早稲田大学石田研究室


精神疲労の測定および定量化に関する一研究

久保 京子


1. 目的

コンピュータの導入によって,予測できる課題への対処に関しては,自動的に行えるようになり,現在では人間の判断が必要な場面は減少する傾向にあるといえる.

このような作業状況にあって人間は,単調な監視作業を行いながらも,システムの異常を発見し,適切に対処できるだけの高度なパフォーマンスレベルを維持し続けなければならない.

一層の機械化自動化により,このような監視作業と不測の事態の対処という精神的作業を中心とした作業形態は今後もますます増えるものと思われる.

しかし,長時間にわたって希にしか発生しないものを監視し,いったん異常を検出したら,高度な思考過程を経て迅速に対処するという作業は,人間が最も不得意とする作業のひとつといわれている.人間は環境への適応能力が非常に高い反面,その作業能力は作業条件によって大きく左右される.そこで,精神的作業が人間の情報処理能力(の変動)に与える影響についての研究は,人間と機会の適正な機能配分を図り,最適な作業条件の設計を行う上できわめて重要である.

そこで本研究では,単調な監視作業を負荷とした場合の精神的作業疲労を,主にその作業成績(反応時間と語反応)の経時的な変動を指標として評価し,精神的作業負荷に特有の課題である作業の過小負荷(under-load)が作業者のパフォーマンスの変容に与える影響について検討する.

さらに,精神疲労の定量測定のためのパフォーマンステストバッテリー(数種類のテストを組み合わせたもの)を提案し,監視作業前後および休憩後の作業成績と,監視作業中の成績を比較検討し,その有効性を検討することを目的とする.

2. 方法

パーソナルコンピュータのモニタ上に提示された8個の円形図形を注視し,その中の一つの丸が消えたり,色が変わったら指定されたキーを押す,という監視作業を90分間行い,作業前と作業後にパフォーマンステストを行う.約3時間の休憩をはさんでこれらの作業負荷及び測定を3回繰り返す.第3回目の作業の後,約3時間半の仮眠を取り,起きぬけと朝食後に再びパフォーマンステストを行う.

パフォーマンステスト項目
1)自覚疲労調査(労働省労働科学研究所式自覚疲労調査)
 疲労感に関する質問群に「はい」,「いいえ」で回答することによって,自覚的な疲労度を調べる.
2)フリッカー値測定
 暗視野内で点滅する光点の点滅周波数を徐々に減じていき,ちらつきを感じる最大周波数(CFF: Critical Fusion Frequency)を測定する.
3)加算テスト
 2つの一桁の数の和の一の位の数を解答する,単純算術能力のテスト.1分間繰り返し行う.
4)注意配分テスト
 0から48までの数がランダムに並べられた7×7の表から,与えられた数字を探す,注意の配分の状態をみるテスト.2分間繰り返し行う.
5)短期記憶テスト
 4つの数字が短時間提示された後,2つの数字が提示され,その一方が先の4つの数字に含まれているかを解答する,短期記憶のテスト.このセットを2分間繰り返し行う.
6)色名テスト
 CRT中央に色名漢字または円形図形を提示して,刺激字体の色または文字(色名漢字)の意味する色を解答するテスト.提示された刺激の持つ属性(例えば,色,文字の意味)を選択的に取り出す能力が問われる.

3. 結果考察

前半60分の(被験者のキー入力を必要とする)刺激提示間隔条件の下では,作業時間の経過と共に回答時間も遅くなる傾向が見られ,刺激提示間隔が短く,また変動幅も小さい後半30分では,既に60分作業しているにもかかわらず,作業開始直後より平均回答時間が短く,作業終了までほとんど変動が見られない.

監視作業中の居眠りは,刺激感覚の変動幅の大きさに原因があると考えられる.

刺激の色が変化する場合と,刺激自体が消える場合とでは,消える場合の方が刺激の強度が小さいため,回答時間が比較的長くなる傾向がある.しかし,後半の刺激条件の下では両者の差はほとんど見られない.

被験者は刺激間隔の変動幅の条件に比較的短時間に適応する傾向があるので,回答時間は個々の刺激提示間隔の長短にはあまり依存しない.

以上のことから,単純な監視作業成績を長時間にわたって維持するために効果があると思われる条件は,

・作業者の何からの応答を必要とする刺激の提示は比較的頻繁に,また刺激提示間隔の変動幅も小さくする.
・刺激自体の消失を刺激にしない.刺激の色を変化さえる方が,刺激としての強度が強い.
・作業者に,作業の進行状態や終了についての情報を与えておく.
の3点である.

一方,パフォーマンステストでは自覚疲労,フリッカー値測定の結果から,これらの指標は精神的作業の影響をある程度反映していると思われた.

加算,注意配分,短期記憶テストは,各テストの平均反応時間,エラー率から見る限りでは,精神的作業の影響の有効な指標とはいえない.

色名テストでは,刺激のほかの属性(この場合は文字)の影響を受けやすい,色を答える条件で一部良好な結果を得た.


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