早稲田大学石田研究室


副次課題処理時間が視覚情報処理に与える影響

國保 友希


1、はじめに

日常生活において環境をしり、適応していくために必要な情報の大部分を視覚から得ている。大半は視覚で情報を得ていると同時に他の作業をしており、何かを見ている際中に主対象とは関係のない何かを見ようとすることも多々ある。

運転場面では、脇見運転がこれに当てはまるだろう。脇見運転は日常的に行なわれている。多くは事故へとつながらないが、事故を引き起こすこともある。死亡事故のうち原因が脇見運転であるものが約一割を占め、その割合は年々増えてきている。脇見が事故を引き起こす原因には、(1)見るべきものを見ない(認知ミス)(2)ハンドル操作を誤る(操作ミス)(3)判断を誤る(判断ミス)、の3つが挙げられる。三浦・篠原(1998)の実験では、カーナビゲーション使用時(脇見時)には、非使用時に比べ危険事態の発見時間が延び、見落とし率が高くなることが分かった。

眼でモノをみる時には、まず網膜で情報(映像)を得る。網膜に入った情報は情報が選択され、符号化されて知覚となる。又、モノをハッキリと見ることのできる範囲は、視野の中心2°であり、ここから離れると、モノがあることはわかるが、その詳細を見ることは出来なくなる。運転中には、情報伝達の速い、動きに関する周辺視と、情報伝達は遅いが精度の高い情報を伝達する中心視が並行して行なわれている。では、何かを見ている途中に他の対象に視線を移した場合、時間によって影響に差が出るのか、運転場面において実験・研究する。

2、実験

2-1 実験日時

2000年11月24日〜12月5日

2-2 実験場所

早稲田大学所沢キャンパス 520暗室

2-3 被験者

大学生・大学院生7名(21才〜24才)

2-4 実験方法

実験は、以下の手順で行なった。

実験の流れ

実験は暗室で部屋の照明を消して行なわれ、被験者は画面にあわせて、ハンドル・アクセル・ブレーキを操作する。各試行で呈示される映像は、1車線直線道路・2車線直線道路・カーブの道路であり、途中予告なく画面が切り替わり、計算問題が出題される。計算問題の提示時間は、1.5・2.0・2.5・3.0・3.5・4.0秒の6種類がある。提示時間が過ぎると、もとの画面の続きに戻る。(図1)

呈示映像
図1:呈示映像

3、結果

三浦・篠原(1998)の実験をふまえ、実験によって得られた結果のうち脇見前後5秒間を検討対象とする。脇見課題の呈示は、予告をしないため脇見前は通常の運転状況と言える。又、実験後の状況と脇見時間をはさんで連続しているため、状況が似通い脇見後の視線との比較対象として適当と思われる。ただし、被験者7名中3名は実験不備によりデータが取れなかったため、4名分を結果として使用する。また、被験者Cについてはカーブ映像で脇見時間3.5秒時のデータが不備であったため、これを含まない。視線のは1秒30コマで測定し、記録は、先行者・歩道・道の先の方・ミラー・中央線・対向車線・対向車・他(アイマークが飛んでいる状態など)に分類しておこなった。133msec(4コマ)以上アイマークがとどまったものを注視とする。

3-1 平均注視時間

平均注視時間は、以下のようになった。

脇見前平均注視時間
図2:脇見前平均注視時間

脇見後平均注視時間
図3:脇見後平均注視時間

この結果、最小有意差法による平均値の検定において、脇見時間1.5秒と2秒、2秒と3.5秒、3秒と4秒の間で5%水準で有意であり、2秒と3秒の間で1%水準で有意であった。

道路環境ごとの平均注視時間は、以下のようになった。

脇見前平均注視時間
図4:脇見前平均注視時間

脇見後平均脇見時間
図5:脇見後平均脇見時間

この結果、各平均注視時間の間に有意な差は見られなかった。

3-2 視線の軌跡

視線は、脇見前に比べ、脇見後の方が動く範囲が狭かった(動く範囲が限られていた)ようであった。以下の図中の軌跡は、注視したものを時間順に追い、簡略につないだものである。

脇見前
脇見前

脇見後
脇見後
図6:視線の軌跡

4、考察

平均値の検定において、脇見時間が1.5秒と2.0秒、2.0秒と3.5秒、3.0秒と4.0秒の間では5%水準で有意あり、2.0秒と3.0秒の間では1%水準で有意であったが、これは脇見時間の許容境界である2.0秒を中心に境界範囲内である1.5秒と、許容される限界である2.0秒、許容を超えている3.0秒、3.5秒、4.0秒という差がでたと思われる。脇見が許容される1.5秒と境界である2.0秒の間の差と、境界である2.0秒と許容を超えてしまっている3.5秒との差であるので、許容範囲内と境界、許容範囲外と境界という2つのカテゴリーにまたがる条件の場合には差がでた。この注視時間に関する実験から、現在脇見の限界は2.0秒といわれているが、2秒から3秒の間に許容領域と境界領域の境が存在するのではないかと示唆される。

又、注視した対象を、脇見課題終了後に注視した対象の種類が減ったものが延べ84試行中22試行あり、脇見課題後注視した対象が増えたものが15試行であった。注視した対象の種類が変わらなかったものは、12試行であった。情報を得ようとするときには多種類の情報よりも詳しい情報を得ようとする、ということがわかる。注視対象は,先行車がいる場合には圧倒的に先行車となった。そして、視線の動きは混雑状況下で運転しているようであり、そこから脇見後には通常の運転に比べ多くの情報を処理していることがわかる。これらの結果から、情報をたくさん得なければならないときには広く浅くというより、狭く深く視覚が働く事がわかった。

5、結論

視覚によるある作業中に、他の視覚による作業を与えると、主となる視覚課題に戻った時には、その課題についての詳細を得ようとする。他の課題に注目している間、途絶えてしまった情報を得つつ、現在の状況に対応することが必要であり、よって、とんでもない所を見るのではなく、以前にも見ていて、今も見なければならないような数カ所に絞って注目するのだろう。

参考文献

・ 警察庁 "警察白書" 平成元,3,4,6,8,9,10,11年版
・ 田崎京二,大山正,樋渡涓二"視覚情報処理" 朝倉書店 1992
・ 三浦利章 "自動車の情報化に関する視覚的注意特性:カーナビゲーション使用時の注意の時間的特性を中心として" 交通科学28 53-59


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