早稲田大学石田研究室


携帯電話使用時の会話の与える不快感に関する一研究

田村 達郎


1.研究目的

携帯電話はその便利さと救難時の安全への社会的な寄与などにより,短期間での著しい普及を遂げた.その反面,それがあまりにも急速であったため,携帯電話による迷惑や障害が多く生じる結果となっているのも事実である.そこで,本研究では携帯電話に関するさまざまな問題の中でも,公共の場における迷惑に関して,アンケート調査を実験を実施し考察することにする.

2.方法

アンケート調査は大学生100名(男性42名,女性58名)を対象に,調査用紙を用いて行った.10個の場面(表1参照)それぞれについて携帯電話の使用を不快に感じるかを聞き,不快と答えた人にはそれぞれの場面について,不快感の原因11項目(表1参照)の中から当てはまると思うものを選択してもらった.

また,アンケート調査とは別に,大学生30名に対して実験を行った.実験は1名ずつ行い,被験者がYG性格検査を行っている間に,通常会話の会話音による刺激,着信音ありでの携帯電話の会話音による刺激,着信音なしでの携帯電話の会話音による刺激,のいずれかを与えるという方法をとった.この間に被験者を撮影したビデオと,実験後に被験者に答えてもらう不快感アンケート(表2参照)によって,それぞれの刺激に対する不快感を調査した.

表1 場面と不快感の原因の選択項目
場面と不快感の原因の選択項目

表2 不快感アンケート
不快感アンケート

3.結果と考察

3.1調査の結果と考察

以下に示したグラフは各場面ごとに不快感を感じた人の比率を男女別に表したものである.分散分析の結果,性別,携帯電話の使用頻度の違いによる不快感の差は有意ではなかった.しかし,場面の違いによる不快感の差は表3にも示したように有意であった(F(9,90)=10.25,p<.01).LSD法による多重比較を行ったところ,表4のように有意差が見られた(Mse=1.37,5%水準).

各場面ごとのグラフ
図1 各場面ごとのグラフ

表3 分散分析表
分散分析表

表4 多重比較の結果
多重比較の結果

場面の多重分析の結果から,場面を3グループに分けることができた.上位グループ(不快と感じる人の割合が高かった場面のグループ)は「混雑した電車,図書館,病院,映画館」の4場面であった.下位グループ(不快と感じる人の割合が低かった場面のグループ)は「人通りの多い道,人通りの少ない道,ファミリーレストラン,駅のホーム,バスの停留所」の5場面であった.この2グループの中間に位置したのは「空いている電車」という場面であった.

まず,上位グループであるが,この中でも図書館,病院,映画館はその場所でしかできない,その場所特有のことをするためにいくところであると言える.図書館であれば,本を読む,調べもの・勉強をするところであり,病院であれば,診察を受ける・お見舞いに行く所であり,映画館に関しては映画を見に行くところであるのが普通である.そして,この3場面はどれもうるさい,騒がしいということがあってはいけない場所だといえる.混雑した電車はこれに当てはまらず,うるさい,騒がしいということもありうる場所であるが,10場面の中で最も人が密集している場合が多い.この場面は携帯電話を使う人との距離が近くなる可能性が高く,しかも狭くて身動きが取れない状況に一定時間置かれることになるため,不快を感じる割合が高いと考えられる.

次に下位グループであるが,どの場面もある一定の目的で人が集まっているは限らない場所だといえる.ファミリーレストランは食事という特定の目的があるように見えるが,雑談や待ち合わせ,時間つぶしなどにも用いられているため,一概にそうとも言えない.そして,ファミリーレストランには当てはまらないが,それ以外の場面に関しては,その場所にそれほど長い時間滞在することがないのも特徴である.

最後は空いている電車であるが,この場面はうるさい,騒がしいということがあってはいけないという訳ではないが,通常静かな場所である.この場面に対しての考え方が一様でないことから,不快を感じるか感じないかが異なり,中間に位置することになったと考えられる.

3.2実験の結果と考察

分散分析の結果,性別,刺激,性格の違いによる不快の感じ方の差は有意なものではなかった.また,不快感を態度に示す被験者もほとんどなく,ビデオ解析から被験者の不快感を分析することはできなかった.このように本実験では,刺激,性別,性格による不快感の違いに差がなかった.この結果が正しく,話の内容,声の大きさ,環境などを違う設定にしても同じ結果が得られるとすれば,完全に個人差によるものであるといえることになる.しかし,差がなかったのはこの実験に不備があったからだとも考えられる.その不備となっている可能性があるものについて,考察を行った.

・刺激について

本実験においての会話音による刺激はどのパターンにおいても同一の被験者が行っていた.この会話は基本的には台本に基づくたわいのない会話で統一していたが,会話の内容(たわいのない内容の会話ではなく,もっと不真面目な内容の会話など)・声の大きさによっては不快感に差が出るとも考えられた.本実験で,実験者は普段どおりに会話を行ったのではあるが,「うるさい」という不快感があまり高くなかったことからも,その声の大きさが不快と感じる境界点まで達していなかった可能性もあった.

また,実験者の印象によっても不快の感じ方に違いがあると考えられたが,本実験では実験者を常に同じ人物で行ったため,計測することはできなかった.さらに,実験者に対する印象を聞く項目も設けなかったため,確実にそうであるとはいえないが,本実験での実験者の印象が一般的に見てよいものであったとも考えられる.もっと,印象が悪くなるような人物を実験者にしたり,態度を悪くしていれば不快感の差は出ていたと思える.

しかし,本実験では同一の環境,刺激,実験者のもとで携帯電話と通常会話とでの会話音に対する不快感の違いを調査するのが目的であったため,上記の点を考慮することができなかったが,会話の内容・声の大きさによる違いと会話を行う人物での違いを見る実験も必要であるといえる.

・実験環境について

本実験では606実験室(ゼミ室)を使用し,普段この教室を利用している方々には基本的には普段どおりに振舞っていただいた.しかし,被験者にとってはきたことのない実験室での,しかも,卒業研究の実験であるため,少なからず緊張や実験に対する構えがあったと考えられた.それが原因となって,不快と感じなかったり,不快が態度に出なかったとも思える.被験者にとって,もっと自然な環境で実験を行うことが必要であったかもしれない.

・被験者に与えた作業について

実験は被験者にYG性格検査を実施させている間の数分間に,会話音による刺激を与えたのだが,このYG性格検査が被験者にとって興味深く,面白かったため,検査に夢中になり不快を感じなかったとも考えられる.例えば,単に実験の準備と称して,ただ待たせている間に刺激を行うという方法や,被験者の興味を引かないような本を読ませ,その間に刺激を与える方法など,もう少し簡単で興味を引かないような作業を行わせるべきであったと思われる.

4.結論

・携帯電話の使用に対しての不快感は,性別・使用頻度による差がない
・携帯電話の使用に対しての不快感は,場面によって差があった.以下に不快感が高かった場面を挙げ,括弧内には100名の中で不快感があると示した人の比率を示した.
  混雑した電車(74%)
  図書館(94%)
  病院(87%)
  映画館(96%)
・通常の会話音,着信ありでの携帯電話による会話音,着信音なしでの携帯電話による会話音の3条件で不快の感じ方に差はなかった.また,性別,性格による不快の感じ方の差もなかった.


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