早稲田大学石田研究室


トンネル照明の快適性に関する一研究

畑野 めぐみ


1.目的

トンネル照明には、トンネル内走行時における安全性、快適性および円滑性の確保が要求される。トンネル照明は、輝度対比によって障害物を視認することを基本としており、必ずしも演色性は必要とされず、経済性を重視して発行効率が最も高い低圧ナトリウムランプが使用されてきた。しかし、最近は視環境の改善の観点から、低圧ナトリウムランプに代えて高圧ナトリウムランプや蛍光ランプが採用されるようになってきている。そこで本研究では、トンネル照明の色と明るさの変化が、トンネル内走行時の快適性に与える影響を考察することを目的とする。

2.方法

運転者の視点からトンネル内走行中の映像を撮影し、これを元に、トンネル内の照明および視野全体の色と明るさを変えた映像を作成し、呈示刺激とした。色は、オレンジ、白、赤、青の4種類、明るさの段階は3種類の計12種類、約9秒間の刺激映像を作成した。12条件の刺激映像をプロジェクタ上にランダムに呈示し、9項目の心理尺度について5段階評価で評価してもらった。心理尺度には、快−不快、安心−不安、良い−悪い、見やすい−見にくい、明るい−暗い、走りやすい−走りにくい、広い−狭い、安全−危険、速い−遅いの9項目の形容詞対を設けた。

刺激映像の一場面
図1 刺激映像の一場面

実験日時:1999年11月10日〜24日

実験場所:早稲田大学人間科学部520実験室(暗室)

被験者:普通運転免許を所持している大学生および大学院生20名(男女半数、年齢:19〜27歳、運転経験:1週間〜5年)

実験装置・器具:液晶プロジェクタ(SHARP 液晶プロジェクタ XV−E550)、デジタルビデオカメラ(SONY HandycamデジタルビデオカメラDCR−TRV900)、スクリーン(オーロラVPSパウダー100)、輝度計(MINOLTA 輝度計 LS−100、MINOLTA 輝度計 LS−110)、バランスチェア(無段階で高さ調節可)、マルチン式人体計測器

実験手順:被験者の目の高さをスクリーンに映った映像の消失点(120cm)に合うように、椅子の高さを調節して座らせた。教示の後、12条件の刺激映像をプロジェクタ上にランダムに提示し、9項目の心理尺度について5段階尺度で評価してもらった。映像の呈示は1回ずつで、評価が終わり次第、次の映像の呈示を行った。

3.結果・考察

3-1.色と明るさの効果について

各心理尺度において色×明るさの2要因分散分析を行った結果、快−不快、見やすい−見にくい、明るい−暗い、安全−危険の4つは、色と明るさの交互作用が有意であった。また、色の主効果が有意であったのが、安心−不安、良い−悪い、走りやすい−走りにくい、広い−狭いの4つであり、明るさの主効果が有意であったのが、広い−狭い、速い−遅いの2つであった。速い−遅い以外の心理尺度では色の主効果または単純主効果が有意であった。このことから、速度感にはトンネル照明の明るさが影響を与え、快適性には照明の色が大きな影響を与えるのではないかと考えられる。

3-2.色と明るさの快適性への影響

心理尺度の評価値を用い因子分析を行った結果、2つの因子を抽出し、それぞれを「快適性の因子」、「明るさの因子」と名付けた。快−不快、安心−不安、良い−悪い、見やすい−見にくい、走りやすい−走りにくい、広い−狭い、安全−危険の7つの心理尺度は「快適性の因子」に、明るい−暗い、速い−遅いの2つの心理尺度は「明るさの因子」に分類された。

図2より、快適性の因子においては、white-M、white-Bの順で快適性が最も高く、反対にred-M、red-Dの順で快適性が低いことがわかった。快適性には色の違いが影響を与えていると考えられる。また、明るさの因子においてはblue-B、red-Bの順で最も明るく、blue-D、red-Dの順で最も暗いと感じられ、redとblueでは明暗の評価の差が大きいことがわかった。

以上より、快適性の因子=「色」の効果、明るさの因子=「明るさ」の効果と考えることができるのではないかと思われる。つまり、トンネル照明の快適性に大きな影響を与えるのは照明の色であり、照明の明るさは快適性に直接影響しないということが考えられる。

また、トンネル照明の色については、白が最も快適性が高く、オレンジと青が中程度で、赤が最も快適性が低いことがわかった。

呈示刺激の因子得点の散布図
図2 呈示刺激の因子得点の散布図

3-3.演色性の快適性への影響

図2からもわかるように、快適性の因子において、現在一般的な低圧ナトリウムランプを使用したトンネルに最も近いorange-Mよりwhite-Bとwhite-Mは快適性が高いと評価された。そこで、この3つの刺激を比較するために、快適性の因子得点を用い、1要因の分散分析を行った。その結果、条件の効果は有意であり(F(2,38)=3.85, p<.05)、LSD法による多重比較の結果、orange-Mとwhite-Mの間でのみ平均に有意な差が見られた(Mse=0.82, 5%水準)。つまり、現在の一般的な低圧ナトリウムランプを使用したトンネルに最も近いorange-Mより、高圧ナトリウムランプや蛍光ランプを使用したトンネルをイメージしたwhite-Mの方が、快適性が有意に高いといえる。

このことから、現在一般的な低圧ナトリウムランプを使用したトンネル照明よりも、演色性の良い高圧ナトリウムランプや蛍光ランプを使用したトンネル照明の方が、快適性が高いと考えられる。つまり、トンネル内視環境の快適性には演色性が大きな影響を与え、快適性の観点から見ると、トンネル照明には、低圧ナトリウムランプよりも高圧ナトリウムランプや蛍光ランプが適していると考えられる。

4.結論

(1)速度感にはトンネル照明の明るさが影響を与え、快適性には照明の色が大きな影響を与える。
(2)トンネル照明の快適性に大きな影響を与えるのは照明の色であり、照明の明るさは快適性に直接影響しない。
(3)トンネル照明の色については、白が最も快適性が高く、オレンジと青が中程度で、赤が最も快適性が低い。
(4)現在の一般的な低圧ナトリウムランプを使用したトンネルに最も近いorange-Mより、高圧ナトリウムランプや蛍光ランプを使用したトンネルをイメージしたwhite-Mの方が、快適性が有意に高かった。


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