早稲田大学石田研究室


チーム編成が組立作業時のパフォーマンスに与える影響

増田 未知


1.はじめに

近年起こる航空機事故について、柳田(1987)は「欠陥やミスはたとえ小さなものがあっても、機械(システム)が巨大であるときには、掛け算の結果として起こる事故の規模は巨大になる危険がある」と指摘している。そしてこれらの事故の要因は主に以下の三つにわけられる。
(1) 機械設備・環境要因
(2) マネジメント要因
(3) 人的要因

これら三つの要因が関連し災害事故やヒューマンエラーが起こる中で、最も基本的でかつ最も大きな影響力をもっているのが、人的要因である。機械設備・環境に含まれているのは、あくまでも危険因子の一つにすぎなく、それを形作るのは人間である。同様に、マネジメントに関しても一種の人的要因が関わっている。そして人的ミスの要因として、海保(1986)は以下のように分類している。
(1) 単純な「錯覚」「勘違い」
(2) 流れ作業の中の「単純操作ミス」
(3) 慣れによる「取り違い」「早飲み込み」
(4) 「緊急時の困難」に起因するミス
(5) 「チームワーク」の欠如によるミス
(6) 「業務怠慢」
(7) 「規定軽視」「規定無視」

人的要因は事故傾性など個人差に影響されるところも大きいが、仕事は通常一人で行っているわけではなく、リーダーや個人の所属する組織の特性に左右されるところが多分にある。つまり、メンバーとリーダー等、各人の役割分担またメンバー相互間のコミュニケーションも安全に関わる重要な要素なのである。

2.目的

以上のことから、組織内のメンバー編成による作業パフォーマンスへの影響を、作業状況認知の有無・人数・組み合わせ等から調査し、あわせてそのコミュニケーションの過程も調査する。

3.条件

○ 実験日時

2000年11月22日〜2000年11月30日

○ 実験場所

早稲田大学人間科学部所沢キャンパス内406号室

○ 被験者

早稲田大学人間科学部学部生および大学院生26名(男子13名・女子13名。平均年齢約22.4歳)

○ 実験器材

 ・LEGO TECHNIC STARWARS EPISODE I DESTROYER DROID:玩具店等で市販されている組み立て玩具(3セット)
 ・SHARP Hi8 VIEWCAM VL-HL50(3台)
 ・ストップウォッチ
 ・机(4×3セット)
 ・椅子(2×3セット)
 ・組み立て説明書 (5部:うち2部はカラーコピー)
 ・作業達成表(27部)
 ・フェイスシート(26部)

4.方法

被験者ABCDEを1班(AB)・2班(CD)・3班(E)に分け、班毎に組立作業を行う。制限時間は60分とし、途中作業開始から30分経過後の作業中断および構成員の入替えについては被験者には伝えないものとする。作業中断後の構成員の入替えは、
・1班:前半の作業の未経験者2名
・2班:前半の作業の未経験者1名と経験者1名
・3班:前半の作業の未経験者1名
という位置づけから、CEを1班・ADを2班・Bを3班とした。入替え後は、前半と同様に残り30分で途中になっている作業の進捗状況を判断し、作業を継続する。なお、被験者には各班ごとに1セット「作業達成表」を配布し、随時作業到達点をラインマーカーでチェックさせ、中間作業達成および最終作業達成を記録した。

5.仮説

作業中断後の構成員に与えられる情報の質・量から考えると、
・経験者1名・未経験者1名から成る2班 →質・量=高
・未経験者2名から成る1班 →質=中、量=高
・未経験者1名のみの3班 →質・量=低
の上から順に中断後の作業達成伸び率は高いと考えられる。

6.分析

各被験者が記録した「作業達成表」をもとに中間・最終作業成績を出した。あわせて被験者の行動と音声をビデオカメラで撮影・記録したものを会話・動作等を1秒単位で記録した。作業中断・入替え後、後半の作業開始から次の工程のパーツを取り付けるまでにかかった時間を「ロスタイム」とし、その長さと会話・動作・前半の進捗状況の認知度・前半の作業の役割の関連性を考察した。

7.結果・考察

下の表1は被験者の記入した作業達成表をもとにつくったもので、本実験では「作業伸び率」を作業中断後の作業パフォーマンスの指標とする。

中間・最終作業成績

仮説でも前述のとおり2試行目では、「2班>1班>3班」の順に高い伸び率を示している。次に表2は前半所属していた班の進捗状況と比べた時の作業再開予定場所の位置づけをあらわしたものである。

再開予定場所の位置づけ

「大きく後退」「後退」に関しては、前半において既に経験済みであることから、作業再開に関して比較的見当が付きやすいといえる。しかし「大きく前進」「前進」に関しては、逆に進捗状況の判断に大きな障害となり得る。つまり、進捗状況を判断し作業を再開する上で、構成員がすでに経験したところに再開予定場所が位置づけられていることが、後半のパフォーマンスに大きく影響していると考えられる。次に示すのは各構成員の前・後半にわたるグループ内での役割である。

前・後半の役割

これら前・後半の役割は、以下の8つのパターンがあげられる。
(1) 準備→準備
(2) 準備→組立
(3) 準備・組立→準備
(4) 準備・組立→組立
(5) 準備・組立→準備・組立
(6) 組立→組立
(7) 組立→準備
(8) 組立→準備・組立

各構成員のロスタイムを計ってみると、前半「準備」のみの作業役割の構成員は、中断後進捗状況の把握までの時間が長く、また後半に「組立」「準備・組立」の役割に変化した際、あまりうまく機能できないことがわかった。しかし前半「組立」「準備・組立」の役割の構成員が後半「準備」にシフトした場合は、その役割に支障はなくスムーズに作業を継続できていた。これは「組立」という作業がパーツの認識・細部の合体・全体像の把握という一連の流れを経験する役割であるからと考えられる。

そして表4は、会話・動作の解析記録をもとに「能動的・積極的会話または動作」「受動的・消極的会話または動作」「その他の発言または動作」と3つのカテゴリに分け、コミュニケーション全体からの能動的発言・動作の割合を示したものである。3つのカテゴリの定義は以下にあげる。

(1) 能動的・積極的会話または動作
:自分自身で状況を理解する為の独り言、判断した内容をパートナーと共有する為の独り言、パートナーへの状況説明・問いかけなど、あくまでも進捗状況を理解する上で能動的・積極的姿勢の見られる発言および動作。
(2) 受動的・消極的会話または動作
:あいづちやパートナーへの問いかけに対する回答、パートナーの言動を見ての発言・動作、パートナーに進捗状況を聞くだけの発言、パートナーの判断した内容を受け入れる言葉・動作など、必ずしも積極的に進捗状況を探ろうとしていない発言および動作。
(3) その他の発言または動作
:上記の2つに分類できないもの。出会ってすぐの挨拶や、作業台に配置してすぐマニュアルを開く動作など。

グループ内における主導評価

能動的発言・動作率が高い構成員は、進捗状況を判断するにあたってそのグループの流れをつくっている人物であるといえる。つまり積極的発言・動作率が2人のうちより高いほうがグループのリーダー的存在といえる。以上のことから、組立作業時のパフォーマンスに与える要因は、

(1) 作業領域の経験の有無
(2) 作業の役割
(3) グループ内における主導権の所在
(4) コミュニケーションの相互作用性
(5) 個人差
が考えられる。

作業領域・内容についての経験が豊富で個人の資質が高ければ、一人での作業の場合パフォーマンスは高い。しかし複数人(本実験では2人)での作業では、グループ内において誰が主導権を握るか、そしてお互い意思の疎通がはかれているかということが、パフォーマンスを大きく左右することが考えられる。

作業領域・内容についての経験に欠けている人物がグループ内で主導権を握った場合、後半のパフォーマンスはあまり良くない。また両者の作業への積極性があまりにもかけはなれている場合も同じく、パフォーマンスが下がる傾向にある。これは、聞き手である側がリーダーの指示内容がきちんと理解できている場合においてはさほど問題がないが、疑問点・提案などをリーダーへ伝えない場合、間違った方向へ作業が進んでしまい、結果としてパフォーマンスが下がるためである。このように組立作業のチーム編成は、適切な人材がグループ内の主導権を握り、相互作用の高いコミュニケーションをはかることが、パフォーマンスに大きく影響しているといえる。

8.今後の課題

・フェイスシートの質問事項の吟味
・今回、作業中ほかのグループとの会話や立ち歩くことは禁止したが、各作業台を別室で作業させて環境の整備をはかったほうがよい。
・作業中、エラーを誘発するようなタスクを被験者に課したほうが、中断作業後の成績がはかりやすい。

9.参考文献

・「失敗のメカニズム 忘れ物から巨大事故まで」芳賀 繁・著 2000.1.20発行 (株)日本出版サービス
・「安全管理の人間工学」長町三生・著 1995.8.25発行 海文堂出版(株)
・「ヒューマンエラーの分析と防止」谷村富男・著 1995.8.1発行 (株)日科技連出版社
・「医療紛争の防止と対応策病院のリスクマネジメント」鹿内清三・著 1994.2.10発行 第一法規出版(株)
・「医療事故 看護MOOK No.39」内田卿子・編集企画 1992.3.20発行 金原出版(株)


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