早稲田大学石田研究室


事務用回転椅子着座時における座面高変化の閾値に関する一研究

大野木 義浩


1. はじめに

近年オフィスにおけるVDT(Visual Display Treminal)作業は著しい増加を続ける一方であり,コンピュータのネットワーク化などといった技術の進歩もその一端を担っている.もうすでにあらゆる業種がVDTを導入し,もはやオフィスは完全な変貌を遂げてしまったといえよう.そしてそれと同時にVDT作業環境に関する研究も多く行われているが,ことに椅子に関する研究は,現在オフィスにおいてVDT作業に従事する就業者がかなり多いことからも「快適性」を求める声が多いために,数多くなされている.

この快適性を決定する要因の一つに座面の高さがある.座面の高さから快適性を探る研究では,理論値を基準として段階的に高さを変化させて好ましい高さを選考値とするものがあるが,その場合の段階の変化量などの決定方法が曖昧であり,それに対しては全く考察されていないことが現状である.そこで本研究ではこの点に着目し,ここから一歩先へ進むべく,段階評価における変化量の認識について研究を行った.

2. 研究目的

椅子の快適性に関する研究としては,車のシートに関するものも含めて,官能検査を用いた主観評価によるものが多いが,そこで評価対象として挙げられる項目には「フィット感」,「クッション感」といった座り心地を判断するものがほとんどである(藤浪 1990,上條 1982).しかしこの座り心地は様々な要因によって変化してしまう.その要因となるものの一つに座面の高さがあるが,これについては最適値に関する研究が数多く行われており,理論値と選考値との差が大きいことが以前からGrandjeanなどによって指摘されている.

しかしこの座面高を主観的に判断する閾値が求められていないため,これまで行われてきた椅子の段階評価における変化量など段階の設定方法は理論的な裏づけがない.そこで本研究では,どの程度の変動があれば椅子の座面高の変化に対して気づくことが可能であるかを明らかにする.

なお,今回はまず主観評価によってどの辺りに違和感の有無を分ける値があるのかをある程度まで絞込み,そこから完全上下法を用いてさらに狭い範囲で閾値を求めるという2段階実験を行った.

3. 実験1

理論値から2cm感覚で±10cmまでの11パターン(理論値を含む)の座面高をランダムに提示し,被験者を着座させ質問紙に記入をさせる.質問内容は,以下に示す項目についての5段階評価である.1試行における全測定値11パターンを2試行繰り返し,実験終了とする.

測定項目:
 {高い・低い}
 {違和感がある・ない}
 {好き・嫌い}
大腿部の座感
 {フィットする・しない}:
 {かたい・やわらかい}
 {違和感がある・ない}
臀部の座感
 {フィットする・しない}
 {かたい・やわらかい}
 {違和感がある・ない}
★理論値・・・平沢ら(1989)が,下腿高をp,履き物高をs,クッションの沈み値をqとしたときの座面高SHの求め方を以下のように定め,これを座面高理論値と定義している.
 SH=p-2.5(cm)+q+s

4. 実験2

基準となる理論値+4cmの椅子に着座し,その次にもう一方の椅子に着座して,基準の高さと比較してもらい,高い・低い・同じの3つの反応によって返答してもらう.実験方法としては極限法を用いて,上昇系列,下降系列ともに測定打ち切りに達したら,実験終了とする.

5. 結果・考察

実験1:理論値+4cmを基準として,+4cm〜+8cmの間,+2cm〜±0cmの間に,座り心地の違和感の有無を分ける必要があると推測できる.

実験2:実験1の推測を確固たるものとすべく実験を進めたが,閾の存在は,
 上昇系列−上弁別閾:+6cm〜+5cm
 下降系列−下弁別閾:+4cm〜+3cm
となり合致しない.これはつまり,違和感の有無をわける値と閾値とは全く別のものであったということになる.これらから最終的に,基準とする値から上下ともに2cmの変動があれば,椅子の座面高の変化に対して気づくことができるという結論が導かれた.


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