情報化社会におけるコンピュータやワードプロセッサなどのOA機器は,現在の我々にとって必要不可欠なものになった.OA化が企業内だけでなく,大学や研究機関にも着実に浸透しており,コンピュータの普及と共に,一般家庭においても,文書作成に日本語ワードプロセッサなどのOA機器を使うケースが増えてきた.
ところが,これらの機器は,まだまだ人間にとって使いやすいものだとは言いがたい.多機能になればなるほど,人間には複雑な操作が要求される.また,OA機器が自動化されたことによるブラックボックス化から,操作上の不安も増してくる.本来人間のためにと開発された機器が,逆に人間の心理的不安を呼び起こしたり,ストレスの原因となってしまっている現状がある.
このような背景のもとで,VDT(Visual Display Terminal)問題が顕在化するにいたり,人間がOA機器に対して不安を感じないようにするために,人間とOA機器の間にある深い溝を埋めるためには,使いやすいOA機器の開発や環境設定が必要である.
本研究では,VDT作業の中でも特に,一般ユーザーを対象としたワードプロセッシング作業において,作業環境を人間本位の快適なものとするために,その学習過程に,音刺激による打鍵速度の制御を施し,その有効性を検討するものである.
被験者の行う作業は日本語ワードプロセッサのかな入力である.その際,操作系としてJIS配列キーボードを使用する.被験者を2つのグループに分け,一方に自由打鍵作業を,もう一方にメトロノームを用いた打鍵速度制御のある作業を,4日間連続で1日10分×3(条件別)行わせる.このときの,打鍵数,打鍵エラー数,打鍵時間値をデータ解析して,ペース付けの効果を検討する.また,被験者の内観調査についても同時に行う.システムは図1のとおりである.
図1 実験システム
以下に,エラー率の各グループの被験者の代表例を示す.エラー率は次式により求めた.
エラー率=誤打鍵数/総打鍵数×100 (%)
図2 自由打鍵の被験者の各条件ごとのエラー率の推移
図3 メトロノームの被験者の各条件ごとのエラー率の推移
これによると,エラー率には個人差が見られるものの,メトロノームによる打鍵速度制御によって,エラー率が減少している.
被験者ごとのエラー率は,自由打鍵グループ,メトロノームグループともに個人差があり,傾向としては確かなものは見受けられない.
ただ,メトロノームグループの4日目になって,それまでエラー率の減少が見られた条件の一部に,逆にエラー率の上昇が見られた.
これは,最初のうちは,キーポジションを覚える過程などが負荷となっており,ミスが多いが,慣れてくるに従い打てるようになり,その後は,慣れからくるうっかりミスや,退屈さから来るペースのマイナス面が増えてくるので,このような形であらわれたと考える.
それに対し,自由打鍵グループは,退屈さが少なく,集中できるが,多少難しさ(間違う確率)を伴うということになる.これは,間違いこそ多くなるものの,人間的な作業環境であると思われる.
逆に,メトロノームグループは,単純作業化しているため,簡単であるが,退屈になり,集中力に欠けてしまう.これは,簡単になるだけで,人間が機械的な動作を強いられているため,快適な作業環境とはいえなかった.
また,アンケートの結果から,人間の心理的側面からは,打鍵作業にペース付けを施すことは,自由打鍵グループの場合と比較して,その正確さやペースを保つことのプラス面よりも,退屈さや集中力の欠如というマイナス面の方がでてしまうことがわかった.
かな入力の初心者を対象とした,メトロノームを用いた打鍵速度の制御によるタイプ学習の実験結果から,次のことが判明した.
1)打鍵速度を制御することで,打鍵エラーの減少が認められる.
2)ペースの設定が個人の打鍵能力に合うと,学習効果が上がり,ペースを制御されることが負荷ではなくなる.
3)打鍵能力より遅いペースは,キーボード習得期間後,ペースに慣れるため,ペースにあわせて作業することへの飽きが生ずる.
メトロノームによるペース付けは,打鍵作業を単純化するため,作業能率はある程度上がるが,人を退屈にさせ,集中力を欠く原因となる.これでは,作業者が機械的な動作を強いられるので,快適な作業環境とはいえない.
これに対して,比較対象のために行った自由打鍵作業の場合には,作業自体に退屈さが少なく,集中できるという結果になった.この場合では,作業中のエラーが多くなるものの,人間的な作業環境であるということができる.
また,人間の心理的側面からも,打鍵作業にペース付けを施すことは,自由に打鍵する場合と比較して,作業の正確さやペースを保つことのプラス面よりも,退屈さや,集中力の欠如というマイナス面が強調されることがわかった.
以上のことから,VDT作業時に打鍵速度の制御を行う場合は,ただ単に能率をあげることを目的に,作業が単調でパターン化されてしまうようなペース付けをするのではなく,人間が作業主体であることを踏まえ,人間が快適さを感じながら,能率的に作業ができるような種類の音刺激によるペース付けをすることが必要だと考えられる.
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