早稲田大学石田研究室


操作機器の変換に伴う学習の転移に関する研究

國分 義弘


1. 目的

近年の半導体技術などのブレイクスルーによって,パーソナルコンピュータがオフィスなどに多く見られるようになった.またワードプロセッサも,比較的容易に購入できる価格で製造が可能となり,文書の作成・印刷という一般ユーザに身近な形での「情報化」を実現した.現在ワードプロセッサを製造しているメーカーは約20社にのぼり,シェアの拡大のために他社との差別化をはかり,短期間でのモデルチェンジを繰り返している.

ハードウェア,なかでも最も重要な入力デバイス(操作機器)であるキーボードに,メーカー間での構造上の違いが現れるようになった.このためユーザはキーボードや使用するワードプロセッサを,変更することを余儀なくされる事態が生じ始めてきた.

このような現状において「操作機器の変更に対するユーザの混乱」に関する実験的な研究はほとんど行われていない.そこで本県急は,操作系変更に伴うユーザの混乱を学習間相互作用の中の学習の転移という観点にたって考察し,操作系としてJISキーボードとOASYSキーボードを選定し,操作機間の変換に伴う学習の転移について定量的に明らかにすることを目的とした.

2. 方法

2.1. 実験概要

同一の処理系で操作方法が異なる作業として,日本語ワードプロセッサーのかな入力を被験者に行わせる.その際,配列の異なる2種類のキーボード意を用い,それぞれのキーボードの熟練者を被験者とする.

はじめに各被験者を熟練したキーボードでの作業を行わせてそれぞれの習熟度を比較の基準とし,次に他方のキーボードによって作業をさせ,測定したデータの変化によって学習の転移の有無や傾向を調査する.

2.2. 実験方法

実験期間は連続する4日間とし,一日の作業内容は最初に練習としてあいうえお入力を20分間行い,10分間の休憩の後,20分間の本実験を3回繰り返す(間に10分間の休憩をそれぞれはさむ).

2.3. 測定・解析データ

パフォーマンスデータ

(1)打鍵時間値分布
 1日の作業の打鍵時間値の頻度分布を100ms単位でとり経日変化を見た.
(2)平均打鍵時間値
 初心者,熟練者両グループの全被験者に対し,1日単位および試行単位の平均打鍵時間値を示す.またグループ内の平均打鍵時間値の推移をグラフに表す.
(3)学習曲線
 各被験者の平均打鍵時間値の経日変化を求め,それにより学習曲線を求めた.また学習曲線を下記の指数関数で近似し,その近似式の各定数を求めた.
 近似式:Y=aebx
(4)学習の転移率
 学習の転移率としてTR(Transform Rate)を下記のように定義し,学習の転移量を表す指標として用いた.
(5)学習効果(|b|)
 学習曲線の近似式Y=aeのx係数bは定数|b|として学習効果の度合いを表す指標となり,|b|が大きいほど学習効果が大きいといえる.
(6)親指シフトキーによる影響
 OASYSキーボードで親指シフトキーの同時打鍵が必要な文字を入力する際の被験者に対しての負担のグループ間の相違を比較する.
(7)エラー率
 エラー率をグループ間で比較する.

生体情報

(1)瞬目率
 作業の瞬目数を求め,作業中の緊張度を表す.
(2)キーボードの注視時間
 作業中の総キーボード注視時間を求め,被験者の生体情報から見た習熟の度合いを表す.

3. 結果

代表的な打鍵時間分布の計日変化をのせる.

1日目
図1 1日目

2日目(操作系変換)
図2 2日目(操作系変換)

3日目
図3 3日目

4日目
図4 4日目

4. 考察

操作系の変換に関して以下のような傾向が現れた.

JIS 認知様式が日常的である(1対1)
OASYS 認知様式は日常的ではない(1対2)
初心者 認知様式は固定されていない
熟練者 認知様式が定着している
初心者の認知様式 初心者は日常的な様式で打鍵の学習をする.
熟練者の認知様式 熟練者は打鍵作業に対して特別の認知様式が完成されている.

5. 結論

キーボードオペレーションにおいて操作系の変換が行われた場合,先行学習と熟練の度合いによって学習の転移量および転移の様式は異なる.

操作機器の変換に伴う学習の転移は
 1 操作する機器の持つ認知様式の日常性
 2 被験者の既に形成されている認知様式
 3 操作機器の円滑な使用に必要な認知様式の操作機器自体の強制力
 4 操作機器間の優位性
に影響を受ける.


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