早稲田大学石田研究室


ビットの違いから発生するA/Dコンバーターの精度と聴覚上の差異について

服部 由紀夫


【はじめに】

現在、DVDが24ビットとして製品化されていることから、音楽の世界でも従来のCDの16ビットからDVDへと移行され始めて、24ビットとしてリスナーに届いているということになりつつある。音をCDよりも精度が高く、きれいに録音し、製品になっているということに関して言えば、音楽メディアは、以前よりも精度が高い製品を出荷していることと客観的には考えられる。しかし、もとをたどれば、CDは人間の可聴範囲でつくられたものであるはずのものであり、実際、私のような一般市民には、16ビットと24ビットの違いというのは分からないかもしれない。私の知り合いの楽器店の店員は、『24ビットでも16ビットでも大きなモニターで聞かない限りはかなり耳のいい人でないと違いはわからない』といい、また、ある作曲家は、『24ビットのA/Dコンバーターがあれば、従来の16ビットに戻ることなんてできないね』と、2手にわかれている状態である。

また、そもそも、このような精度が高い24ビットA/Dコンバーターを使用したとしても、聞く人がスタジオ並みのモニター設備と音響向きの部屋で聞かなければ実際、あまり意味がなく、せっかくきれいに取った音をわざわざ音質劣化する可能性のあるモニターで聞いているというのが現状である。一般の人は、『DVDは24ビットだからCDプレーヤーよりDVDにする』ということを語る以前に、自室のモニター環境を整えるほうが先決かもしれない。

現在,セミプロミュージシャンがおこなっているような自宅録音をするならば、16ビットで録音する場合、大体、システム的には、200万円程度で済むのであるが、24ビットとなると、400万円程度かかる。仮に、16ビットと24ビットさほど違いがないのならば、200万円の損をすることになる。

プロ用のスタジオ設備になると、24ビットA/Dコンバーターを使用し、24ビット変換のエフェクターを使用し、24ビット対応のデジタルミキサーを使用する、等など、録音機器に使用する機材はすべて24ビット対応のものを使用しなければならなくなる理由で、1億円程度の違いになってくると思う。

よって、この実験では、16ビットで録音する場合と18ビットで録音する場合と20ビットで録音する場合と24ビットで録音する場合、また、同じ精度のA/Dコンバーターでも、A社のコンバーターとB社のコンバーターでは聴覚上の違いがあるのかどうかということを研究する。

仮にこの実験が成功するとなると、世界の音響システムが変わるということがありえる。16ビットと24ビットはそれ程差異がなく、同じような音になるのであったら、高価な24ビット製品はあまり意味ないものになる。また、16ビットと24ビットは明らかな違いがあるのであったら、世界のスタジオは24ビットで録音をする方向になるであろう。

【目的】

16ビットで録音する場合と18ビットで録音する場合と20ビットで録音する場合と24ビットで録音する場合、また、同じ精度のA/D、及びA/Dコンバーターでも、A社のコンバーターとB社のコンバーターでは聴覚上の違いがあるのかどうかということを研究する。

【被験者】

大学生ならびに社会人:合計52名
 男子:36名
 女子:16名

【装置】

Macintosh 7300/180
CUBASE VST 4.0
1224
01V
2408
TASCAM DA-20
NS−10M STUDIO
PMA-1500R
PCI-324
DigitalやAnalogケーブルなど

【実験場所】

早稲田大学人間科学部所沢キャンパス 401教室

【実験方法】

本実験では、マグニチュード推定法を使用する。被験者に、各コンバーターにてA/D変換した単音ならびに楽曲の音を数回提示し、アンケート用紙に記入してもらう。

【実験結果】

現在、市販されているA/Dコンバーターは、Bitの精度の違いはあるものの、単音、楽曲のどちらの音でも、また、被験者がいかなる音楽経験があったとしても、いかに音楽を沢山聴いていようとも、聴覚的には『どちらの音がいいか?』というように、違いを感じ取ることは出来ないということが証明された。

Analog信号
【図1-1 Analog信号】

Digital信号
【図1-2 Digital信号】
↑ 縦軸の細かさを示すのが、量子化Bit数
→横軸の細かさを示すのが、サンプリング 周波数
 (細線は、Analog信号)
 (太線は、Digital信号)

【考察として】

・16bit以上に関しては、音質的にいいというように人間が感じるとは言い難いと考えられる。
・音の要素によっては、A/Dコンバーターの相性があるということを暗示していると考えられる。
・音楽経験がある被験者は、音に対して敏感に反応し、最大の得点と最小の得点の差を広くつけていると考えられる。
・bitのような、微妙な差を判定するからこそ、どの程度評価して得点記入するかに対して個人差があるため分散が大きくなるという結果になると考えられる。

【おわりに】

どのような機材を使用したとしても、また、被験者の音楽経歴の有無や、音楽を聴く時間の長短にかかわらず、単音、楽曲の2つにてA/Dコンバーターの精度を聴覚的に感じとるのは出来なかった。よって、現在の作曲家並びにアレンジャー、スタジオエンジニアは、A/Dコンバーターにいくら力を注いだとしても、一般の聴衆者の人には違いがわからないということが証明された。ただ、私はもしかすると、いつかは人間はその音質の違いを感じとれるという可能性は期待できると思うのである。

この実験では、被験者のほぼ全員が24bitの音に対して始めて体験するものであったため、24bitに対する音の『なれ』というのがなかったというのも、このbitの違いを体感できないという理由の1つであったと考えている。だから、今後の未来において、24bitが全盛期になり、私たちに24bitの音の繊細さに対する『なれ』が身に付いてくるのならば、『そういえば16bitはすこし音が悪い』というように、微妙な差がわかるようになるのかもしれないと考える。つまり、人間がテクノロジーの進歩に対して後からついていくという状態になると思うのである。そういった意味で人間は、進化している。

例えば、10年前のテレビと9年前のテレビとを比較した場合、9年前のテレビのほうが映像がきれいだと気が付く人は少ないと思うが、10年前のテレビと現在のテレビの映像のきれいさの違いは現在のほうが歴然ときれいと誰しもが感じとれると思う。このことは、人間がテクノロジーの進歩に対してついていっているという証明である。また、私の経験についてであるが、私が子供の頃、LPレコードをよく聴いていた。CDが次第に普及し始め頃であるが、その頃、CDとレコードの違いというのは全く分からなかった。しかし、今となってはその違いは私には分かる。微妙なる音の違いや左右のバランス、ノイズの有無などである。これらと同じように、bitにおける音質の差異というのも人間はテクノロジーに対して進化しているから、いつかはその音質の違いがわかるようになると思うのである。よって、このような可能性がある以上、24bitのテクノロジーを否定することは、音楽愛好家である私としてはできない。

不思議なことに、プロのレコーディングスタジオの人や一部の作曲家は、A/Dコンバーターを変えただけで曲が全然違うといい、また、MDとCDの音質の違いを分かる友人も私のまわりには沢山いる。このような、耳がいい人達には、また、別の実験が必要であると思う。

誤解のないために書いておくが、この実験は、A/Dコンバーターの差異についての研究であり、D/Aコンバーターとは全く別のものであるということを付け加えておきたい。

最後に非常に個人的な意見であるが、音楽というのは、心の表現である。作曲者や演奏者が、自分の伝えたい心をメロディーにのせ、いかに聴衆者に伝えるかが当人の義務であり、手腕であり、喜びである。その点から考えると、A/Dコンバーターは、音楽を伝えるための単なる道具にすぎず、音楽という芸術からみれば非常に些細なことであることは言うまでもない。

【参考文献】

音の歴史:電子情報通信学会 コロナ社
Sound And Recording:立東社
音と音楽の基礎知識:大蔵 康義著  国書刊行会
MIDI検定3級公式ガイドブック:日本シンセサイザー・プログラマー協会著  音楽電子事業協会
音響映像設備マニュアル’99:株式会社リットーミュージック
新訂 ユーザーのための教育・心理統計と実験計画法 教育出版株式会社
オーディオ新時代-音楽を数字で刻む-:中島 平太郎 裳華房

【参考として使用したホームページ】

www.cameo.co.jp
www.yamaha.co.jp
www.teac.co.jp
www.maxell.co.jp
www.sony.co.jp
www.japan.steinberg.net
www.motu.com
www.musetex.co.jp

【音楽機器の説明書からの引用】

YAMAHA 01Vの取り扱い説明書
TASCAM DA-20の取り扱い説明書
YAMAHA NS-10M STUDIOの取り扱い説明書
DENON PMA-1500Rの取り扱い説明書
MOTU 2408の取り扱い説明書


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