早稲田大学石田研究室


自転車運転者の交差点進入時における視覚行動特性について

福岡 曜



1. 序文
その保有台数や利用状況から、自転車は交通社会の重要な一員であるといえる。2002年日本の自転車の保有率(人口/台)は自動車とほぼ同様である。自転車は非常に利便性、機動性が高く、安価で操作が容易かつ免許等使用にあたっての制限も無い。そのため広域で多様な目的のもと様々な利用形態がとられている、最も生活に密着した移動手段であり、利用促進に伴い都市部の交通社会の抱える渋滞やそれに伴う公害、電車やバスといった公共交通の持つ諸問題を解消する新しい公共交通となりうる。この点に多くの国が注目し自転車利用促進の気運が世界的に高まっている。こうした状況のもと自転車利用の増加が予想され安全対策や研究が必要である1)2)3)。

2.目的
自転車運転者の運転行動を、運転者の視認特性の分析によって明らかにすることを目的とした。運転者の注視行動を測定し、分析を行った。なお今回は、特に高い事故発生率を示す、交差点及び交差点付近での自転車運転者の視認特性を調査することを目的とした。

3.方法
<被験者>早稲田大学人間科学部学生6名(男女各3名、平均年齢22歳)裸眼でいずれも視力は0.3以上(最高値両眼1.5、 最低値両眼0.3)。
<実験日時>2003年11月〜12月12時〜16時
<実験環境>歩行者・他の車両など、被験者以外が存在しない実路の交差点。晴天か曇天のみ。非優先道路側は車線数1、幅員5m80cm、歩道無し、右側の見通しは無く左側の見通しは中程度ある。右手は畑だが、交差点付近に複数の建物が存在している。左側はなだらかな隆起をしめした土地で、木が植えてあるが、見通しが失われるほど密ではない。優先道路側は、車線数2、幅員6m40cm、右側歩道あり、左側はガードレールの真下が幅約4mの側溝となっている。左右見通しあり、右手は前述のなだらかな低い丘状の土地で、左手は道路に向かって下っている斜面で、斜面全体が畑となっている。
<手続き>:
(1)被験者にEMR8のヘッドユニット部を装着しキャリブレーション調整を行った。
(2)被験者に教示を行い、走行を開始した。優先、非優先道路それぞれ1方向ずつ、左側を走行させた。走行回数は5回としたが、歩行者や他の車両などが出現した場合は、その試行を無効とし、やり直した。

4. 結果





注視頻度において、優先道路側全体と非優先道路側全体,また,交差点直近,交差点遠方では,それぞれに目立った差はみられなかった。


全体でみた平均注視時間にはほとんど差はみられないが、図4−2の結果と異なる点として、優先、非優先両側で直近より遠方において長い注視を行う傾向を示し、特に非優先道路側においてその傾向は顕著であった。注視頻度で差が見られないにもかかわらず、注視時間で差が生じているということは、注視行動が優先・非優先で異なっている可能性が考えられる。図4−4および図4−5は、注視対象と注視行動の関係を優先道路側,非優先道路側についてそれぞれ示している。棒グラフでは、注視対象ごとの総注視時間を表しており、折れ線では注視対象ごとの注視頻度を表している。非優先道路側から、注視対象20にあたる「交差点遠方」は見ることができない環境であったため、非優先道路側では20への注視は存在しないが、20以外の対象は優先、非優先で対応している。




優先、非優先共通してよく注視されているのは「前方景色」及び「交差点」「交差点奥」であった。優先側では左右道路もよく注視されているが、非優先側では「左道路」への注視が突出していた。
次に図4−6、図4−7は優先側における、交差点接近に伴う注視行動の変化である。遠方から直近へ移動するにつれ、[前方景色],「前方路面」、「左道路」、「右やや手前路肩」、「左景色」への注視が減少し、「交差点」、「手前路面」、「やや手前路面」に対する注視が増加した。「左景色」への注視が交差点に近付くにつれ減少しているのに対し、「右景色」への注視にはあまり変化はみられなかった。


図4−8、図4−9を比較すると、交差点に近付くにつれ「前方景色」への注視が激減しているのがわかった。反対に、「左道路」、「交差点」への注視が増加していた。
交差点遠方における優先道路と非優先道路の注視行動の比較では、「前方景色」および「交差点」、「交差点奥」への注視が高い割合を示している点は共通であった。優先側で左右道路に同程度注視が行われているのに対して、非優先側では左道路にのみ高い割合の注視が行われていた。
交差点直近における優先道路と非優先道路の注視行動の比較では,優先側では左右道路への注視の割合が低いのに対し,非優先側では高くなった。また、交差点への注視は優先、非優先ともに高い割合であった。

4. 考察
 まず単路走行時と比較した交差点進入時における注視行動の特徴について見る。小沢(1997)の研究では、直線走行時は、自身の走行する直線上、すぐ手前から中距離にかけてのエリアを頻繁に注視し、特にすぐ手前をじっくりと見て、路面状況に注意を払うと述べている。小沢4)の結果と同様であれば、今回の実験では、注視対象1、4に注意が集中し、それ以外の対象への注視はほとんど行われなくなるはずである。
 今回の実験について全体的な比較をすると、注視が集中するのは「前方景色」「左右道路」「交差点」及び「交差点奥」に対してで、この点は優先・非優先道路に共通する傾向であった。
 従って、交差点進入時には交差点や左右道路に注意が払われることがわかる。
交差点へ進入するまでのアプローチは直線路であるが、小沢4)の直線走行時には、前方景色への注視はほぼ皆無で、手前から中距離の走行線上に集中している。この「前方景色」へ注視が高い割合で行われている理由は不明である。    交差点や左右道路へ注意が払われる分、注意資源の余裕は少なくなり、運転行動に直接関係しない「前方景色」よりも路面状況の把握に注意が払われることが予想されたが、そうならなかった。
 優先・非優先双方をふまえた交差点接近時の特徴についてみると、優先・非優先どちらにおいても遠方でよく注視する「前方景色」への注意が交差点接近に伴い減少し「交差点」や「交差点奥」への注視が増す。このことから、交差点進入・通過の際には左右及び前後方からの他の車両や歩行者の存在により運転行動を変化させる必要があるため、直線単路走行時よりも運転者にとって作業負荷が高まっている可能性がある。「前方景色」からの情報は運転行動に直接関係しないため、そこに消費されていた注意資源が作業負荷の増大に伴い省かれ、交差点への注意に向けられたと考えることができる。
 優先側と非優先側の注視行動の比較では、優先・非優先を比較して、まず非優先側では「右道路」への注視が優先側と比較して少ない。これは優先側の右の見通しがあるのに対し、非優先側ではなかったためと思われる。非優先側の右の見通しは、ほぼ無かった。左右の見通しがある優先側で左右道路に同程度注視が起きているのに対し、非優先側で「右道路」をほとんど注視せず「左道路」に対しての注視が非常に大きな値を示したのは、見通しが無く右道路の情報をほとんど獲得できない状況で、右に注視を向ける意味があまりないためであると考えられる。

5. 結論
 交差点遠方では「左右道路」を注視し左右の安全確認を終了させ、直近では「交差点」及び「交差点奥」をよく注意している。遠方で「前方景色」への注視が高い割合を占める理由はわからない。今回優先・非優先では見通しなどの状況が異なっていたために、純粋に優先・非優先という性質に注視行動が左右されるのかどうか明らかにすることは出来なかった。

6. 今後の課題
 今回の実験では被験者数が少なかったことが問題点として挙げられる。従って、今後は被験者数を増やし、交差点のサンプル数も増やして研究が進められていかなければならない。今回の実験では,結論で述べたような理由から純粋に優先・非優先という性質による注視行動の差が存在するかどうか明らかにすることはできなかったが、見通しなどの条件を統一し、データを集積することによって明らかにしていく必要がある。
 また、左側通行と安全確認行動の関係を明らかにするためには、右側通行が制度化されている環境での実験が行われる必要がある。
 さらに、運転免許所持による自転車運転行動の違いなどについても、視覚行動分析の視点から研究を進められる必要がある。

<参考文献>
1) 国土交通省道路局.2003,国土交通省の自転車施策:21世紀の自転車利用環境の実現を目指して<http://www.mlit.go.jp/road/ road/bicycle/policy/21mezase.html>[ 4 January 2004]
2)交通事故統計年報平成14年度版,財団法人 交通事故総合分析センター
3)自転車産業振興協会.2002,自転車産業振興協会.
<http://www.jbpi.or.jp/>[ 4 January 2004]
4)小澤忠弘:自転車乗用中における運転者の視認特性の考察,早稲田大学人間科学部健康科学科平成7年度卒業論文
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