早稲田大学石田研究室


交通場面と危険判断に関する一研究

鈴木 大輔


1.研究目的

ここ数年、交通事故死者は1万人以下の目標を達成している。しかしながら、交通事故発生件数、負傷者数等は共に増加しており、依然として厳しい状況である。このように、交通事故死者数が減少し、交通環境は安全になってきているように見えるが、交通事故発生件数は減少していないということには、運転者の危険感が原因となっていることが考えられる。

そこで今回、運転者の様々な場面に対する危険評価というものを探っていきたい。今回の実験で使われた対象の違い・対象との距離・レーンへの進入度・対象の向き・左右レーンのどの要因がどれくらいの割合で危険評価に影響を与えるか調べることを目的とする。

2.実験方法

2−1 実験日時

1999年12月2日〜12月11日

2−2 実験場所

人間科学部キャンパス520暗室

2−3 被験者

免許所有の大学生20名(男子10名、女子10名)

2−4 刺激映像

刺激は、5要因を組み合わせた静止画像を220枚用意した。
 その5要因は、
 対象との距離(5m、10m、15m、20m、25m)
 対象の種類(歩行者、自転車)
 レーンへの進入度(150cm、250cm、350cm)
 左右レーン(左レーン、右レーン)
 対象の向き(こっち向き、向こう向き、横向き)である。

2−5 質問項目

質問項目は
 質問Aが、危険か−安全か
 質問Bが、次の行動が予測不可能か−次の行動が予測可能か
 質問Cが、飛び出しそうか−飛び出さなそうか
 質問Dが、対象が近いか−対象が遠いか である。
 これを7段階で評価してもらった。

2−6 実験内容

スクリーンに映し出される刺激映像を被験者に見てもらい、毎回4つの質問に答えて頂く。刺激の提示時間は1秒とした。答えてもらった後、また刺激提示に移るという繰り返しを220回行った。

3.結果

表1、質問Aに対しての質問B、C、Dの偏回帰係数とt値
質問Aに対しての質問B、C、Dの偏回帰係数とt値

質問Aを目的変数、質問B・C・Dを予測変数としたステップワイズ法による重回帰分析をした結果、
質問Bの偏回帰係数は 0.156 (両側検定:t(16)= 15.150 ,p<.01)、
質問Cの偏回帰係数は 0.484 (両側検定:t(16)= 42.231 ,p<.01)、
質問Dの偏回帰係数は 0.364 (両側検定:t(16)= 33.101 ,p<.01)、
であった。したがって、質問Aに及ぼす質問B,質問C、質問Dの効果は有意であるといえる。なお、このときの回帰式全体の説明率はR2=0 .666であり、有意であった(F(3,3596)=2387.944、p< .01)。

これを回帰式にすると、
目的変数(質問A)= 0.156×質問B+0.484×質問C+0.364×質問D+定数(−0.136)
という式で表わせる。

表2、質問Aに対しての5要因の偏回帰係数とt値
質問Aに対しての5要因の偏回帰係数とt値

質問Aを目的変数、5要因を予測変数(ダミー変数に変える場合に、向き要因は3水準あるために向こう向きとこっち向きが設定された)としてステップワイズ法による重回帰分析をした結果、
 対象の偏回帰係数は、0.341(両側検定:t(13)=6.932,p<.01)、
 距離の偏回帰係数は、0.107(両側検定:t(13)=30.715,p<.01)、
 左右レーンの偏回帰係数は、1.029(両側検定:t(13)=20.956,p<.01)、 
 侵入度の偏回帰係数は、−0.00616(両側検定:t(13)=−20.471,p<.01)、
 向こう向きの偏回帰係数は、0.761(両側検定:t(13)=12.646,p<.01)、
 こっち向きの偏回帰係数は、0.716(両側検定:t(13)=11.898,p<.01)であった。

したがって、質問Aに及ぼす対象・距離・左右レーン・侵入度・向き(向こう向き・こっち向き及び横向きも含む)の効果は有意であるといえる。なお、このときの回帰式全体の説明率はR2=0 .363であり、有意であった。(F(3,3593)=341.839、p< .01)。

これを回帰式にすると、
目的変数(質問A)= 0.341×対象+0.107×距離+1.029×左右レーン+(−0.00616)×進入度+0.761×向こう向き+0.716×こっち向き+定数(1.859)
という式で表わせる。

4.考察

質問Aに対する質問B・C・Dの重回帰分析の結果、有意な差が出て、どれもが質問Aに影響を与えることがわかった。影響が大きい順で挙げると、

質問C(飛び出しそうか−飛び出さなそうか)――t値=42.231
質問D(対象が近いか−対象が遠いか)――t値=33.101
質問B(次の行動が予測不可能か−次の行動が予測可能か)――t値=15.15の順である。

また、質問Aに対する5要因の重回帰分析の結果、有意な差があらわれ、5要因のどれもが危険評価に影響を与えることがわかった。影響が大きい順で挙げると、

対象との距離(5m、10m、15m、20m、25m)――t値=30.715
左右レーン(左レーン、右レーン)――t値=20.956
レーンへの侵入度(150cm、250cm、350cm)――t値=−20.471
対象の向き(こっち向き、向こう向き)――t値=11.898、12.646
対象の種類(歩行者、自転車)――t値=6.932の順である。

5.結論

質問間での重回帰分析の結果から、今回の実験においては、危険判断には、飛び出しの度合いや、距離感の違いが、大きな影響を与え、不確実性はあまり影響を与えないことがわかった。また、質問Aに対する5要因の重回帰分析の結果から、危険判断には、距離要因、左右レーン要因、侵入度要因などが大きな影響を与え、向き要因、対象要因などはあまり影響を与えないことがわかった。このことから、危険判断の際には、見たままの自車からの距離感を第一に考え、不確実性や向き要因や対象要因といった予測を考えるようなものは後回しになるということがいえると思われる。

6.今後の課題

今後の課題として、まず刺激映像をもう少し普段の道路環境と近いものを作るべきだったということが言える。普段の道路環境と比べると不自然なものもあり、歩道がある道路や、前方の視界が開けている道路といったことを考慮して、刺激を作成するべきであった。また、実験時間が1時間30分と長時間になったことを考えると、刺激枚数をもっと少なくし、被験者が常に集中して質問に答えられるようにするべきであったといえる。


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