早稲田大学石田研究室


映像を利用した道路環境評価に関する一研究

石松 一真


1. 研究史

自動車を運転する人間と道路環境との関係を取り扱った研究としては,道路景観に焦点を当てたものや運転者の注視行動に焦点を当てたものがある.道路景観の問題を扱った研究としては,路側景観の構成要素が,運転者から見た場合の道路景観の視知覚構造にどのような影響を与えるかを瞬間提示法を用いて解析したものがある.一般に建物が目立つ景観は悪く,緑が目立つ景観は良いと評価される.また,道路景観の評価を左右することになるのは空を区切るスカイラインを形成する要素である.その他にも道路整備水準評価の方法を検討するにあたり「平均走行速度」を取り上げたも(菊地),潜在化した事故も含めて,安全性からみた道路整備率の定量的評価手法の検討を行ったもの(久保田ら)などがある.また,道路環境を歩行者の立場から見たものとしては,歩行者の快適性を尺度化するために,快適性決定要因を街路条件,交通条件の中から選び出し,これらの要因が,様々な歩行条件下で歩行の快適性に及ぼす影響を調べる実験を実施したもの(外井ら),安全に焦点をあて,歩行者からみた道路の安全性の評価方法を目標とし,安全感を尺度として評価したもの(矢野ら)などがある.海外に目を移すと,スライドを利用し,模擬交通環境においてディストラクターのターゲット刺激(路側標識)に対する反応時間への影響を調べたCharlesらの研究をはじめ,交通標識に関するものなどがある.一方,自動車運転者の注視点測定に関する研究は,道路環境に関するものをはじめ(鈴木ら,村田ら),初心者と熟練運転者の情報獲得法の違い(Mourantら)や二輪車と乗用車の注視方法の違い(Mortimerら)など,広範囲にわたり行われている.その他にも,Shinarによって行われた二車線道路のカーブにおける眼球運動を測定したものや場依存性と運転者の視覚探索行動に関するもの,Rahimiによって行われた環境に存在するターゲットとディストラクターに対する頭部・眼球運動を測定したものなどがある.

2. 本研究の目的

道路環境をはじめ,景観を評価するにあたっては,写真やスライド,映像が使われることが多い.写真やスライド,映像等の利用には,実験条件を統制しやすいという背景がある.本研究では,自動車運転者の立場から道路環境を評価する上で,動画映像と静止画映像という提示映像の違いに注目する.実験Iにおいては,動画映像と静止画映像という提示する映像条件の違いが道路環境評価に与える影響をSD法によって検討した.実験IIにおいては,提示刺激条件の違いに伴う注視行動の変化をアイカメラによる眼球運動測定を通して比較検討した.

3. 予備調査

道路環境が運転者によってどのように評価されるかを調べた.また,実験I,IIで使用する評価用紙を作成するために20組の形容詞対を選定した.

3.1. 方法

1)被験者:自動車免許保有者102名.男性64名,女性38名で,年齢は18〜30歳(平均年齢23歳).

2)刺激:刺激として3種類の自動車走行道路の前景写真を使用した.写真は,三脚でデジタルカメラを地上から120cm(運転者の視線)の高さに固定して撮影したもので,出力はPictrographyによって行った.撮影時の画角は46°であり,写真のサイズは725×540pixels,解像度は133pixels/inchであった.

3)手続き:質問用紙を配布し,教示文に目を通してもらった.質問を受け付け,質問がなければ,刺激に対する評価を7段階評定で行ってもらった.質問紙用紙の回収率は100%で,102名全員のデータが利用可能であった.

4)分析方法:(1)65組の形容詞対から20組を選定した.(2)選定された20組の形容詞対のデータについて,因子分析を行い,道路環境における評価因子構造を探った.

3.2. 結果および考察

選定された20組の形容詞対を表1に示す.

表1 選定された20組の形容詞対
選定された20組の形容詞対

選定された20組の形容詞対のデータ(n=306)を用いて因子分析を行ったところ,4つの因子が抽出され(累積因子寄与率は70.9%),それぞれ「運転快適性」の因子,「自然親密性」の因子,「環境特性」の因子,「遠近感」の因子と解釈した.本調査において,運転場面における道路環境の評価が,「運転快適性」,「自然親密性」,「環境特性」,「遠近感」の4因子で代表されることが明らかになった.

4. 実験I

SD法を用いた環境評価実験であり,動画映像と静止画映像という2種類の提示映像条件を設定し,環境評価と提示映像条件との関係を自動車運転場面について検討した.

4.1. 方法

1)被験者:第一種普通自動車免許所有者32名.男性16名,女性16名で,年齢は20〜30歳(平均年齢24歳),両眼矯正視力は正常であった.

2)実験課題:自動車での走行場面を撮影した映像をスクリーン上に提示した.被験者は提示された映像を自分が運転していると想定してながめた.映像終了後,スクリーン上に「評価をしてください」という指示が出たら,提示された道路環境について感じたままを評価用紙に記入した.評価は7段階評定で行った.提示映像は,動画条件5種類,静止画条件8種類の計13種類,映像提示時のスクリーンの平均輝度は7.64から23.85cd/m・mであった.

3)実験条件:実験は撮影時の画角と映像提示時の視角とが同じになるように被験者を配置して行った.画角が動画条件と静止画条件で異なるため,動画条件→静止画条件の順で行うグループ(16名:男性8名,女性8名)と静止画条件→動画条件の順で行うグループ(16名:男性8名,女性8名)の2つにわけた.それぞれの条件において,映像はランダムに提示した.

4)手続き:フェイスシートの記入,両眼視力の測定終了後,被験者は所定の位置に着座した.椅子の一,高さの調節終了後,被験者は教示文に目を通した.実験者は,再度口頭による教示を行い,質問を受け付けた.実験中は顎のせ台を使用し,被験者の頭部を固定,目の位置を120cmの高さに保った.練習試行後,質問を受け付け,本試行にうつった.被験者は各条件(動画映像条件ないしは静止画映像条件)終了後,フェイスシートへの記入を行い,両条件終了後,実験者による面接形式の質問を受けた.

5)解析方法:イメージプロフィールを作成し比較した.予備調査の段階で,運転場面における道路環境の評価は「運転快適性」,「自然親密性」,「環境特性」,「遠近感」の4因子によって代表されることがわかったので,分析を進めていく上では,この4因子に注目し,(1)街路景観を阻害しているといわれている電柱類を映像から削除し,同一道路環境において,電柱類がある場合とない場合との比較,(2)動画映像と静止画映像の違いによる環境評価値の比較,を行った.

4.2. 結果および考察

1)自動車運転場面において運転者による道路環境(電柱類の有無)の評価において,地点によって評価に違いが見られた.しかしながら,評価値に統計的に有意な差は認められず,道路環境を評価する上では,電柱類はあまり重要な要素ではないことが推察された.
2)動画映像と静止画映像との違いによる比較を行ったところ,片側二車線道路の映像において,動画映像の方が静止画映像よりも「運転快適性」の因子で,有意に高い評価を行っていたことがわかった.また,今回片側一車線道路においては動画映像と静止画映像の違いによる評価値に統計的に有意な差は認められなかったが,この理由としては車線数の違いによる視線配分の違いが環境評価に影響を与えている可能性が考えられる.しかし,今回の実験結果だけでは,あくまで可能性という域からはでることはできず,更に映像を利用した環境評価を行う上での動画映像と静止画映像との視角系による情報処理の仕方を比較検討する実験が必要であると思われる.

5. 実験II

環境評価実験において映像観察時の眼球運動を測定し,静止画映像と動画映像において注視行動の比較を行った.

5.1. 方法

1)被験者:第一種普通自動車免許保有者8名.男性4名,女性4名で,年齢は19〜25歳(平均年齢22歳),両眼視力は正常であった.
 被験者は以下の基準に基づき選定した.(1)免許取得後,3年以上の実質運転経験があること.または1万km異常の運転経験があること.(2)裸眼であること.
 この設定は以下の事由による.(1)初心運転者を含む運転経験が少ないものと運転経験の多いものとでは,視線配分が異なるため.(2)今回実験に用いたナック製のEMR-7は角膜反射法を用いているため.

2)実験課題:実験Iと同じ課題をアイカメラを装着して行った.

3)実験条件:実験Iと同じ.

4)手続き:フェイスシートの記入,両眼視力の測定終了後,被験者は所定の位置に着座した.椅子の位置,高さの調節終了後,被験者は教示文に目を通した.被験者にアイカメラを装着し,キャリブレーション終了後,実験者は,再度口頭による教示を行い,質問を受け付けた.その後の手続きは,実験Iと同じ.

5)解析方法:EMR-7データ解析ソフトウェアを使用し,VTRからアイマークデータを取り込んだ.サンプリング間隔は30Hzとし,動画条件は20秒分(600コマ),静止画条件は5秒分(150コマ)のデータを取り込んだ.解析には,動画条件570コマ,静止画条件130コマを使用した.アイマークデータをもとに,停留点・移動データを作成した.データ作成時は,最大停留範囲を2°,最小停留時間を100msecと設定し,停留点のパターンとしては常にその停留点グループの最初の1点目のデータを基準に解析する開始点モードを選択した.以上の条件のもと,(1)提示映像条件の違いが注視点停留時間に与える影響について,(2)提示映像条件の違いが注視店移動速度に与える影響について,(3)提示映像条件の違いが注視店分布に与える影響について検討した.

5.2. 結果および考察

1)注視点停留時間について

動画条件における注視点停留時間の比較
図1 動画条件における注視点停留時間の比較(msec)

静止画条件における注視点停留時間の比較
図2 静止画条件における注視点停留時間の比較(msec)

注視点停留時間について,地点別に動画条件と静止画条件との比較を行ったところ,全体的に動画条件よりも静止画条件の方が停留時間が短い傾向にあることがわかった.また,注視点停留時間は個人差の大きいこと,個人内でも地点によって変動が大きいことがわかった(図1,図2).

2)停留点移動速度について

動画条件における停留点移動速度(deg/msec)の比較
図3 動画条件における停留点移動速度(deg/msec)の比較

静止画条件における停留点移動速度(deg/msec)の比較
図4 静止画条件における停留点移動速度(deg/msec)の比較

停留点移動速度について,地点別に動画条件と静止画条件との比較を行ってみると,地点3を除いては,動画条件よりも静止画条件のほうが移動速度が速い傾向にあることがわかった.逆に地点3においては静止画条件よりも動画条件の方が移動速度が速い傾向にあることがわかった.しかしながら,この傾向は一様ではなく,逆の傾向を示す被験者もいた(図3,図4).

3)注視点分布について

提示映像条件の違いによる注視点の分布の比較では,動画映像の方が静止画映像に比べ,分布の集中性が認められた.しかしながら,運転者の注視行動は,道路環境や運転者にかかる心的負担の程度のよって絶えず変動していることを忘れてはならない.

4)その他

注視点の停留時間の頻度分布は,Γ分布の一つの型であるアーラン分布を示すことが知られているが,本実験においても停留時間の頻度分布はアーラン分布を示した.今回の実験結果において,統計的に有意な差は認められなかったが,注視点停留時間について地点別に動画条件と静止画条件との比較を行ったところ,全体的に動画条件よりも静止画条件の方が停留時間が短い傾向にあることがわかった.しかしながら,逆の傾向を示す被験者や,動画条件と静止画条件とで差の見られない被験者もいた.また,注視点停留時間は個人差の大きいこと,個人内でも地点によって変動が大きいことがわかった.

6. 結論

6.1. 道路環境評価について

1)運転場面における道路環境の評価は,「運転快適性」,「自然親密性」,「環境特性」,「遠近感」の4因子によって代表された.
2)環境を評価うする上で,動画映像と静止画映像との違いは,片側二車線道路の映像においてのみ認められ,動画映像の方が「運転快適性」の因子において,有意に高い評価を行っていたことがわかった.片側一車線道路の映像いおいては統計的に優位な差は認めれらなかったが,評価の違いに対する車線数の影響についてはさらなる検討が必要である.
3)電柱類のある道路環境とない道路環境とで比較を行ったところ,地点によって評価に違いが見られた.しかしながら,静止画条件,動画条件ともに評価値に統計的に有意な差は認められなかった.そのため,自動車運転場面において運転者が道路環境を評価する上では,電柱類はあまり重要な要素ではないことが推察された.

6.2. 映像観察時の注視行動について

1)注視点底流時間の頻度分布はΓ分布の一つの型であるアーラン分布を示した.
2)注視点停留時間については,静止画映像と動画映像において統計的に有意な差は認められなかった.注視点停留時間について地点別に動画条件と静止画条件との比較を行ったところ,全体的に動画条件よりも静止画条件の方が停留時間が短い傾向にあることがわかった.しかしながら,逆の傾向を示す被験者や動画条件と静止画条件とで差の見れらない被験者もいた.また,注視点停留時間は個人差の大きいこと,個人内でも地点によって変動が大きいことがわかった.
3)停留点移動速度については,静止画映像の方が動画映像よりも有意に速かった.また,停留点移動速度について,地点別に動画条件と静止画条件との比較を行ってみると,動画条件よりも静止画条件の方が移動速度が速い傾向にあることわかった.
4)注視点の分布については,静止画映像に比べ,動画映像の方が分布は集中していた.


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