早稲田大学石田研究室


数字消滅テストのパフォーマンスの変動

秋山 勇樹


1. はじめに
乳幼児,児童,生徒,教師,社会人,発達,知能,性格,行動・社会性,適性,親子関係,学力,創造性,記憶などの諸特性を理解することは,心理学や臨床心理学,カウンセリング,行動科学等を学習するものにとって重要である.また,教育,保健医療,産業福祉,司法,矯正,開業に関係する職業についている人々にとっても重要である.そのため,心理テストは様々な場面に活用され,特に心身障害者(児)の正しい理解や診断・指導には必須の道具であり,3歳児健診,就学時健診などにも諸心理テストが広く利用されている.
また精神作業とは,身体作業に対して使われた言葉である.精神の活動をもって口を糊する人間の多い現代社会において,精神作業は考察すべき重要な問題のひとつであろう.そして,人は作業をする際に,いろいろな性格が垣間見え,さまざまな特性が表れてくるのである.そういった作業特性を調べるために,簡単な作業を与えてその結果から性格特性を見る作業検査が,学校や会社などで利用されるようになってきている.

2. 研究目的
内田クレペリン検査は専用の検査用紙を用い,結果を手作業で集計するため,検査者の負担が大きく,集計ミスが起こる可能性を排除できない.そして,パソコンのプログラムによって簡単に行うことのできる数字消滅テストが,内田クレペリン検査と同じ作業特性を測ることができ,また他に注意持続という側面も測ることができると考え,内田クレペリン検査・CPT(注意持続テスト)という二つのテストと比較・検討をし,数字消滅テストについて調べることを本実験の研究目的とした.

3. 実験方法
3-1 実験手順
20名(全て男性)の被験者に数字消滅テスト・内田クレペリン検査・CPTの3つの作業検査を行わせた.その際,3つのテストの行う順番は被験者ごとにカウンタバランスとした.

3-2 作業内容
数字消滅テスト
パソコンのプログラムを利用して行う検査で,図3-2-1のように00から99の100個の数字を縦横10×10にランダムに配置し,それを00から順に00・01・02・03というように探していく作業を行った.その際,1つ数字を探すごとに00から99の100個の数字の配置は毎回ランダムに変えた.こういった作業を1試行3分として5試行を行い,試行間に1分の休憩を挟んだ.そして,試行の間の休憩には休憩画面が自動的に表示されるようにした.

また,ディスプレイが15インチで,画面の解像度がXGA(1024×768ピクセル)の設定のノートパソコンを用い,操作はすべてノートパットを使って行った.そして,被験者とディスプレイとの距離は約60cmで行い,また一マスあたりの大きさは1.1cmである.そして,被験者とディスプレイの距離を60cmとして時,この条件下では1マスあたり1.050度の大きさで見えるようにした.

内田クレペリン検査
ひと桁の数字が横にたくさん幾行にもわたって印刷されている検査用紙を用いた.そして,この横に並んでいる数字を1行目から,1文字目と2文字目,2文字目と3文字目,3文字目と4文字目というように加算し,その答えを数字の間に書き込んでいく作業を行った.答えが10以上になる時は,その答えの1の位の数字,例えば12の場合は,「2」を書き込んでいく.そして,このような作業を検査者の号令にしたがって行をかえていくという作業検査を行った.本実験では,1行を20秒として1分間(3行)の練習試行の後に5分間(5行)行った.

CPT
A,X,C,E,G,K,I,O,P,Qの10種類のアルファベットを用い,そのうちのどれか1つが1.2秒間隔で順に映し出される.その時に,「A」の直後に「X」が出てきた場合にのみキーを押すという作業を行った.1回にアルファベットが映し出されている時間は0.96秒で,アルファベットが消えてから次のアルファベットが映し出されるまで0.24秒の間隔があるようにした.
本実験では,パソコンとタキストスコープを用いて,15分間継続して行った.アルファベットは全部で750回映し出され,キーを押さなければならない回数を180回にした.


3-3 分析データ
数字消滅テスト
数字消滅テストにおける分析データは,試行ごとにプログラムによって自動的に保存され,数字を何個探せたかという「作業量」,前の数字を探し終えてから次の数字をクリックするまでの時間を「平均時間」,1試行の間に何回間違った数字を押したかという「エラー回数」,また前の数字から次の数字までの距離(1マスの距離の値を1として扱う)の平均を「平均距離」とした.また,「平均時間」には極端値が含まれているので,対数変換した値を「平均時間」の値として用い,「平均距離」を「平均時間」で割ったものを「時間あたりの距離」とした.

内田クレペリン検査
本実験では,本来の内田クレペリン検査とは異なった方法を用いたので,一桁の計算の作業量にのみ注目し,「作業量」のデータだけを取った.

CPT
「A」に続いて「X」が出るという正解の反応が出てから,キーを押すまでの時間を反応時間としてデータを取った.また,キーを押さなければならない時に押していない,キーを押してはならない時に押している,キーを押すまでの時間がかかりすぎている,という3種類のエラーを「エラー1」「エラー2」「エラー3」に分けた.そして,15分間の試行を5つの区間に分けて,5つの区間と全区間において3種類のエラー回数をデータとして取り,また全てのエラーにおいて5つの区間と全区間のエラー回数もデータとして取った.

4. 結果・考察
4-1 それぞれのテストについて
内田クレペリン検査について
本実験では,5分間の作業に変更して行ったが,分散分析の結果,1試行目と3・5試行目,2試行目と3・5試行目の試行間に有意差がみられ,試行の要因は有意であった(F(4,76)=8.62,p<.01).また実際の内田クレペリン検査における定型曲線に近い曲線を描いていた.

したがって,5分間における内田クレペリン検査は,時間の経過による作業量の変化をある程度正確に表したデータが取れていたと考えられる.

CPTについて
エラー回数・反応時間の試行間における有意差は見られなかった.したがって,CPTによって時間の経過による注意力の低下の個人差を測定できるということを確認できなかった.このような結果が出たのは,CPTというテストがもともと健常者と注意障害の見られる精神障害者を比較する時に用いられることがほとんどであり,今回の実験のように被験者が心理学的な意味での健常者のみで行ったのでは,個人差が生じないのではないかと考えられる.そのため,数字消滅テストが注意の持続を測定できるかという点を判断するためのデータとして,利用してよいか不安が残った.

数字消滅テスト
数字消滅テストの作業量・平均時間・エラー回数のどれも,試行間における分散分析の結果,試行間で有意差が見られなかった.したがって,試行が進むことによる作業の低下や平均時間の増加,そしてまたエラー回数の増加といった変化が表れるということは確認できなかった.
このような結果の原因としては,数字を探す際に01から09までは全体を見て0を探すと見つけやすいといったような見つけやすい探し方を,試行が進むにつれて覚えていったという習熟による作業量の増加と,疲れなどによる作業量の減少が打ち消しあったために,作業量と平均時間の試行間に有意差が生じなかったと考えられる.
またエラー回数に関しては,ノートパットの使用に慣れない人がいたため,操作ミスのエラーが含まれてしまい有意差が生じなかったと考えられる.

4-2 数字消滅テストと内田クレペリン検査・CPTの比較
数字消滅テストと内田クレペリン検査の比較
数字消滅テストの作業量と内田クレペリン検査の作業量の試行間に有意相関が見られた箇所があった(2試行目,3試行目,5試行目において,相関係数が.449,.583,.496で有意であった(p<.05))ことから,内田クレペリン検査の作業量,つまり人が行う単純作業の達成量を数字消滅テストの作業量によって表すことができたと考えられる.また,図4-2-1,図4-2-2,図4-2-3は相関が見られた2試行目,3試行目,5試行目の散布図を表したものである。


数字消滅テストとCPTの比較
数字消滅テストの作業量とCPTにおいて,数字消滅テストの作業量の2試行目とCPTのエラー2の2試行目,また数字消滅テストの作業量の合計とCPTのエラー2の合計・また全種類のエラーの合計に相関係数がそれぞれ-0.470,-0.503,-0.460で負の相関が見られた(p<.05).だが,今回の実験においてCPTが注意の持続を測定することができていたかということに疑問があるため,数字消滅テストの作業量が注意の持続を測定できるとは,いえないと考えられる.

4-3 全体の流れについて
数字消滅テストと
内田クレペリン検査の全体の流れについて
内田クレペリン検査の作業量の変化と数字消滅テストの時間あたりの距離の変化に,相関係数が.884で有意であった(p<.05).したがって内田クレペリン検査の作業量,つまり単純作業を行ったときの達成量の変化を,数字消滅テストの時間あたりの距離の変化によって表すことができると考えられる.


数字消滅テストの時間あたりの距離
数字消滅テストとCPTの全体の流れについて
さまざまなデータにおいて相関を調べたが,どれも有意ではなかった.だが,CPTが注意の持続を測定できていなかったと考えられるため,この結果から数字消滅テストは注意の持続の変化を測定できないと判断してはならないと考えられる.

5.結論・今後の課題
5-1 結論
・数字消滅テストの作業量と平均時間によって,繰り返し行う単純作業の達成量を表すことができることが確認された.

・数字消滅テストの時間あたりの距離によって,内田クレペリン検査の作業量の変化、つまり繰り返し行う単純作業の達成量の変化を表していると言える.

・数字消滅テストは注意の持続力を表すことができるのではないかと仮説で述べたのだが,そのことを本実験では証明できなかった.

5-2 今後の課題
・本実験では,数字消滅テストを1試行3分・休憩1分として5試行を行ったが,試行が進むことによる作業量の低下や平均時間の増加,またエラー回数の増加といった変化といったことは見られなかった.そのため,最も適した試行回数や試行時間,そして休憩時間の設定を考える必要がある.

・数字消滅テストは注意の持続力を測ることができることを証明するためには,CPTに変わる注意の持続力を測るテストを用いて実験を行うか,もしくは,被験者を心理学的な意味での健常者と注意障害の見られる精神障害者の2つのグループに分けて研究を行う必要がある.

・数字消滅テストにおけるエラー回数を厳密に図るため,被験者が使いやすいマウスまたはノートパットを用いて操作上のエラーを排除する.

・数字消滅テストにおいて習熟の効果が否定できないため,習熟の影響を排除できる実験計画を練る.
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