早稲田大学石田研究室


小学校における学校安全の立場からみた施設・設備に関する調査

三谷 佳子


1. 目的

学校とは,未来を担う子供達が安全な環境の中でのびのびと教育を受ける場所である.施設の量的な整備が進むにつれて,学校建築が定型化する傾向にある.しかし,学校での事故は,年々増大している.

そこで,学校環境の中で重要な役割をしめる施設・設備に重点を置き,社会問題や教育委員会で報告されるような大きな事故だけでなく,どこの学校でも日常起きている軽いけがをつかみ,危険箇所と快適に学ぶための設備の評価について小学校の教師・教員に調査を行うことにより,安全面と快適さを考慮した今後の学校設計の改善への手がかりとなりうることを目的とする.

2. 方法

児童数,教師・教員数,校地の広さ,施設の状況と規模の大きさの違う大小5校を選出する.そのうち2校の施設・設備を測定し,発生した負傷件数を調査する.教師・教員に物的条件が満たされているか,改善するべきかどうかのアンケート調査を行う.対象者の学校担当構成は次の通りである.

対象者の学級担当構成
図1 対象者の学級担当構成

3. 結果

奨学生の負傷状況は,すり傷54.8%,切り傷7.7%,つき指7.5%,打撲7.2%,うちみ6.9%,捻挫5.8%である.負傷場所は,運動場46.6%,教室17.8%,体育館4.7%,廊下3%,階段2.9%である.クロス集計の結果,屋外でのけがはすり傷が1位であり,屋内では切り傷と打撲の発生率が高い.カイ2乗検定結果,発生場所とけがの種類間のカイ2乗値は,286.61,自由度49,有意水準5%で有意差が見られる.教師・教員の評価結果は以下の通りである.

校舎内でのけがの発生しやすい順位
図2 校舎内でのけがの発生しやすい順位

表1 担当学年と設備の高さ評価に関する検定
担当学年と設備の高さ評価に関する検定

次に,児童数に対する校地・校舎・運動場の広さの評価結果を示す.

表2 校地と校舎・運動場に関するクロス集計表
校地と校舎・運動場に関するクロス集計表

表3 校地と校舎・運動場に関する検定
校地と校舎・運動場に関する検定

4. 考察

今回現地調査を行った2校についても,校地の広さは文部省管理局教育部学校施設基準案の約半数しか満たされていない.実態は,著しく低いレベルにある.十分な広さとは言えない校地に対する教師の意見は,60%が狭いと感じている.同時に,ベビーブームが去り,児童数が減少傾向にあるために,以前の児童数との比較で校地・運動場・校舎ともに,適切な広さと評価する傾向もある.校地と同じく,運動場の広さも満足行くべきものではなく,校内の改善するべき問題点と考える教師が多い.実際に,校内でのけがの発生率が最も高く,児童1人ずつに十分な遊び場を与えることが出来ないために,自由にさせることにより管理に意識がいきがちになると思われる.また,校地を基準に運動場の広さを評価する傾向にある.

校舎と校舎設備に関しては,全体的にかなり老朽化が進み,安全面から見ても満足のいくものではない.校舎の造りや規模は,環境や校地の違いに関わらず,どの小学校もほぼ同じである.定型的な学校建築である.そのなかで,特に,黒板・手洗い場・用具棚等学年を考慮して,自動の体位に見合った大きさ・高さに改善するべきという意見は学校の規模に関わらず多い.このことからも,学ぶ主体であるはずの子どもは重視されず,生活をおくる人間のことよりも建築コストの低減を重視している画一性がうかがえる.

しかし,ひとつの改善点が指摘されたからといって,それが全ての小学校に当てはまるわけではない.どの小学校も同じように改善すれば,これまでと同じように画一的な学校が新しく建設されることになるだろう.同じ幅員・数の廊下や階段でも,児童数の違いにって生じる危険度が変化する.違う改善点が要求される.狭い校地を能率よく利用するためにも,階段・廊下に関しては,自動の量や動線に対応していない無駄な通路やスペースを削除し,見合った規模と位置にすることが望ましい.

校内での,雨の日の発生率が多いことからも,子どもが教室以外にお互いにコミュニケーションが取れるスペースが要求されている.節約したスペースを利用して子供達がのびのびとできる空間を設置するべきである.

同じ校舎と教育を与えても,それぞれの学校に個性が生まれ,違う問題点が発生してくる.他の学校の傾向を捉えた上で,個々の調査が必要である.学校施設・設備の設置計画の際に教師の意見が考慮され,子ども自身の感覚と安全性を重視し,人間として豊かに過ごせる学校になることを願う.


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