早稲田大学石田研究室


信号補助システムの信頼性について

廣田 欣史


1.はじめに
 交通事故が発生する要因のひとつとして法令違反別に事故の件数をみてみると、平成14年度では安全不確認が256518件で全体の28.8%、脇見運転が150050件で全体の16.9%、漫然運転が56575件で6.4%となっている。これらのデータからも分かるとおり、交通事故のおよそ半分は運転者の注意不足や集中力の欠如から起きているのである。こうした運転に対する集中力の低下はどうしておきてしまうのだろうか。
車を運転しているのは人間である以上、その全てが完全に良好な状態で運転するということは望めない。運転中に睡魔に襲われることもあるだろうし、職業ドライバーでは病気や疲労で体調が優れない状態であったとしても、運転しなくてはいけない状況になってしまうかもしれない。また、体調が良かったとしても、運転中に考え事をしてしまったり、景色に見入ってしまったり、同乗者との話に夢中になってしまうなど、運転に集中していない状況になる要因はいくらでもあるのだ。
そこで、運転者の状態や運転技術に左右されることなく自動的に危険を回避できるようなシステムが求められている。
これを目的として開発が進められているのが、本田技研工業が開発・実用化した「追突軽減ブレーキ」(CMS:Collision Mitigation brake System)をはじめとする運転者支援システムである。しかし、運転者支援システムは便利である反面、運転者がそのシステムに頼りすぎることにより、危険時の判断力の低下や、危険回避のための運転技術の低下などがおきてしまうおそれがある。

2.目的
本研究では運転者支援システムの1つとして、「赤信号になるタイミングを予測し、信号機の手前で予告のブザーを鳴らす」という信号補助システムがあると仮定して実験を行う。そして、そのシステムが誤報・および欠報を出すことが運転者に対してどのような影響を与えるのか、被験者のシステムに対する信頼度とあわせて検証する。

3.実験
3-1.実験機材
・ 8ミリカメラ(被験者撮影用)
・ DVウォークマン(4分割映像撮影用) 
・ 4画面マルチユニット
・ フットスイッチ
・ 反応用ランプ
・ DVデッキ
・ プロジェクター
・ 100インチスクリーン
・ 三脚
・ 日産セドリックブロアムJ
・ CCDカメラ
・ 速度計
・ 距離計
 実験に用いる機材は、以下のように配置した。


3-2.被験者
 運転免許を所有する早稲田大学人間科学部の学生10人
3-3.実験手順
 実験では被験者に実際の走行映像(各映像は停止位置から150mの区間を用いた)を見せ、映像中の黄、または赤信号を確認した場合に足元のフットスイッチでブレーキ反応させた。ブレーキを踏む位置は、各映像で速度や信号のタイミングなど状況を判断し、各被験者の任意のタイミングで反応することとした。
 実験は3つの試行からなり、各試行は30の場面から構成され、赤信号になる場面が27場面と青信号が3場面という割合にした。試行1は警報なし、試行2では赤信号に変わる場面で警報が鳴るが誤報が3回あり、試行3は同様の警報が鳴るが欠報が3回あるという設定にし、被験者には各試行に移る前にその旨を教示した。ただし、回数については知らせなかった。また、警報がなるのは速度に関係なく、停止位置から100m手前の地点とした。
 副次課題については、刺激映像の左端に無作為に抽出した5文字のひらがなを提示し、被験者にはそれを声に出して読み上げさせた。副次課題の難易度による違いを比較するため、1.5秒ずつ提示と空白を繰り返すパターンと、2秒ずつ繰り返すパターンの2つを用意した。この2パターンの副次課題が各試行で同数になるよう、均等に配置した。

4.結果
 実験では被験者のブレーキタイミング、副次課題への視線移動時間、副次課題の誤答数(読み間違え、読めなかった文字数)の平均値を各被験者毎に出し、さらにそれらを副次課題提示時間の長・短によって分け、分散分析を行った。

・反応タイミングについて


 全体の傾向としては、副次課題の提示時間が長い場合、つまり副次課題の難易度が低い場合には反応タイミングが早くなっている。反応タイミングの明確な基準は無いため、果たして副次課題の提示時間が短い場面でブレーキ反応が遅れていたのか、それとも長い場面では反応が早くなりすぎたのかを明らかにすることはできない。しかし、副次課題の難易度が高ければ信号の認識を含めた状況判断や動作が遅くなることが予想されるため、提示時間が短い場面ではブレーキのタイミングが遅れ、提示時間が長い場面での反応タイミングが通常のタイミングに近いということが考えられる。
一方、警報の種類で反応タイミングを比較すると、提示時間が短い場面では試行1に比べて試行3の方が、提示時間が長い場面では試行1に比べて試行2の方が反応タイミングが有意に遅れた。
先に述べた「副次課題が困難なことが原因で反応タイミングが遅れている」という考察が正しいとすれば、警報がその目的を達成していれば反応タイミングの遅れが出ないか、あるいは小さくなるはずである。しかし、分析結果から反応タイミングに有意な遅れが見られたため、警報は反応タイミングの遅れを防止するのとは逆に、遅れを生み出す原因となってしまっている可能性がある。

・視線移動時間について


 本研究では副次課題の注視1回あたりの平均時間を視線移動時間としている。そのため、長ければただ脇見している時間が多かったというわけではない。長くても回数が少なければ効率良く見ていた可能性が考えられ、逆に短くても移動回数が多ければ脇見が多かった可能性があると言えるだろう。

 視線移動時間の分析結果から、副次課題の提示時間が長い場面では、警報が鳴る場合には視線移動時間が長くなる傾向が見られた。そこで、試行2と試行3の副次課題提示時間が長い場面での視線移動回数を試行1と比較してみると、回数が少ないことが分かる。
1回あたりの注視時間が長く、しかも回数が少ないということから、必ずしも無駄な視線移動があったとは言えない。むしろ副次課題が簡単であり、警報がある場合には被験者が落ち着いて副次課題を行っていた可能性の方が高い。逆に言えば、副次課題の提示時間が長い場面では、警報がない試行1で被験者は短い注視を何度も繰り返していたということになる。
また、副次課題の提示時間が短い場面については、長い場面よりも注視時間が短く、平均移動回数も多いことから被験者はより短い注視を何度も繰り返していたということが言えるだろう。
これらのことを総合的に見ると、被験者は副次課題の提示時間が長い場合には余裕を持って副次課題を取り組んでいたと言ってよいだろう。また、警報があるということが被験者に安心感をもたらしていた可能性が考えられる。特に欠報が出る場合では、警報が鳴れば必ず赤信号となるためか、この傾向が強い。

・副次課題の誤答数について

 副次課題の提示時間別に各試行での誤答数を比較すると、すべての試行において提示時間が長い場面の方が副次課題の成績が良かったことから、提示時間の長い場面の方が副次課題の難易度としては簡単だったことが裏付けられる。
警報による効果としては、副次課題の提示時間が短い場面、つまり難易度が高い場面では試行1に比べて試行3での誤答数の有意な減少が見られた。副次課題が簡単な場面では試行1よりも試行2で誤答数が有意に減少していたため、警報の存在が誤答数の減少に影響を及ぼしていたことが考えられる。特に副次課題の難易度が高い場合では、警報に期待される効果は反応タイミングを適切なものにすることであり、副次課題の成績が上がったとしても、主課題の成績が悪くなっていたのでは警報として逆効果になっていると言える。

・被験者のシステムに対する信頼度について
 被験者に行ったアンケートから、被験者がどれくらい警報を信頼していたのかを調査した。
 被験者が完全にシステムを信頼している場合を1、信頼していない場合を7とし、7段階で信頼度を評価した。結果は以下の通りである。


・まとめ
 図-9からもわかる通り、被験者はほとんど警報を信頼していなかったが、結果をみるとあたかも警報に頼っていたようなものになった。
 このことから、エラーの起きてしまうようなシステムがあった場合、それを使用する人間がエラーが起きるのを知っていたとしても、そのシステムに頼ってしまう可能性がある。
 運転者支援システムにおいてエラーが起きた場合、より安全なのは人間が自分の判断で危険を回避することである。しかし、システムに依存すること、あるいは依存していなくてもその存在に安心して油断してしまうことは万が一の場合に被害が逆に大きくなってしまう可能性もはらんでいる。

・参考文献
末富隆雅、成波、橋本昌寛、寺田哲也:ドライビングシミュレータを用いた危険警報時のドライバ挙動の研究、マツダ技報、No,19,73-78,2001

横場貴彦、稲垣敏之:2種の故障モードをもつ警報システムのもとでの状況認識、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.100、No.214(SSS2000 7-13)、27-32、2000

[平成14年度版] ビジュアルデータ ―図でみる交通事故統計―、交通事故総合分析センター
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