早稲田大学石田研究室


障害物回避における運転行動

古田 将人


1.はじめに

車の性能は過去数十年の間にたえず改良されてきたが、操縦者である人の能力はほぼ不変にとどまっている。したがって、道路使用者(運転者と歩行者)と車との相互作用は、道路交通安全に携わっている人々の注意をますますひきつけている。 現在、我が国の普通自動車運転免許保有率は高く、年齢・性別・運転経験などを異にするさまざまな人々が車を運転している。一方で、交通事故も後を絶たず、交通事故による死者はここ数年は減少傾向にあるものの、年間1万人前後を推移し未だに高い水準にある。さらに、事故件数および負傷者数は増加している。自動車が一般大衆化し、ドライバーが多様化している今日、交通安全の面から人と車の関係を考えることは必要不可欠である。特にドライバーの運転特性を把握することは重要である。

運転免許取得後の経過年数が一年未満の初心運転者は免許保有者全体の4.3%を占めているが、この初心運転者による交通事故の発生比率は死亡事故の8.5%と高い(平成10年)。運転教習者に対する効果的な教育と訓練、初心運転者の再教育などによる事故防止対策が切望されている。

2.目的

そこで、本研究は障害物回避における初心運転者と熟練運転者、また、男性と女性の運転操作の比較検討することによって、ドライバーの運転行動を明らかにする。

3.実験方法

3−1被験者:

普通運転免許を有する大学生および大学院生20名
・初心運転者(ペーパードライバー:男性5名、女性5名)
・熟練運転者(免許取得後3年以上経過し週3回以上運転している:男性5名、女性5名)

3−2実験場所:

早稲田大学人間科学部敷地内
・実験コース:道路幅2.75m(制限速度30km/hの一般道路の道路幅と同様に設定した。)全長150mの直線道路で、加速区間を50mとしたコースを用い、車進行方向の左側に障害物を配置した。

実験コース
図1:実験コース

3−3実験手順

実験には、普通乗用車(車幅1.795m)を用い、計測項目は実験車の走行速度、また障害物とすれ違う際の車速と回避距離、ハンドル操作とした。

1.レーンキーピング

・左側の白線の上を左側のタイヤが通るように(レーンキーピング)運転してもらう。このときミラーを閉じて使用できないようにし、被験者の感覚のみで運転してもらう。

2.人回避

・制限速度30km/hの一般道路上の路肩に人(本実験では赤いコーンを人にみたてる)が立っている状況をつくり運転してもらう。スタート地点から50m地点までを加速区間とし、その区間までに30km/hに到達するよう教示し運転してもらう。

3.自転車回避

・同条件で障害物を自転車に変えて実験をおこなった。

4.駐車車両回避

・同条件で障害物を駐車車両に変えて実験をおこなった。

各障害物通過後に障害物の横何mを通過したかを感覚で教えてもらった。

5. 駐車車両+対向車回避

・駐車車両回避の実験と同様の状況に対向車両を含めて実験をおこなった。(実験車が止まることなく駐車車両を回避できる状況を設定)また、被験者には対向車は道を譲ってくれるという教示をした。対向車は170m地点から発進し時速約20km/hで走行することとし、発進のタイミングは実験車が50m地点を通過したとき人による手信号とトランシーバーにより合図した。

以上の実験を各被験者にそれぞれ2試行ずつおこなった。

・測定方法

実験車スタート地点から、約10m後方にビデオカメラを設置し実験車の走行状況(実験車が100m地点の障害物の横を通過した瞬間、光電センサーが反応しLEDを点灯する場面)を撮影した。ビデオカメラの設置位置は固定し最大ズームで常に撮影をおこなった。

車内では、速度計・距離計・ハンドルの3つが映り込むようにビデオカメラを設置し撮影した。

・データ処理方法

走行速度及び障害物間通過速度に関しては、車内に設置した速度計・距離計・ハンドルの3つが映り込むビデオカメラの映像から、50m地点から10m間隔で障害物の通過を終える110m地点までの速度を求めた。

回避距離に関しては、走行状況を撮影した映像のLED点灯時を1フレーム1/30秒にして画像解析をおこなった。

ハンドル操作に関しては、車内に設置した速度計・距離計・ハンドルの3つが映り込むビデオカメラの映像から、ハンドルの切り始め距離を求めた。なお、人、自転車回避においてハンドルを確かに切っているということが確認できなかったことから、駐車車両回避時のみを求めた。

4.結果及び考察

4−1.レーンキーピング

初心運転者と熟練運転者の白線からの位置
図2:初心運転者と熟練運転者の白線からの位置

図2より、熟練運転者は初心運転者よりも白線の近くを走行できることから、レーンキーピングがうまく、車両左側方の感覚が優れていると考えられる。また、初心者は白線より内側を走行する傾向がみられた。

性別間には有意な差はなかった。

4−2.障害物回避速度

経験による障害物通過時の平均速度の比較
図3:経験による障害物通過時の平均速度の比較

図3より、すべての条件において熟練者は初心者よりも回避速度が高いことがわかる。これは熟練者が速度計を気にすることなく、感覚の中の30km/hで走行したためであり、初心者は普段車に乗らないため、速度感覚がないことから速度計を気にしながら制限速度を守ったためと考えられる。また、初心者は元々、高い速度で走行することへの恐怖感を持っているのではないかと思われる。

回避距離の結果(4−3)および、ハンドル操作の結果(4−5)と照らし合わせると、初心者はハンドルの切り始めが遅いにも関わらず、熟練者と回避距離が変わらないため、障害物の手前で速度を落としていると考えられる。よって初心者と熟練者間で速度の違いがあったと考えられる。

性別間に有意な差はなかった。

・各障害物間の回避速度比較

熟練者は各障害物間の速度に有意差がなかった。このことから、障害物が変化しても速度には影響しないことがわかる。これは、熟練者にとって各障害物の回避は、容易なハンドル操作であって速度を変化させるまでにはいたらなかったと考えられる。初心者は障害物の自転車と対向車あり、自転車と駐車車両、人と対向車あり、人と駐車車両の間において有意差があった。しかし、自転車と人の間には有意差がなかった。このことから、人と自転車は100m地点のライン上にあるため、ほぼ直進で回避できるものである。しかし、駐車車両は白線から飛び出ていることにより、障害物が人や自転車のときと比較して障害物回避のためのハンドル操作を大きくおこなうことによって速度を落としたと考えられる。また、単純に障害物が大きくなったことにより、危険を感じ速度を落としたとも考えられる。

4−3.障害物回避距離

経験、性別において障害物回避距離に有意な差はみられなかった。初心者と熟練者において速度および、ハンドルの切り始めの距離が違っている。しかし回避距離は変わらないということは、回避したいと思っている距離感覚は同じでもそこに至るまでの過程が違うことがわかる。よって、熟練者は簡単な障害物回避方法を知っているが、初心者はそれを知らなく難しい運転をしていると考えられる。

4―4.障害物回避距離と見積もり距離

実測の回避距離と見積もり距離との差を絶対値に直し、経験と性別と障害物の三要因の分散分析をおこなった結果、どの要因にも有意差はなかった。レーンキーピングの実験結果から熟練者は左側方感覚が優れているにも関わらず、経験において有意な差がでなかった。これは、本実験では単に回避行動をおこなっているにすぎなく、回避距離を決めて運転していない(障害物を回避する際、誰しも1mあけて回避しよう、このときは1.5mあけて回避しようとは考えていない。感覚で通過している。)ため、見積もり距離というのは単なる当て勘にすぎなく信頼性にかけると考えられる。よって、本実験では障害物回避距離と見積もり距離の関係は明らかにならなかった。

4−5.ハンドル操作

駐車車両時のハンドル切り始め距離
図4:駐車車両時のハンドル切り始め距離

図4より、ハンドル操作において初心者は熟練者と比較して、障害物に近づいてからハンドルを切り始めることがわかった。このことを回避距離と照らし合わせて考えると、初心者と熟練者は回避距離が同じであるが、初心者はハンドルの切り始めが遅いということは、障害物の近くになってから大きくハンドルを切っていることがわかる。初心者は、危険な運転操作をおこなっていると考えられる。熟練者は早い段階からハンドルを切っていることから、経験を積む中で障害物を回避する際は、早い段階でハンドルを切ることを覚えたと考えられる。

性別において有意な差がなかったことから、男性と女性ではハンドルの切り始めの距離は変わらないと言える。

5.まとめ

・熟練運転者は左側方感覚が優れているが、初心運転者は左側方感覚が不確かである。
・障害物を回避する際、熟練者は初心者よりも高い速度で通過する。
・熟練者は障害物によって速度を変えないが、初心者は速度を変える.
・障害物回避距離に経験の違いはなかった。
・熟練者はハンドルの切り始めが早いが、初心者はハンドルの切り始めが遅れる。
・初心運転者と熟練運転者では障害物回避過程が違うといえる。
・本実験では男性と女性の運転特性の違いは明らかにならなかった。

引用・参考文献

1.増田ほか:両側に障害物がある場合のドライバの運転行動、自動車技術会学術講演会前刷集、911097、Vol.911(1991-5)、391-394
2.森ほか:歩行者・車とのすれ違い時におけるドライバの運転特性、久留米工業大学研究報告、No24,(2000)、19-26
3.佐藤公治:運転初心者と熟達者の視覚探索・周辺視情報処理、IATSS Review、Vol.19、No.3、(1993)、191-199
4.交通安全白書(平成11年版)、総務庁、(1999)、142-149
5.ビジュアルデータ −図でみる交通事故統計−(平成10年度版)、警察庁交通局交通企画課、147-148


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