早稲田大学石田研究室


交差点通過時における視覚探索に関する分析的研究

飯田 直慶



1.はじめに
 交通事故の中で車両相互の出会い頭事故は無信号交差点における事故全体の約69%を占めている1).この出会い頭事故は複数の走行する車両が同時に交差点内に存在することにより引き起こされる.無信号交差点の場合,主に一時停止規制によって主道路と従道路が区別されており,従道路を走行する非優先側運転者の交差点進入行動に焦点を当てた研究が数多くなされている2)3)4).一方で優先側運転者を対象とした研究の数は非常に少ないのだが,優先側運転者の研究もなされるべきである.なぜなら道路交通法においては,優先側運転者の優先的な進入は保証されているものの,減速などをして出来る限り安全な方法で進入することを同時に求めているが,現実には無信号交差点へ等速進行をして事故に至るケースが多いからである.その理由として,優先側運転者はその優先的な進行に対する強い権利意識を持っていることが考えられる.しかしこの優先側運転者の権利意識は観察の結果や事故分析によって指摘された,事故にあった運転者の意識によるもので,事故の発生しない日常的な運転場面でこのような権利意識を持っているかどうかはわからない.そこで運転者が何を見て,どのような判断をしているのか,つまりその注視行動や視覚探索法,運転行動を明らかにする必要がある.まずはそれらのデータを取ることが望まれる.

2.目的
 無信号交差点の優先道路と非優先道路でそれぞれ交差点に進入する際の注視行動の特徴を実走行によって明らかにすることを目的とする.そして本研究で得られたデータを今後に役立てる.

3.実験方法
3-1,コースの選定
以下のことに考慮して早稲田大学所沢校舎周辺の約15〜20分程度の,分析対象となる交差点が10個となる周回コースを決定した.
・ 優先道路から進入する交差点と非優先道路から進入する交差点が同数(5つずつ)になること
・ 車線数を2車線と1車線が同数になること
・ 交差点環境,交差道路の見通し,幅員など種々雑多になること

3-2,交差点の選定
 そしてコースの中で次の交差点で分析を行うことに決定した.
以下にそれぞれの交差点の特徴を記す.

3-3,実験
日時は2003年11月7日から27日にかけて行った.全被験者とも晴れか曇りの適度な明るさの午前10時から16時の間であった.
被験者は大学生及び大学院生(20〜27歳)の普通一種運転免許を所持している男性9名.全員健康な男性で,裸眼又はソフトコンタクトレンズによる矯正視力が正常なものとした.なお眼鏡を使用していると眼鏡のレンズに外の景色が映りこみ正確なアイマークが得られないため,またハードコンタクトレンズでは眼球の動きにレンズがついてこられないためにソフトコンタクトレンズによる矯正可能な者に被験者を依頼した.
実験器材は以下のものを使用した.

・ 実験車(日産セドリック)
・ アイマークレコーダ(ナック製,EMR-8)
・ ビデオウォークマン(ソニー製,Mini DV GV-D900 NTSC)

実験システム(図1)は以下の通りである.

実験手順は,まず駐車場で被験者に運転席のシートと車内のミラーを自分の体に合わせるように求めた.最初の実験教示を読み上げ,車とコースに慣れるために練習試行としてアイカメラを着けずにコースを1周した.駐車場に再び戻り,被験者にアイカメラを着け,キャリブレーションを行った.アイカメラ記録用デッキにより注視行動の記録を開始した後,本試行1周目は普段通りに走行するよう教示し走行させた.2周目は交通ルール,特に制限速度を守るように教示し走行させた.

4.分析方法
 アイカメラ記録用デッキで記録した映像1人最高20映像(ただし被験者20名のうち工事中や太陽光によりアイマークが飛んで記録できなかった場面もあった,欠損場面数は0〜4で平均8.35場面)を映像取り込みソフト(iMovie J-2.1.1)により,コンピュータに動画として取り込み,1秒当たり30フレームの静止画像に分割した.
次に場面ごとに分析の始めと終わりを決めた.分析開始地点は交差点の存在に気づかない程度に十分交差点から離れた地点とした.分析終了地点はたとえ何かがあっても車が交差点の手前で停止できない,つまり日常の運転行動で安全確認をすでに終えていると思われる地点とした.被験者毎に走行速度は違ったが,分析の開始地点と終了地点を統一した.このため,分析に用いた映像の時間が被験者毎に異なる.よって時間を割合で分析した.分析の開始地点及び終了地点の特定方法は事前に決めた固定物と重なる地点とした.
4フレーム(133msec.)以上を注視として扱い,注視開始フレーム,注視終了フレーム,注視対象を記録した.そして注視対象を分類(表2を参照)した.

 以下,左右道路に対する安全確認を(1),交差点を認知するための要因を(2),交差点と無関係な注視を(3)と表記する.次に被験者9人について優先関係を要因として以下の分散分析を行った.

@総注視割合(全体における注視の割合,注視全体を100%とした割合)
A(1)に対する注視回数 (交差道路に対する安全確認の回数)
B(2)に対する注視回数 (交差点を認知するための要因の回数)
C(3)に対する注視回数(交差点と無関係な注視の回数)
D(1)に対する注視割合 (交差道路に対する安全確認の注視割合,全体を100%とした割合)
E(2)に対する注視割合(交差点を認知するための要因の注視割合,全体を100%とした割合)
F(3)に対する注視割合(交差点と無関係な注視の注視割合,全体を100%とした割合)
G(1)に対する平均注視時間 (交差道路に対する安全確認における1注視あたりの平均注視時間,注視時間/注視回数)
H(2)に対する平均注視時間(交差点を認知するための要因における1注視あたりの平均注視時間,注視時間/注視回数)
I(3)に対する平均注視時間(交差点と無関係な注視における1注視あたりの平均注視時間,注視時間/注視回数)

5,結果と考察
5-1, 総注視割合(@)

 被験者が非優先道路からより優先道路から交差点に進入した方が有意に注視割合が高かった.その理由として非優先道路を走行しているときは注視点の移動角度が大きいためだと考えられる.優先道路を走行しているときは比較的前方を注視することが多くなり,非優先道路を走行しているときより注視点の移動角度が小さい.つまり非優先道路の方が注視点の移動時間が長くなったため相対的に優先側の注視割合が高くなったと考えられる.

5-2,交差道路に対する安全確認(A,D,G)

被験者が交差道路に対する安全確認において優先道路からより非優先道路から交差点に進入した方が有意に注視回数が多かった.このことは被験者にとって非優先の方が交差道路を注意深く確認していたと考えられる.

被験者が交差道路に対する安全確認において優先道路からより非優先道路から交差点に進入した方が有意に注視割合が高かった.このことは非優先の方が被験者にとって交差点に長く注視していたと言える.


 被験者が交差道路に対する安全確認において優先道路からより非優先道路から交差点に進入した方が有意に平均注視時間が長かった.その理由として被験者は非優先の方がより長く交差点を視ていたと考えられる.
 以上のことは仮説通りであった.無論これは優先側よりも非優先側の方が交差道路に対して注視をよく行っていたためである.この結果については被験者が,優先道路の運転者は交差道路とそこを走行する車両を見ていないであろうと考えていたということでもある.そして交差点からの歩行者や自転車など交通他者に備えたためである.

5-3,交差点と無関係な注視(F)

 被験者が交差点と無関係な注視において非優先道路からより優先側から交差点に進入した方が有意に注視割合が高かった.このことは被験者が交差点に気づかなかったり,気がついてもそれほど注視する必要が無いと考えたりしたため,相対的に交差点と無関係な注視の割合が増えたと考えられる.

6.結論
 9名のドライバーを被験者として,優先道路からと非優先道路から交差点に進入するときの注視行動の違いをアイマークレコーダによって記録した.
その結果,優先道路では総注視割合が高かった.運転者が非優先道路から交差点に進入した方が交差道路に対する安全確認の注視回数が多く,注視割合が高く,平均注視時間が長かった.また,優先側から交差点に進入した方が交差点と無関係な注視の注視割合が高かった.
よって優先側からよりも非優先側から交差点に進入する方が交差点に対してよく注視を行っている.このことは運転者は交差点を認知し,交差道路の動向に備えるためであると考える.相対的に優先側道路を走行する運転者は日常的な運転場面で優先意識を持っているといえる.

参考文献
1) (財)交通事故総合分析センター 2003 交通事故統計年報平成14年版
2) McKelvie,S.J. 1986 Drivers’ behavior At Stop Signs: A Deterioration. Perceptual and Motor Skills, 64,252-254
3) 松浦常夫 1985 一時停止規制に伴う交差点接近行動と危険性評価の変化 科学警察研究所報告交通編 26,1,103-109
4) 神田直弥,石田敏郎 2001 出合頭事故における非優先側運転者の交差点進入行動の検討,日本交通科学協議会誌 1,1,11‐22
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