早稲田大学石田研究室


リクライニングシート着座時における快適性の評価

佐藤 明穂


1.はじめに

椅子は生活と関わりをもついろいろな家具の中で、中心的な位置を占めているといえる。一般的に椅子は用途によりいくつかに分類することができる。
1) 家庭用椅子
2) 業務用椅子
3) 教育用椅子
4) 輸送機関用椅子
5) その他の椅子   などである。

椅子に関する研究は数多くなされているが、特に人体と直接接触する椅子の機能性・快適性の評価についての研究が過去多く行われている。現在の椅子に関する研究は、主に物理特性測定と官能検査を用いた主観評価によるものとの対応関係を検討し、座り心地を定量化したものが多い。着座時に体のどの部位にどの程度の圧力がかかるかという、体圧分布測定は物理量測定の重要な要素になっている。また、主観評価対象として挙げられる項目には、座り心地を判断するものがほとんどであるが、これらはさまざまな要因によって変化する。この要因の一つとして、今回の実験では座面と背もたれのなす角度に注目してみた。作業環境ばかりが椅子と生活の関わりが強いわけではない。映画館での映画鑑賞時や美容室での散髪時など、公共の場に居ながらにして、椅子に座ってリラックスした状態が重要視される場合もある。これらに共通していることは、普段の事務的作業時と違い、椅子をリクライニングさせた時の座り心地が快適性につながっている事である。そこで今回の実験ではリクライニング角度の違いによる快適性を体圧分布測定と主観評価によりリクライニング角度の最適値の特定を目指した。

2.実験目的

椅子着座時において背もたれと座面とがなす角度(ここではリクライニング角度とする)は個人個人により快適性が違ってくるが、公共の場において使用されるリクライニングシート、例えば映画館のシートや美容室の散髪時に使用する椅子などははじめからリクライニング角度が固定されている物も多い。そこから、リクライニングシート着座時における座面部分と背もたれ部分の体圧分布と背部・臀部・大腿部の3パーツにおける主観評価からリクライニング角度の最適値の特定を目指す。

3.実験方法

1)実験日時

2000年12月7日〜11日

2)実験場所

早稲田大学人間科学部所沢キャンパス406人間工学実験室

3)実験機材

 リクライニング機能付き椅子(オットマン付)
 座面・背部圧力シート(NITTA 株式会社)
 PC/AT IIYAMA・SOTEC
 マルチン身体計測器
 体重計
 座面高変動台
 フェイスシート
 質問シート
 木材(幅9mm・長さ2m これを60cmに切断して使用)3本
 マジックテープ・両面テープ(圧力シート固定用)
 プレートベース5本(角度調整用)
 スポーツ仕様Tシャツ2枚(男女用)
 スポーツ仕様スパッツ4本(男M・XLサイズ 女S・Mサイズ)

4)被験者 

早稲田大学学生19人 卒業生1人

5)実験条件

(ア)被験者は実験前に、指定されたTシャツ・スパッツに着替える。
(イ)その後、マルチン式身体計測器により人体測定を行う。計測項目は、身長・体重・座高・下腿高・大腿長・座位臀幅とした。
(ウ)フェイスシートの記入を行う。フェイスシートの質問項目は、氏名・性別・年齢・各身体計測値とした。
(エ)被験者人数からランダムに選択したリクライニング角度を設定する。角度は100°・105°・110°・115°・120°の5段階とする。それぞれの角度において「足置き」使用と「足置き」不使用の2条件も加える。
(オ) 実験では背部と座面部の体圧分布を測定するため、リクライニング機能付き椅子に装備されている「肘掛け」には肘をのせない姿勢をとってもらう。
(カ)椅子にNITTA製造のBIG-MAT 圧力シートを座面部と背もたれ部にマジックテープで固定する。「足置き」は本実験使用の椅子付属のオットマンを使用する
(キ)今回使用する椅子の座面高では、「足置き」不使用時にも足が床に接触してしまうため木材を二段に重ねた上に椅子を固定する事により、座面高を上げて「足置き」不使用時には足が床につかないようにする。
実験システム図は以下の図3-1の通りとする。

実験システム図(足置き使用時)
図3-1 実験システム図(足置き使用時)

(ク)設定角度は実験使用椅子のリクライニング角度が95°〜125°の間を自由に変化させられるため、105°〜120°の5°刻みの角度を5段階設定した。
(ケ)被験者が着座して姿勢が安定してからの約1分30秒間の体圧分布を測定し、体圧測定後に主観評価をしてもらう。

4.結果

1)部位・「足置き」有無別圧力比

背部・臀部・大腿部別、「足置き」無し・「足置き」有り別にリクライニング角度ごとの圧力比値の変化を示す。
 圧力比値は、各被験者・各部位のリクライニング角度100°の圧力値を1として、標準化したものである。例えば、被験者1のリクライニング角度120°で「足置き」無・背部の圧力比は、11521.23/11467.43=1.004674となる。

2)リクライニング角度別圧力の回帰直線

背部,臀部,大腿部別、「足置き」有無別にリクライニング角度ごとの圧力値を目的変数、リクライニング角度を説明変数としてそれぞれ重回帰分析をした。
今回は、決定係数の一番高いものをそれぞれ示す。

男 背部の回帰直線
図4-1 男 背部の回帰直線

女 臀部の回帰直線
図4-2 女 臀部の回帰直線

女 大腿部の回帰直線
図4-3 女 大腿部の回帰直線

3)主観評価得点

各被験者の主観評価グラフを作成したところ快・不快評価には一定の傾向があると考えられるため、それらを得点化した。

4)主観評価得点より得られた圧力値グラフ

主観評価得点が高いリクライニング角度の背部・臀部・大腿部の圧力値比率を次の図4−4、5に示す。

「足置き」無 圧力比率グラフ
図4‐4 「足置き」無 圧力比率グラフ

「足置き」有 圧力比率グラフ
図4‐5 「足置き」有 圧力比率グラフ

5.考察

1)全圧力値から得られた全体の傾向

・本研究において、背部・臀部・大腿部でのリクライニング角度と圧力値との間での重回帰分析の結果、線形モデルを立てる事ができた。(図4-1〜3参照)
背部においては、リクライニング角度との間に正の相関が見られ、また臀部・大腿部においては負の相関が見られた。これから、リクライニング角度が増すごとに、臀部と大腿部にかかっている圧力が背部へ移動したと考えられる。
・今回「足置き」無しと「足置き」有りの2条件も加えたが、「足置き」有りにおいての圧力値との相関が、「足置き」無しと比較すると低かった事は、各被験者ごとで「足置き」に加わる圧力の違いがあったためと思われる。
・女子110°の背部圧力値の減少がみられたことだが、接触面積も少なくなっている事から、ちょうど110°の時の背骨が直立した時のそれと同じS字曲線を描くため、背部への圧力が減少するのではないかと考えた。しかし、男子においては女子のような110°背部の圧力値減少が見られなかったため、そうとはいえないかもしれない。そこで本実験使用リクライニングシートのクッション形状が背もたれ上部が高くなっている事から、女子の座高から考えてちょうどその高くなっている部分に頭部が乗る時が110°であるため、圧力が頭部に多くかかったのではないかとも考えた。しかし、これも座高が男子平均と同等の女子の場合にも110°背部圧力の減少が見られるため、そうであるとも言い切れない。

2 )主観評価から得られた傾向

・図4‐4から「足置き」無しの場合、背部と臀部の合計比と大腿部比は半々である場合が快であると感じている傾向が見られる。これは「足置き」無しであったため大腿部にかかる圧力と背部と臀部にかかる圧力が同等であれば、どの部分にも圧迫感があるとは感じられないため快であると評価したのではないだろうか。
・図4‐5から「足置き」有りの場合、各部位にかかる圧力値比、背部:臀部:大腿部が4:3:3である場合が快であると感じる傾向が見られる。この場合は推測でしかないが、「足置き」に足を置くことによって臀部にかかる圧力と背もたれに寄りかかる圧力が、増加したのではないかと考えられる。また、頭部にかかる圧力も「足置き」を置くことによって、「足置き」無しでの膝下の重みに引っ張られる事がなくなるため増加するのではないかとも考えられる。

6.結論

1)本研究から導かれた結論

・リクライニング角度と圧力値において、線形モデルy=ax+bで表される。
   (yは圧力値、xはリクライニング角度)
・リクライニング角度が増加するごとに、背部への圧力が増加した。
・リクライニング角度が増加するごとに、臀部・大腿部への圧力が減少した。
・体圧分布から、リクライニング角度の最適値の特定は難しかったが、リラックスしての姿勢が前提のリクライニングシート着座であるので、主観評価得点が高かった角度(男「足置き」無し120°、男「足置き」有り115°〜120°、女「足置き」無し110°、女「足置き」有り120°)は、今回使用のリクライニングシートでは最適値に近いといえるのではないだろうか。

2)今後の課題

・座面を一枚の圧力シートで測定したため、臀部と大腿部を厳密に区別することができなかった。今後は臀部と大腿部の境界を明確にするために、圧力測定の際に何らかの方法でマークする必要がある。
・女子 リクライニング角度110°における背部圧力減少の検証。
・上記の原因の可能性がある、本実験使用リクライニングシートの検討。
・背部、座面部の圧力測定に加えて頭部、「足置き」部での圧力測定の実施。
・肘掛け付きのリクライニングシートが一般的であるが、本実験では圧力分布に影響が出ると考え、使用しなかった。この点について、本来使用されている公共の場のリクライニングシートを想定するには不十分であったかもしれない。

7.参考・引用文献

【1】加藤麻紀・石田敏郎(1997):オフィスチェアの座面高と体表面圧力に関する研究
【2】加藤麻紀・武岡元・石田敏郎:事務用回転椅子の圧力分布の時系列変化に関する研究
【3】宮本毅(1994):OAチェアの総合評価の研究
【4】藤田智子(1997):事務用回転椅子着座時の座面高と圧力に関する研究
【5】小澤洋(1996):自動車シートの圧力変化
【6】山崎信寿・諸永裕一(2000):短時間休息用剛体支持安楽寝椅子の形状適合化 日本人間工学会誌vol.36
【7】小原二郎・内田祥哉・宇野英隆(1969):建築・室内・人間工学 122〜133・149〜150 鹿島出版
【8】鳥海義之助(1993):椅子―構造とデザイン 理工学社
【9】廣瀬秀行・谷中誠・平岡浩一:いす座位時の座骨結節下圧力と身体的要因について 国リハ研紀 13号平成4年,115-118,1992
【10】加藤麻紀・武岡元・石田敏郎・野呂影勇:事務用回転椅子の接触面圧力分布の時系列変化に関する研究・その1,日本人間工学関東支部会第25回,1995
【11】武岡元・加藤麻紀・石田敏郎・野呂影勇:事務用回転椅子の接触面圧力分布の時系列変化に関する研究・その2,日本人間工学関東支部会第25回,1995
【12】上條健:シート乗り心地の定量的評価法,自動車技術,Vol.36,No.12,1305-1310,1985
【13】鶴岡功・橋本直明・坂本砂季子:シート座り心地性能の定量化,マツダ技報,No.3,1985


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