早稲田大学石田研究室


視覚障害者誘導用ブロックに関する調査

大野 敏明


1. 目的

今日,障害者福祉の理念としては,ノーマライゼーションが最も基本的なものであるということはよく知られるようになった.
 この理念を交通環境にあてはめると,交通環境におけるノーマライゼーションとは,移動の平等の保障であるといえよう.視覚障害者を例にすれば,視覚障害者も晴眼者も平等に行きたいところへ行けるということであり,これを実現するためにさまざまな歩行補助方法が必要となってくる.
 視覚障害者の歩行補助方法のひとつである視覚障害者誘導用ブロックは,最近では駅や交差点などを中心に普及してきてはいる.しかし,形状やレイアウトが統一されていないなど,問題点が多く残っているのも現実である.
 そこでこの調査研究では,視覚障害者誘導用ブロックを実際に利用している視覚障害者の方を対称にしたアンケート調査により,現在の視覚障害者誘導用ブロックが抱える問題点を明らかにすることを最大の目的とする.

2. 方法

今回の調査は視覚障害者を対象としているので,アンケートは,質問も回答も点字で実施した.対象は,実際に視覚障害者誘導用ブロックを使って歩行していると思われる,白杖を使って単独歩行をしている12歳以上の視覚障害者の方とし,依頼にあたっては,横浜市立盲学校,神奈川県立平塚盲学校,東京都立文教盲学校の教員及び生徒の方々にお願いした.
 回収数は合計で63部(うち無効3部)であった.そのうちの有効回答60部を,解析の対象とした.

3. 結果および考察

(1)ブロック上の障害物

ブロック上の障害物で困るものとして代表的なものは放置自転車である.アンケートにおいても73.3%の人が困ったことがあると答えている.また放置自転車以外では駐車車両が困ると言う意見が多かった.ブロック上でなくとも路上駐車が問題になっている現在,そのほとんどが道路の端にしかれる視覚障害者誘導用ブロックにおいては,その機能をまったく果たさないどころか,ブロック上を歩いていると言うことで安心している視覚障害者にとっては,かえって危険を増長してしまうこともある.
 また,収集前のゴミが困るという意見も多かった.ゴミ収集場所というのは道路の端に設けられることが多い.きちんとした収集スペースが設けられている場所はいいが,道路にゴミを出す場合は,ブロックの上にかからないようにすることが必要である.
 その他には,商店の看板や店先に並べられた商品,電柱,駅のホームでの鞄という意見があった.電柱はブロック上になくてもブロックの近くにある場合が多く,ぶつかってしまうと言う意見が多かった.

(2)ブロックの素材,形状等の問題点

ブロックの素材,形状等への不満について,一番多かった意見は突起をもっと大きくしてほしいということである.特に磨耗したものは新しくしてほしいと言う意見もあった.突起は大きくすれば判別しやすくなるであろうが,大きくすることで,それにつまづく人が出てくる可能性がある.突起の大きさについては,視覚障害者が判別しやすいという条件だけで考えることは危険である.
 また,非常に大きな問題として,紛らわしい路面舗装,概観を重視しすぎているブロックの形状が原因で路面との区別がつきにくいという問題がある.現段階ではブロックの設置指針が法的拘束力をもたず,減速に過ぎないということからこの様な問題が起こる.この問題はブロックの設置指針の統一,法令化という問題が解決されれば改善されるであろう.
 色についても同様で,黄色は目立ちすぎると敬遠されがちではあるが,弱視者などにとっては黄色が見つけやすいので良いという意見が多い.また,黄色という目立つ色は健常者にブロックの存在をアピールするという効果もあるので,放置自転車などのブロック上の障害物も減るのではないかと考えられる.

(3)レイアウトの問題点

現行のレイアウトの是非については意見が分かれた.しかし,レイアウトのどのようなところに不満があるのかという設問に対して一番多かった意見は,統一してほしいというものであった.レイアウトの違いで,ブロックが示す意味はまったく異なってしまう場合もあり,地域によってレイアウトが異なるということは危険である.
 また,2番目に多かった意見は,点状ブロックと線状ブロックの区別が曖昧であるという答えであった.注意を促すための点状ブロックと誘導用の線状ブロックの使い分けひとつの違いでも,ブロックが示す意味は異なってくる.
 その他には外観を重視しすぎているという意見があった.レイアウトに関しても形状や色と同様に,指針に沿わずに路面の形状などに合わせて敷いていることへの不満の意見は多かった.
 しかし,この2つの意見についても,設置指針が統一され法令化されれば,改善に向かうであろう.

(4)視覚障害者誘導用ブロックと社会

視覚障害者誘導用ブロックが抱える問題点は,ブロックそのものの敷き方だけではなく,放置自転車や健常者の理解のなさなどの社会的な問題も数多くある.
 まず行政側に対する意見として多かったのは,やはり全国統一の設置指針の制定である.その他にはブロックを敷く際は,実際にブロックを利用する当事者である視覚障害者の意見をもっと反映させて欲しい,ブロックを強いた後のメンテナンスをしっかりしてほしいと言う意見があった.
 また,健常者に対する啓蒙を望む声も多かった.健常者に視覚障害者誘導用ブロックの役割を知ってもらい,理解してもらえれば,放置自転車をはじめ,多くの問題が解決に向かうであろう.

4. 結論

・視覚障害者誘導用ブロックの全国統一の設置指針を,視覚障害者の意見を最大限に反映させた形で早急に制定すること.
・晴眼者が視覚障害者誘導用ブロックの役割および視覚障害者を良く理解すること.

この2点が,視覚障害者誘導用ブロックの抱える問題を解決するためのキーワードであろう.
 もちろん,日本全国で30万人以上いるであろうと言われている視覚障害者の意見を1つにまとめることは不可能であろうが,重要な点は,「視覚障害者の意見を反映させる」ということであり,決して行政側の一方的な押し付けであってはならないということである.行政側の一方的な押し付けの福祉は,無いよりはいいかもしれないが,アドバルーン的な要素が前面ににじみ出てしまい,いやみなだけである.
 また,健常者に対する啓蒙が進めば,放置自転車や駐車車両をはじめとする多くの問題は解決に向かうであろうし,それ以上に視覚障害者と健常者がお互いを受け入れられる環境,ノーマライゼーションが実現された社会へ向かう第1歩とも成りうるであろう.


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