日本では若者の大半が20歳台前半までに免許を保有するにいたっているが,若者の交通事故死傷者は全交通事故死傷者の21%を占めており,高齢者についで多い.この原因として若者の危険感の低さが挙げられる.このように危険感受性が事故発生率と深く関係していることから,危険感受性の研究の必要性がある.このような状況の中で,危険感と生理指標との関連についての研究は行われておらず,生理指標の面から危険感を測定することが必要である.
本研究では実験室内で交通場面の危険事態,安全事態,どちらでもないような(中間)事態の静止画像を提示し,そられについての危険判断を行ったときの瞬間心拍数,呼吸数,指尖容積脈波の変化をみることを目的とする.
指尖容積脈波は,一般にストレス刺激の提示や,覚醒水準の高まりによって細動脈の血管が収縮し血液容積(波高として表れる)が減少することが知られている.また,ストレスの刺激が強いほど,波高の変化率(減少率)が大きくなる.これより,安全事態よりも危険事態で,より大きな変化率が観測されると考えられる.
またLacey & Lasey(1978)の説により,今回の実験ではHRの減少が起こると考えることもできるが,HRは容積脈波ほど刺激に鋭敏に反応するわけではないので,HRの変化は起こらない可能性も高い.
呼吸活動は,梅沢(1991)によると,ストレスフィルム提示により0.5サイクル/分の呼吸数増加がみられる.ゆえに呼吸数の変化量はわずかに増加すると考えられる.
スクリーン上に刺激を提示し,危険か安全のボタンを押してもらう.提示する刺激は,各事態の中で対象が自転車,車,人の3種類あるので,合計9種類である.刺激提示は3秒で,暗転が5秒である.被験者には車を運転しているつもりで画像を見てもらった.
心電図は,ボタン押しによる体動の混入を防ぐため胸部双極誘導にて計測し,R-R間隔から瞬間心拍数を求めた.
呼吸活動は,鼻孔用ピックアップにより呼吸数を測定し,呼吸サイクルごとに1分間あたりの呼吸数を求めた.
指尖容積脈波は,提示刺激直前2秒間のデータをベースラインとして,%変化値で解析した.負荷時容積脈波は刺激提示中の3秒間のデータを使用した.
反応時間は対数変換した.
なお全ての生体反応はペンレコーダーのデータから波形をノギスで測り定量化した.A/D変換は現在進行中である.
表1 刺激の評価
実験者側で設定した刺激について,事前に質問紙による評価を行った.N=30である.なお,危険=-2,やや危険=-1,どちらでもない=0,やや安全=1,安全=2で得点化してある.いずれの画像もそれぞれの区分の点数からさほどずれておらず,刺激として妥当だと考えられる.
実験後,被験者にも同じように評価させたが,実験者側で設定した区分とそれほどの相違はないと判断し,実験者側の区分により全ての解析を行った.
2要因分散分析の結果,表2に示すとおり,主効果,交互作用ともに有意ではなかった(F(2,10)=4.10, p<.05).要因Aは事態,要因Bは対象である.
表2 分散分析表
2要因分散分析の結果,表3に示すとおり,主効果,交互作用ともに有意ではなかった(F(2,10)=4.10, p<.05).要因Aは事態,要因Bは主効果である.
表3 分散分析表
2要因分散分析の結果,表4に示すとおり,要因Aの主効果が有意であった(F(2,10)=4.10, p<.05).要因Aは事態,要因Bは対象である.HSDによる多重比較の結果,安全と中間の平均の差が有意であった(MSa*s=0.002).
表4 分散分析表
図1 各事態の平均値
図1は各事態における容積脈波の%変化値の平均値を示したものである.丸で囲んだ部分に有意な差が見られた.
被験者2人がいくつかの水準で失敗したので,反応時間の検定は被験者4人で行った.
2要因分散分析の結果,表5に示すとおり,交互作用が有意であった.そこで,各要因の単純主効果を分析した結果を表6に示した.
表5 分散分析表
表6 A×Bの交互作用の分析表
図2 対象における事態の主効果
平均値間に有意な差が見られたものを矢印で結んだ.
自転車,車においては(安全・中間)よりも(危険)が有意に反応時間が短く,人においては(中間)よりも(危険)が有意に反応時間が短かった.
図3 事態における対象の主効果
平均値間に有意な差が見られたものを矢印で結んだ.
HRには,条件による有意な差はみられなかった.これはほぼ仮説どおりである.
呼吸活動もHR同様,条件による効果はみられなかった.ただ,刺激提示間隔が5秒と短かったため,刺激提示前と後の変化量を測定することが出来ず,仮設の検証は行えない.
容積脈波の変化率は,中間事態が安全事態に比べ有意に大きい.先行研究より,ストレス負荷時の脈波高は負荷なしの状態より減少するはずであるのに,図1に示すとおり,ストレス負荷時の脈波高は増加している.この原因としては,ベースラインとしたインターバルの後半のデータが,前の刺激の影響を受けていることなどが考えられる.
図2より,自転車と車において,(安全事態・中間事態)は,(危険事態)よりも反応時間が有意に長い.これより(安全事態・中間事態)は(危険事態)よりも危険判断に時間がかかることがわかる.
・危険判断において,各事態によるHR,呼吸数の違いは見られない.
・危険判断において,安全事態,中間事態は,危険事態よりも長い時間を必要とする.
一過性の変化を見ようとするときに,刺激提示前と後での変化率を求めるが,今回は刺激間隔が5秒と短く,前の刺激の影響を受けている可能性があるので,刺激間隔を10〜15秒にする必要がある.
藤澤清,柿木昇治,山崎勝男編:新生理心理学1巻・2巻,北大路出版
総務庁編:交通安全白書平成10年版,大蔵省印刷局
日本交通心理学会編:人と車の心理学Q&A100,清文社
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