早稲田大学石田研究室


女性の自転車利用に関する調査

田近 祥子


1. 目的

自転車は,大変手軽で便利な乗り物である.老若男女を問わず,誰でもその乗り方さえマスターすれば利用することができる.コストも低く,車と違って免許取得の必要もなければ渋滞の影響もさほど受けない.通勤・通学,買い物などの交通手段,業務用,またはスポーツやレジャーとして,多くの人に多くの目的で利用されている.その反面,自転車に関わる問題や事故も増加している.

自転車は道路交通法では軽車両に分類され,当然のことながら利用者は交通ルールを守らなくてはならない.ところが,実際には自転車の立場には曖昧な点が多く,高速化,錯綜化した交通社会で自転車で走行することはきわめて危険である.本研究では,女性を対象に自転車での走行実態について調査し,交通ルールに関する理解面と意識の点から考察し,交通安全教育の必要性と有効性について考えてゆく.

2. 方法

1)交差点におけるビデオ調査
 神保町交差点の横断歩道をビデオカメラで撮影し,女性自転車利用者100名を対象に年齢・運転免許の有無を質問した.撮影後,通過速度・通過状態などのデータを収集した.

2)アンケート調査
 18歳以上の女性157人を対象に自転車利用に関するアンケート調査を行った.アンケートの最後に交通ルールに関する知識を確認する目的で6題の問題を出題した.その内容を以下に示す.

 問題1〜問題3:自転車の走行場所
 問題4:自転車の基本的操作方法
 問題5:車両の流れの予測(左折車両の予測)
 問題6:表示板の知識

3. 結果

状態別通行場所
図1 状態別通行場所

走行場所
図2 走行場所

図1はビデオ調査の結果,調査対象者100人の通行場所と,横断時に自転車に乗って走行したか,自転車を降りて歩いたかを示したものである.図2・3はアンケート調査の結果である.

各問題の正解率
図3 各問題の正解率

4. 考察と結論

今回調査対象とした横断歩道には自転車横断帯が設けられているにもかかわらず,横断帯を直進したものは100人中16人に過ぎなかった.中には強引に進行してくる左折車両や,前進しすぎた右折車両に進路を阻まれて進路変更せざるを得なかったものもいた.また,同横断歩道では歩行者が多く,自転車横断帯にまで広がって横断していたので,自転車横断帯も十分な役目を果たせない様子であった.全体的に,歩行者と自転車は混合しており,特に自転車側が歩行者を避けて横断している感が強い.今回のように横断者の多い横断歩道で,両者(歩行者と自転車利用者)が自転車横断帯の存在を明確に意識しているかどうかは疑問である.

アンケート調査の結果,走行場所を年齢別に集計し検定したところ,有意差が認められた.年齢が高くなるにつれて車道走行をすると答えた人数(いつも車道・主に車道を走るが歩道も走る,の合計)が減少する傾向がある.18〜29歳では28.4%であったのが50〜59歳では15.4%,60歳以上では0%となっている.

自転車利用時に危険を全く感じないと答えたものは,わずか3.2%でほとんどの人が危険を感じている.その対象としては車両が第1位であった.

交差点でどのように横断するかという質問に対し,58%の人が横断歩道を走行すると答えた.自転車横断帯を走行すると答えたものは10.8%,自転車を降りて引いて歩くと答えたものは8.3%しかなかった.アンケート後半の交通ルールの知識に関する問題で,

 ・横断歩道は自転車を降りて歩いて渡らなければならない
 ・自転車横断帯のある場合はそこを進行しなければならない

を出題した結果,上の問題(問題2)は70.1%,下の問題(問題3)は93%の正解率を得たにもかかわらず,実際は横断歩道を走行するものが最も多いということになる.ビデオ調査の結果でも自転車に乗ったままで横断歩道を走行する物の数が多く,自転車横断帯を走行するものの方が少なかった.知識と実態は必ずしも一致しないといえる.

交通ルールに関する問題では全体の平均は6点満点中4点であったが,免許所有者の平均は4.2点であるのに対し,免許のないものの平均は3.8点であり,検定の結果,有意差が認められた.不正解者は,50歳以上に集中している.年齢が高い人の方が,左折車の予測が困難で,注意力に欠けるといえよう.30〜49歳でこの問題を間違えた人は一人もいなかった.

運転免許所有状況別には,問題5と問題6で有意差が認められた.免許所有者の97.8%が左折車を予測できるのに対し,免許のないものは87.5%と9割に満たなかった.車を運転する人の方が,車両交通の流れを把握し,その危険を認識していると考えられる.

総合的に,自転車の立場は曖昧な点が多く,安全に走行するために道路整備も不十分である.自転車を取り巻く環境を整え,その立場を確立し,利用者をはじめ交通社会に参加するすべての人の知識と意識を高めることが重要である.


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