早稲田大学石田研究室


共同作業における作業方式がエラー発生に及ぼす影響

大西 正紘


1.目的

現在様々な産業場面において労働災害が問題視されている。労働災害の原因のほとんどはヒューマン・エラーに基づくといわれており、その観点からの研究が複数の人間が一つの作業に直接関わる場合が多い建設業を中心に行われている。現在、作業上のコミュニケーションに関わる問題が重要な労働災害形成要因と指摘されているが、この観点からの研究は進んでおらず、要因の解明が待たれる状態である。

江川ら(1998)は建設業における労働災害事例からコミュニケーション・エラー(情報が正しく伝達しないことによるエラー)が原因で発生したと考えられる労働災害事例を抽出し、分類を行った。その結果、「時間」「場所」「作業目的」という3つのカテゴリーでモデル化を行い、建設業における労働災害は6通りのモデルに収まるとしている(表1参照)。

表1 6つのモデルの「時間」「場所」「作業目的」の関係
6つのモデルの「時間」「場所」「作業目的」の関係

江川ら(1999)はこれらのモデルの中からモデル1(場所、時間が同一、作業目的が異なるケース)を対象にし、共同作業時におけるコミュニケーションとエラー発生の関係を明らかにする目的で実験を行った。その結果、観察されたエラーは見越型がほとんどであった。

作業方式については、Cathy C.Durham(1997)がチームがどう行動するかチームのメンバー全員で決定する協調型と、チームがどう行動するかは全てチームの1人が決定する独裁型とでパフォーマンスの違いが発生するか実験を行っている。その結果、協調型の方が独裁型よりもよいパフォーマンスがあることが明らかになっている。江川らの実験においても、被験者のとる作業方式の違いによって実験終了時間、エラーの発生数などのパフォーマンスに違いが発生することが予想される。

本研究では、コミュニケーションを伴う作業において作業方式がパフォーマンスに及ぼす影響の要因を調査することで、作業上のコミュニケーションのエラーが原因となり発生する労働災害の要因の解明を目的とする。

2.方法

2.1実験日時

1999年8月4、5,6,10,12,13日

2.2実験場所

労働省産業安全研究所環境安全実験棟内 人体防護実験室

2.3 被験者

大学生・大学院生 48名

2.4 実験内容

被験者を2名2チームに分け、実験領域の内部で様々な部品を組み合わせる組立作業を行わせた。被験者は、自チームに与えられた領域内の組立作業台、組立図置場、組立部品置場を往復しながら、組み立て作業を行った(図2参照)。被験者は作業を行う際に他方のチームの領域の一部(以下、クロス域)を通行しなければならず、この領域に異なるチームの2人は同時に進入できず、通行する際は何らかの形で合図をしなければならないと教示した。クロス域に異なるチームの2人が進入したとき、エラーの発生と見なした。被験者の行動をビデオカメラで撮影し、エラーの発生時間、規模(大、中、小)、被験者のとる作業方式などを記録した。

3.結果・考察

被験者の作業方式を知るために実験時間を10分ごとに区切って作業方式を分類し、類型化した。表2は被験者のとった作業方式とその作業の内容である。○はチームのメンバーが行う行動であることを表している。

表2 作業方式とその内容
作業方式とその内容

作業方式ごとのエラー規模とその数

実験領域と撮影範囲

(1)作業方式とエラー発生数との関連性

図1は各作業方式毎に発生したエラー数とその規模を示したものである。分散分析の結果、類型化した作業方式と、エラー規模「大」「中」「小」を合わせた全てのエラーの発生数で有意な差は見られなかった(F(4,19)=1.537, p>.10)。

類型化した作業方式とエラー規模「大」「中」「小」それぞれのエラーの発生数との検定ではエラー規模「大」「小」では有意差は見られなかったが、エラー規模「中」では遠隔指示型と分担型の間に有意差が見られた(F(2,14)=4.984, p<.01, MSe=2.921、5%水準)。

このような結果になった理由に見越型エラーが多いことが挙げられる。江川は見越型のエラーが多い理由として、身体的接触の有無が重要視される可能性を挙げた。見越型エラーがほとんどであるということは身体的接触が重要視されていたと推測されるため、相手と接触しなければクロス域を通ってよいという意識につながっていたと思われる。それは作業方式にかかわらず、同様にエラーが生じたと考えられる。最初に与えたエリアに関するルールが形骸化し、効果がなくなっていると言える。また、エラー規模「中」において遠隔指示型と分担型の間に有意差が見られた要因に、遠隔指示型は1人が組立図からもう1人に指示を出しているため、必然的にクロス域を移動するのが1人になり、結果エラーが少なくなるのに対して、分担型は部品運搬を分担するため、クロス域を移動するのが2人になり、クロス域を通行する機会が多くなるため、エラーの発生が多くなることが考えられる。

(2)作業方式と組立作業終了時間との関係

組立作業終了時間で作業方式毎に違いがあるか調べるために分散分析を行った。その結果、条件の効果は有意であり(F(4,19)=3.535,p<.05)、遠隔指示型と独立作業型(p<.01) 、組立協同型と独立作業型(p<.01)、分担型と独立作業型(p<.05)で有意差があった。独立作業型は部品の組立作業とそれに伴う運搬作業はあらかじめ担当を決めておき、それぞれ別々に行うため、作業の際に同じチームのメンバーとコミュニケーションをとる必要がない。そのため、他の作業方式のようにコミュニケーションに時間を割く必要がなく、他の作業方式との差が発生したと思われる。

(3)組立過程とエラー発生との関係

組立終了時間を1として、組立時間中に発生した全エラーの発生時間を百分率で表し、その過程を序盤(百分率0〜0.35)、中盤(百分率0.35〜0.70)、終盤(百分率0.70〜1.00)に分けた。組立過程の違いでエラー数に違いが発生するか調査するため、分散分析を行った。その結果序盤と終盤の間にのみ有意差が見られた(F(2,54)=5.007,p<.05, Mse=2.526,1%水準)。

序盤と終盤の間で差が発生した理由に、被験者がクロス域の通行を伴う作業に慣れていなかったことが挙げられる。被験者には作業に慣れさせるために、練習試行を約10分間行わせているのだが、練習試行では完全に慣れておらず本試行で序盤のエラー発生に影響が出たものと思われる。また、終盤では部品運搬がほぼ終了し、被験者は作業内容を確認するために組立図エリアと作業台の間を往復する行動に移り、相手エリア内のクロス域をほとんど通らなくなる。その影響がエラー数の減少に現れ、序盤の慣れとの相互作用で条件の差があるという結果になるものと考えられる。


4.結論

本研究より以下のような結論が導き出せた。
・作業方式の違いとエラーの発生数との間には関連が見られなかった。
・遠隔指示型は分担型よりも中規模のエラー数が少ない傾向が見られた。
・独立作業型において組立作業終了時間が最も短かった。
・作業の終盤よりも、前半の方がエラーの発生数は多かった。
・全体のパフォーマンスは独立作業型が最も高かった。

5.今後の課題

本研究では実験を行ってから、チームを作業方式毎に分類していったため、各作業方式のサンプルチーム数が同一にならず、分析に少なからず影響を与えた。特に分担型、独立作業型はサンプル数が少なく、作業方式とエラーの発生との関連性を調べる際に十分な統計的処理が行えなかったり、作業終了時間の検定ではその要因を完全には特定できないことがあった。今後は作業方式ごとにチーム数を統一し、条件を統制して再度実験を行っていきたい。また、条件の統制という面からみると、本実験では、片方のチームの作業が終了するとエラーの観察は行えないため、解体作業を行なわないチームがあったり、解体作業を終了し、2回目の組立を行ったチームがあったりで不備な点があった。その点も次回の実験では考慮したい。

エラー規模の分類の際に、画角の関係からビデオ画像による詳細な被験者の位置の判断が困難であったため、エラー規模の判断は大まかに行なわざるを得なかった。さらに、エラー規模の判断に用いた三段階の基準(大・中・小)が必ずしも等間隔ではなかった可能性があり、分析の際にこれらの影響が出たものと思われる。今後はエリア内に目印をつけることなど客観的な寸法を用いて対処する必要がある。

今回の分析では、被験者の行動を完全には把握できなかった面もあり、本研究の実験のビデオ画像をもう一度分析することで、被験者の行動とエラーの関連性を検討し、コミュニケーション・エラーの要因をさらに解明していきたい。また、エラーの発生には個人の性格が反映されていると思われるため、Y−G性格検査など、多種の性格検査を用いて被験者の性格を検査し、そのエラーとの関連性も検討していきたい。

6.参考文献

1)中村ら:「建設作業現場におけるコミュニケーションとエラー発生に関する実験的検討」平成11年度日本人間工学会関西支部大会講演論文集 p143〜146 
2)江川ら:「コミュニケーション・エラーにより発生した労働災害の分類」日本人間工学会第39回大会講演集 p156〜157(1998)
3)江川ら:「共同作業時におけるコミュニケーション・エラー発生の可能性に関する研究」 人間工学 vol.35 特別号1 p 127(1999)
4)Cathy C.Durham et al.:「Effects of Leader Role,Team-Set Goal Difficulty, Efficacy, and Tactics on Team Effectiveness」Organizational Behavior and Human Decision Processes,Vol.72,No.2,p203〜231,1997


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