福岡 曜
優先、非優先共通してよく注視されているのは「前方景色」及び「交差点」「交差点奥」であった。優先側では左右道路もよく注視されているが、非優先側では「左道路」への注視が突出していた。
次に図4−6、図4−7は優先側における、交差点接近に伴う注視行動の変化である。遠方から直近へ移動するにつれ、[前方景色],「前方路面」、「左道路」、「右やや手前路肩」、「左景色」への注視が減少し、「交差点」、「手前路面」、「やや手前路面」に対する注視が増加した。「左景色」への注視が交差点に近付くにつれ減少しているのに対し、「右景色」への注視にはあまり変化はみられなかった。
図4−8、図4−9を比較すると、交差点に近付くにつれ「前方景色」への注視が激減しているのがわかった。反対に、「左道路」、「交差点」への注視が増加していた。
交差点遠方における優先道路と非優先道路の注視行動の比較では、「前方景色」および「交差点」、「交差点奥」への注視が高い割合を示している点は共通であった。優先側で左右道路に同程度注視が行われているのに対して、非優先側では左道路にのみ高い割合の注視が行われていた。
交差点直近における優先道路と非優先道路の注視行動の比較では,優先側では左右道路への注視の割合が低いのに対し,非優先側では高くなった。また、交差点への注視は優先、非優先ともに高い割合であった。
4. 考察
まず単路走行時と比較した交差点進入時における注視行動の特徴について見る。小沢(1997)の研究では、直線走行時は、自身の走行する直線上、すぐ手前から中距離にかけてのエリアを頻繁に注視し、特にすぐ手前をじっくりと見て、路面状況に注意を払うと述べている。小沢4)の結果と同様であれば、今回の実験では、注視対象1、4に注意が集中し、それ以外の対象への注視はほとんど行われなくなるはずである。
今回の実験について全体的な比較をすると、注視が集中するのは「前方景色」「左右道路」「交差点」及び「交差点奥」に対してで、この点は優先・非優先道路に共通する傾向であった。
従って、交差点進入時には交差点や左右道路に注意が払われることがわかる。
交差点へ進入するまでのアプローチは直線路であるが、小沢4)の直線走行時には、前方景色への注視はほぼ皆無で、手前から中距離の走行線上に集中している。この「前方景色」へ注視が高い割合で行われている理由は不明である。 交差点や左右道路へ注意が払われる分、注意資源の余裕は少なくなり、運転行動に直接関係しない「前方景色」よりも路面状況の把握に注意が払われることが予想されたが、そうならなかった。
優先・非優先双方をふまえた交差点接近時の特徴についてみると、優先・非優先どちらにおいても遠方でよく注視する「前方景色」への注意が交差点接近に伴い減少し「交差点」や「交差点奥」への注視が増す。このことから、交差点進入・通過の際には左右及び前後方からの他の車両や歩行者の存在により運転行動を変化させる必要があるため、直線単路走行時よりも運転者にとって作業負荷が高まっている可能性がある。「前方景色」からの情報は運転行動に直接関係しないため、そこに消費されていた注意資源が作業負荷の増大に伴い省かれ、交差点への注意に向けられたと考えることができる。
優先側と非優先側の注視行動の比較では、優先・非優先を比較して、まず非優先側では「右道路」への注視が優先側と比較して少ない。これは優先側の右の見通しがあるのに対し、非優先側ではなかったためと思われる。非優先側の右の見通しは、ほぼ無かった。左右の見通しがある優先側で左右道路に同程度注視が起きているのに対し、非優先側で「右道路」をほとんど注視せず「左道路」に対しての注視が非常に大きな値を示したのは、見通しが無く右道路の情報をほとんど獲得できない状況で、右に注視を向ける意味があまりないためであると考えられる。
5. 結論
交差点遠方では「左右道路」を注視し左右の安全確認を終了させ、直近では「交差点」及び「交差点奥」をよく注意している。遠方で「前方景色」への注視が高い割合を占める理由はわからない。今回優先・非優先では見通しなどの状況が異なっていたために、純粋に優先・非優先という性質に注視行動が左右されるのかどうか明らかにすることは出来なかった。
6. 今後の課題
今回の実験では被験者数が少なかったことが問題点として挙げられる。従って、今後は被験者数を増やし、交差点のサンプル数も増やして研究が進められていかなければならない。今回の実験では,結論で述べたような理由から純粋に優先・非優先という性質による注視行動の差が存在するかどうか明らかにすることはできなかったが、見通しなどの条件を統一し、データを集積することによって明らかにしていく必要がある。
また、左側通行と安全確認行動の関係を明らかにするためには、右側通行が制度化されている環境での実験が行われる必要がある。
さらに、運転免許所持による自転車運転行動の違いなどについても、視覚行動分析の視点から研究を進められる必要がある。
<参考文献>
1) 国土交通省道路局.2003,国土交通省の自転車施策:21世紀の自転車利用環境の実現を目指して<http://www.mlit.go.jp/road/ road/bicycle/policy/21mezase.html>[
4 January 2004]
2)交通事故統計年報平成14年度版,財団法人 交通事故総合分析センター
3)自転車産業振興協会.2002,自転車産業振興協会.
<http://www.jbpi.or.jp/>[ 4 January 2004]
4)小澤忠弘:自転車乗用中における運転者の視認特性の考察,早稲田大学人間科学部健康科学科平成7年度卒業論文
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