早稲田大学石田研究室


スクロール表示における読解速度および眼球運動特性

高橋 章広


1. 目的

文章を提示する一方法としてスクロール表示方式というものがある.この表示方式とは一列,一定の幅を持つディスプレイ盤に文字または図形をスクロールさせることにより情報を伝達するためのものである.このような表示方法は有効な情報伝達の手段として現在様々な場で活用されている.しかし,現在実用化されているこのような表示装置は人間の特性を考慮して設計されているとは甚だ言い難い.

本研究では,このようなスクロール表示形態における人間の情報処理的側面(読解速度)および行動的側面(眼球運動)について考察,検討する.

2. 方法

実験1:指定速度(快適速度,許容最低速度,最高限界速度)を表示方向(横,縦)2条件×表示文字数(2,3,5,7,10,15,20)7条件それぞれについて被験者設定法によってデータを得る.被験者は20名.
実験2:蒸気の三つの主観速度を表示方向2条件×表示文字数(7,20)2条件について被験者に提示し,EOGによって眼球運動を記録する.表示する速度は実験1によって得られた統計量を用いる.被験者は10名.

実験2システム
図1 実験2システム

3. 結果

実験1:実験結果を図2に示す.各指定速度ごとに表示方向,表示文字数についてのに要因分散分析を行ったところ,快適速度において表示文字数の主効果のみが有意であった(F(6, 114)=19.505, p<.001).そこで,表示文字数の主効果について多重比較を行ったところ,表示文字数2文字ではすべての表示文字数との間と有意な差が見られ,3文字では7,10,15,20文字との間に有意な差が見られた.許容最低速度においては表示方向の主効果のみが有意であった.最高限界速度においては表示文字数の主効果のみが有意であった(F(1, 19)=15,967, p<.001).そこで,表示文字数の主効果について多重比較を行ったところ表示文字数2,3文字において他すべての表示文字数との間に有意な差が見られた.

各指定速度における主観速度
図2 各指定速度における主観速度

実験2:図3に横表示20文字幅最高限界速度の出力と静止文章読解時の眼球運動波形を示す.この二つを比較する限り,サッケード運動の軌跡幅はさほど変化がみられない傾向がうかがえた.

眼球運動の波形出力
図3 眼球運動の波形出力

サッケード運動,瞬き回数について,表示方向,表示文字数,主観速度三要因について分散分析を行った.サッケード運動では表示方向,主観速度の交互作用が有意であり(F(2, 16)=3.325, .05<p<.010),その単純効果は最高限界速度での表示方向が有意であった(F(2, 16)=17,377, p<.001).その単純効果は最高限界速度での表示文字数間が有意であった.瞬きでは表示方向,主観速度の交互作用が有意傾向であり(F(2, 16)=2.782, .05<p<.10),その単純効果は快適速度での表示方向間が有意であった.

4. 考察および結論

◆スクロール表示において推奨される快適速度表示条件とは横表示,縦表示問わず表示文字数5文字以上で提示速度200ms/characterである.
◆スクロール表示において許容最低速度表示が必要とされる場合,推奨される条件は表示幅を問わず横表示の場合924ms/character,縦表示の場合852ms/characterである.
◆スクロール表示において最高限界速度表示が必要とされる場合,推奨される条件は横表示,縦表示問わず表示文字数5文字以上で提示速度86ms/characterである.ただし,この条件下でしばらく文章を読んでいると目が乾きやすいので注意が必要である.
◆各表示条件下での最適な表示速度のデータが必要なとき,表示幅が決まれば,
 横表示快適速度の場合 y=886.201log(x)+287.47
 縦表示快適速度の場合 y=-76.624log(x)+286.97
 横表示許容最低速度の場合 y=-63.543log(x)+976.66
 縦表示許容最低速度の場合 y=-81.897log(x)+919.68
 横表示最高限界速度の場合 y=-26.327log(x)+112.36
縦表示最高限界速度の場合 y=-31.688log(x)+119.57
の回帰式によって近似値が得られる.
◆横表示条件と縦表示条件を比べると横表示の方が読解行動において表示速度及び表示幅の対応範囲が広い傾向がある.
◆表示文字数7文字以上20文字以下の範囲において表示幅が広く,表示速度が速くなれば,サッケード運動を行う回数が多くなり,瞬きの回数が減る傾向がみられる.
◆表示文字数7文字以上20文字以下の範囲において各表示文字数条件下で設定する速度は同じ(情報処理の時間は同じ)値でも眼球運動の性質は異なる(読解動作は違う)傾向がみられる.


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