は着座実験を90秒で行っていた.
 110度の場合,臀部に苦痛を感じていると評価した人は30分後に一人のみいた.背面の苦痛度が減少していることなどが見て取れる.特に,先行研究に時間の一番近い10分後の結果は,110度では苦痛度の値が4や5であり,数値にあまり散らばりがなかった.
これに対し,115度や120度の10分後の数値は腰の値が平均値の2倍もしくは2倍以上,であり他に比べて大きくなっている.(図6)



 先に述べたように,快適を左右する要因として腰の苦痛を入れるのであれば,腰の苦痛度合いが他の部分とあまり異なっていなかったために苦痛が分散され,結果快適だと感じたのではないだろうか,と考えられる.
120度が好まれなかった理由:主観評価においては,120度は115度より背中に関して安心と感じていない.また,120度は臀部・大腿部に関して不快度が高い.
 しかし,実際の体動を見てみた場合,110度との間に体動数・総圧ともに大きな異なりがあるものの,120度と115度の間にはほとんど差がないことがあきらかになった.
 

このことから,好まれなかった理由として質問内容や映画のスクリーンの位置や頭部のクッション等の関係があると考えられる.また,体動以外の測定法を検討する必要があるといえるだろう.

今後の課題として
・ 椅子の検討(振動を多く伴わないもの・頭部のないものなど)
・ 角度の検討(3つの角度以外も用いて)
・ シートのたるみの検討
                などが挙げられる.
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