早稲田大学石田研究室


道路マーキングの効果についての研究

千賀 修一


<はじめに>
道路交通における事故の件数は,昔から色々な対策が考えられて来ているにも関わらず,年々増加を続けている.
その中でも出会い頭事故は事故件数第2位に当たる類型で,その中でも無信号交差点におけるものは,出会い頭事故の7割を占める.
この無信号交差点における出会い頭事故の対策の一つとして,赤色のニート舗装による道路マーキングがある.現在,多くの場所で,この方法が用いられているが,マーキング方法には,一定ルールは存在しない.そのため,マーキングに統一性はない.
また,そのマーキングに対する研究もほとんど存在していないので,実際にドライバーに影響を与えているのか,どういった方法が効果的なのかという事は,全く分かっていない.

<目的>
本研究では,現在無信号交差点で行われている赤色のニート舗装によるマーキングが,ドライバーに対してどのような影響を与えているかを検討する事を目的としている.

<実験方法>
本研究では室内において,交通状況の静止画を刺激として用いて,被験者に観察させ,質問紙による評価をさせた.
1)撮影場所の選定
マーキングされた交差点を選定するに当たっては,以下の事に条件とした.
・赤色のニート舗装が施されている事
・無信号交差点である事
・十字交差点である事
・交差点の角度ができるだけ直角に近い事
・ニート舗装以外のマーキングが無い事
・被験者が日常的に使う場所でない事
の条件を考慮した.
最後の項目以外は,どれも純粋にマーキングの効果だけを計るために,それ以外の要因が影響を及ぼさないようにするためである.
そのため,撮影は無信号交差点の優先側のみ行っている.これは一時停止線もその他のマーキングに含まれると考えたためである.
 最後の項目は通学や生活などで被験者が使用している場所であると,また違った要因が実験に影響を及ぼす可能性を考慮したものである.
2)マーキングの選定
 無信号交差点における赤色のニート舗装にもいくつかの方法が存在する.
・交差点内のみが舗装してあるもの
・交差点に至るまでの,進行側道路部分が舗装してあるもの
・その両方がしてあるもの
などである.本研究では,一番多く用いられている「交差点内のみが舗装してあるもの」を刺激として用いることとした.
3)撮影条件
 撮影は以下の条件を揃えて行った.
・片側優先,片側非優先の交差点の優先側を撮影
・撮影は全て天候が晴れの日とした
・撮影は一日のうち午前中に行う事とした
・撮影時は,歩行者や自動車,自転車などの
マーキング以外に影響の考えられるものは,
映らないよう考慮する
・逆光を避ける 
4)撮影方法
撮影は,デジタルカメラ,三脚,30メートルメジャーを用いて,交差点入り口から15メートル地点をメジャーで計測し,外側線から1メートルの位置に三脚を設置し,デジタルカメラで撮影した.デジタルカメラを設置する際の三脚の高さはドライバーの視点を考慮し,120センチメートルとした.
また,撮影は1地点に付き数回行い,その中で最も適切だと判断したものを刺激画像として用いる事とした.
5)刺激画像
刺激画像はマーキングの有るもの,マーキ
ングの無いもの,それぞれ10枚とし,マーキングのあるものは,実際の道路上にて撮影したもの,マーキングのされていないものは,撮影してきた画像を画像処理ソフトでマーキングを除去することで作成した.
<実験手順>
刺激提示はプロジェクターによるスクリーンへの投影で行った.
被験者に回答させる質問紙の質問は,
「走りやすさ」「危険感」
「被注意意識」「気付きやすさ」
「景観」
に関する質問を全部で13項目用意し,回答方法はVisual Analogue Scale(VAS)を用いた.
7)被験者
実験に参加した被験者は大学生及び大学院
生28名.平均年齢は23.4歳で,男性16名,女性12名であった.
<結果>
a)分散分析
質問の素点を従属変数とし,性別を被験者間要因,地点とマーキングの有無の2要因を被験者内要因とする分散分析を行った結果,明確にマーキングによる有意差がみられたのは,「景観」に関する〈あなたはこの交差点が景観に調和していると思いますか〉というものだけであった.(F=11.77,df=1,p<0.05)(表1)



質問によっては,場所を限定すれば有意差が出るものもあったが,一定の方向性はみられなかった.
景観以外の4項目をカテゴリー別に見てみ
る.
1)「走りやすさ」においては,言及出来るような結果は出なかった.
2)「危険感」においては,男性において,マーキングの影響が異なって出る地点が存在した.
例えば,A地点ではマーキングをする事で,男性はより危険だと感じると評価したが,B地点においてはマーキングをする事で,男性はより危険ではないと評価した,というようなものである.
3)「被注意意識」においては2地点で,性別の違いによってマーキングの影響が違ってくる結果が見られた.
影響の方向は性別によって異なっていたものの,性別によって一定の傾向はみられなかった.
例えば,A地点ではマーキングをすること
で,男性はより注意をされていると評価し,女性はより注意をされていないと評価したが,B地点では,マーキングをする事で,男性はより注意をされていないと評価し,女性はより注意をされていると評価した,というようなものである.
4)「気付きやすさ」においては3地点で,マーキングの効果が出ていた.被験者はマーキングをすると3地点では,気付きやすくなると評価した.しかし,その他の7地点では評価の差は出なかった.
b)因子分析
被験者の回答の素点の平均値をもとに,主
因子法で因子軸を決定し,バリマックス回転をした.固有値1で分析を行った結果,第2因子まで抽出された.
因子分析の結果,第1因子は58.71%の寄与率を示し,第2因子は28.63%の寄与率を示した.累積寄与率は87.34%となった.
 第1因子において,寄与率の高い質問項目
は,
・この場面はあなたにとってどのくらい危険だと思いますか
・この交差点にあなたはどれくらいの速度で進入しますか
・あなたはこの交差点を美しいと思いますか
・交差道路にどのくらい注意を払いますか
・あなたはこの交差点にどのくらい減速して進入しますか
・あなたはこの交差点が好きだと思いますか
・この場面はあなたにとってどのくらい走りやすいですか
・時速30qで進行すると,どのくらいの確率で自動車と事故に遭うと思いますか
・あなたはこの交差点が景観に調和していると思いますか
・時速30qで進行すると,どのくらいの確率で人や自動車と事故に遭うと思いますか
の順になっている.
本実験で行った質問5分類の内,走りやすさ,危険感,景観に含まれる項目が,それぞれ均等に上位に来ていることから,『交差点嫌悪因子』とした.
 また,第2因子において寄与率の高い質問項目は,
・交差道路側の自動車はこちらにどれだけ注意を払っていると思いますか
・交差道路側の人や自転車はこちらにどれだけ注意を払っていると思いますか
・この交差点はどれくらい気付きやすいですか
の順になっている.
 こちらはそのまま『被注意因子』とした.
 さらに,これらの因子がマーキングとどのように関係があるかを調べるために,これらの因子の場面ごとの因子得点を直線座標上にプロットした.(図1)


マーキングされている交差点(有),マーキングされていない交差点(無)ごとに見てみると,多少の傾向を見て取ることが出来る.

<考察>
分散分析においては、景観に関して以外では,マーキングは優先道路を走行しているドライバーの主観評価に対して影響を与えているとは言えないが,場所によっては影響を与える可能性がある.
マーキングを施すにあたり,交差点を吟味し,効果を上げることが出来る交差点にのみ,マーキングを施すのが良い方法であると考えられる.また,場所を吟味したとしても,現在のマーキング方法ではそれほど効果を上げられない可能性もある.さらに,現在のマーキングでは性別によって,効果が変わってくる可能性も考えられるので,マーキング方法にも,検討が必要だと考えられる.
 因子分析では,因子得点をプロットした散布図を見ると,『被注意因子』において,マーキングされていない交差点の因子得点は,得点の低いものと,得点の高いものに分かれ,マーキングのされた交差点の因子得点は,その中間に集まる傾向が見られる.
交差道路側がこちらを注意していると思い込んで,気の緩みやすいような交差点では,マーキングが注意を喚起する効果をあげる傾向があるが,交差道路側がこちらを注意していないと考え,注意をしている交差点では,マーキングが注意する意識を低下させる傾向がみられる.
つまり,本来注意をあまりする必要がないと考えられている側に対して,注意を喚起する効果があると考えられる.本来注意を払っている場合の意識の低下は,交差道路側がマーキングのために注意をするようになると考えた結果だと推測される.

<結論>
1)無信号交差点における道路マーキング(ニート舗装)は景観に関して以外では,優先道路を走行しているドライバーの主観評価に対して明確な効果を上げてはいない.ただし、優先道路を走行している事,他にマーキングがない事,十字交差点である事という条件がつく.
2)無信号交差点において道路マーキング(ニート舗装)を行うことによって,交差点の景観は損なわれると評価される.

<まとめ及び今後の課題>
 考察でも触れたが, 現在のマーキングよりも,より気付きやすく,性別によって差の生じにくく,景観を損なわないマーキング方法を考案するのが理想的である.
 一方,現在のマーキングのままで,効果を上げる方法としては,交通教育の上で,マーキングのされた交差点では,注意をしなければいけない,というような教育を行うという方法が考えられ考えられる.この場合では,マーキングに規則性がないため,それによる弊害が出ないように教育を行う必要があるだろう.
 今後の課題としては,次の3点が考えられる.
1)今回の実験では,無信号交差点の優先側のみを扱った.逆に非優先側を扱った場合,異なる結果が出る可能性がある.今後は非優先側の研究も必要であると思われる.
2)今回の実験で,同じ無信号の十字交差点でも,交差点によってマーキングの影響が出る場所と出ない場所がある事がわかった.
今後はどういった交差点で,どのような違いが出るのかを検討する必要がある.
3)今回の実験では,性別によってマーキングの影響に違いが出る可能性がある事がわかった.今後は本当に性別によって影響に違いが出るのか,また,出るとすれば,どのような違いなのかと研究する必要がある.
<参考文献>
・石田敏郎:バリエーションツリー分析による事故の人的要因の検討,自動車技術会論文集,1999,Vol.30,125-130
・神田直弥:出合頭事故における非優先側運転者の交差点進入行動の検討,日本交通科学協議会会誌,2001,Vol.1,No.1
・杉本圭造:危険予知に対する映像提示の効果,2003,早稲田大学修士論文
・金石良和:路上マーキングによる自動車運転者への影響に関する一研究,1998,早稲田大学卒業論文
・交通事故統計年報平成13年版,財団法人 交通事故分析センター
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