特別養護老人ホームを対象に,室内雰囲気に関する研究を老人と学生を被験者として行う.単色に対する嗜好性と室内配色に対する嗜好性の相関関係を調べ,色をよりよく理解し効率的に利用するための知識を得ることおよび,将来,老人ホームの室内環境整備に貢献することを目的とする.高齢化社会がますます深刻化しつつある現時点で,特別養護老人ホームを対象とした室内雰囲気に関する研究を,老人を被験者として行うことの意義は大きい.
老人は,なぎさ和楽苑の入居者および通苑者(31名),学生は早稲田大学人間科学部学生(44名)を対象に調査を行った.このうち,老人男性2名と老人女性2名が色弱で,学生男性一名が色盲だったため,データから除外した.
老人に対する調査:1990年10月12,13,16,19日
学生に対する調査:1990年10月15,18日
嗜好色調査および写真試料による室内配色に関するイメージ調査.同時に色彩異常検査,色彩弁別検査,視力検査も行った.
被験者に,試料としてPCCSハーモニックカラーチャート201-L(日本色研事業株式会社製)のマンセル色相環および白(N9.5),灰色(N5.5),黒(N1.5)を示し,第一嗜好色・第二嗜好色・第三嗜好色を調査した.また,試料中にない色(茶色等)を嗜好する場合には,その嗜好色名をあげてもらい記録した.
用意した12枚の写真試料を,1枚づつランダムに被験者に提示し,それぞれについてSD用紙を用いたイメージ調査を行った.
写真は廊下の写真と居室の写真を各6枚用意した.それぞれ,寒色系・緑系中間色系・暖色系の着色を2パターンずつ用意した.
老人については,SD表現用語(以下形容詞対)を全て平仮名書きとした老人用の用紙を用いた.さらに,なぎさ和楽苑の寮母長のお話から,老人の多くは一人で形容詞対を理解し最後までやり遂げるのは不可能と判断し,マンツーマンの面接形式で実験者が記入する形を取った.耳の不自由な老人に対しては,筆談による面接を行った.
マンセル色相における冷色相・中間色相・暖色相と呼ばれる区分と色彩の暖寒感(相馬・富家.千々岩,1963)の表を参考に本実験においては寒色・中間色・暖色の境界を独自に設定した.
寒色の人気が非常に高かった.日本人は青が好きであるという一般的通説を裏付ける形となった.
老人において回答率が,第二嗜好色以降は急激に減少している.このことから,老人は色の嗜好に多様性が欠けると考えられる.また,寒色の人気は,年齢層に関係なく日本人に好かれる色であることがわかった.
緑系中間色と暖色は,老人・学生ともに嗜好性は高いが,学生では第2第3嗜好色においては緑系中間色より暖色を嗜好した.逆に老人では常に暖色より緑系中間色を嗜好している.
白色は,学生のみが嗜好し,しかも,男性より女性の方が強い嗜好性を示している.若い女性は白に対する嗜好性が高いと言える.
分析の結果,因子数を2因子にしたときが最適解であった.
各因子に高い負荷量を持った形容詞対の名から,それぞれ第1因子を「清潔な親しみやすさの因子」,第2因子を「暖かい陽気さの因子」と解釈できる.
トーンの違いは余り反映されず,同色写真同士はとてもよく似た線を描いた.寒色の写真と,中間色の写真は,比較的似たプロフィールを描いた.
全体にプロフィールが左に寄ったのは,配色に対するイメージと言うより写真の明るさ自体に問題があったように思われる.
この6枚のプロフィールを通していえるのは,寒色嗜好者と中間色嗜好者のプロフィールが比較的似た線を描き,両者とも寒色の写真と中間色の写真においてほぼ常に赤色嗜好者の左側(プラス評価寄り)を描くのに対し,赤色写真ではグラフの中央辺りをあまり動かない線を描くことである.
このことから,寒色嗜好者と中間色嗜好者に限って言えば,嗜好色と同じ色の写真との間には,関連性がありそうだということがうかがえる.
室内配色のイメージ調査において,寒色嗜好者と中間色嗜好者が,暖色の写真に対して他の写真に対する評価とは別の低い評価を下したことで,嗜好色と嗜好色で塗られたものの間には,相関関係がありそうだということがわかった.しかしながら,あくまでも写真による調査であったためそのまま室内配色にあてはまめることができるとは,言いがたい.
今後の課題としては,写真ではなく実際に着色した部屋を使った実験を行い,写真による毛かとも照らし合わせた考察が必要であると思われる.
また,嗜好色調査においては,過去になされた研究の成果と重なる点を見出すことができた.嗜好色に関する確定的なモデルを示すのは難しいが,少なくともある程度の傾向は,一致すると言うことが確認できた.
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