早稲田大学石田研究室


VDT作業時のワークロードによる生理的変化についての一研究

竹内 寛


1. 目的

現在社会において我々は作業の中で様々な要求を課せられる.その中でノルマとしての作業量は,我々に課せられる最もポピュラーな要求の1つと言えよう.

筋的作業については,負荷量の変化による生理的変化の研究が行われてきた.しかし,精神作業では,寡少負荷,過大負荷に対する生理的変化や大まかな生理的負担については良く知られるところであるが,作業スピード,負荷量と生理的負担の関係について詳しくはわかっていない.また,要求される作業量と行動的,生理的変化との関係は注目されよう.作業能率=作業量/生理的負担といえ,仕事と人間の適合化を目指す上で,精神作業とと生理的負担との関係を考えていくことには意義がある.そこで,本研究では,VDT作業のキーボード入力における作業量という負荷と生理的負担との関係について明らかにすることを目的とする.

2. 実験方法

本実験において被験者の行う作業は,JIS配列のキーボードによるかな入力である.被験者の限界打鍵能力を被験者別に測定し,その打鍵数を基準に様々な打鍵数をノルマ(本実験における作業負荷)として課すことになる.

被験者は専門ワープロオペレータ(「日本語文書処理技能検定3級:日本商工会議所」を取得)の3名である.生体情報を測定するため,以下のことを被験者に教示する.

 (1)実験日前夜は睡眠を十分に取ること.
 (2)実験当日の朝食は実験開始3時間以前に取り,それ以降は飲食,喫煙を控えること.

被験者別に限界打鍵能力を設定し,設定した各被験者の限界打鍵能力の0.6倍,0.8倍,1.2倍,2.0倍の打鍵数をノルマとする5パターン及びマイペースの計6種類の打鍵作業を行う.

3. 結果

本実験で得られた,各負荷条件における生体情報及びパフォーマンスの結果を表1,表2に示す.

表1 負荷別の各指標の値(変換値)
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表2 R-R間隔の平均,分散,変動
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4. 考察

0.6倍が全ての被験者で緊張の少ない傾向が見られる.エラー率の低さや,打鍵間隔が長いことからゆったりと作業をする傾向が考えられる.負荷率2倍,最大条件は全く逆の傾向を示している.しかし,各被験者の負荷に対する指標は,パフォーマンス,呼吸以外では個人差が大きく,考慮しておく必要があろう.そこで,被験者別の考察の1例を示す.

負荷率2倍:この条件下では,エラー率が極端に高く,非効率な作業となっている.また,R-R間隔の変動が大きく,時間単位の長い大きな変動であることから,作業による緊張がむらに現れていると思われる.ノルマ達成への義務感と諦めが緊張のむらにつながっているのではなかろうか.この条件の与えるプレッシャーが大きいことが考えられる.

負荷率1.2倍:HRの増加率,呼吸数の増加率が高いことから,精神緊張がなされていると思われる.精神負荷の原因として感がえられるのは,打鍵作業への集中,達成努力である.R-R間隔の変動が小さいことから推察される.

最大条件:呼吸数,TP数の値が高いことから,精神的な緊張,動揺が推測できる.しかし,R-R間隔の分散,変動が大きいことから,負荷率2倍と同じ種類の緊張が推察される.

負荷率0.8倍:各指標において,あまり精神負荷を示していない.作業を通してR-R間隔の変動はさほど大きくはないことから,作業者にとって精神負荷の少ない条件といえよう.

負荷率0.6倍:HR,呼吸数,TP数の全ての置いて低い増加率を示し,精神緊張が低いと思われる.打鍵間隔が長い間隔の方に偏っていることから気持ちもパフォーマンスにおいてもゆったりと作業していると思われる.

普段のペース:TP数の増加率が高い一方,HR,呼吸数,エラー率は低く,R-R間隔も平均的である.R-R間隔の変動も小さく作業へ集中していたと思われる.プレッシャーはなかったと思われ,TP数の増加も作業への集中と推察できる.

5. 結論

本実験では,打鍵作業(キーボード入力)における作業量負荷による精神負担(生理的変化)について実験し,考察したものであるが,本実験での被験者が3名と少なかったことも宛て,あくまで推察の範囲になってしまった.しかし,被験者ごと,指標ごとにまとめることによって,作業要求量(ノルマ)による精神負担が推察されたと思う.そこで,ここでは全体的な視野で傾向をまとめようと思う.

負荷率2倍ではノルマ達成に対する不安,プレッシャーが強く,開始直後は強い緊張が現れるが,その後,諦め感から作業への集中力がなくなるパターンに思われる.エラー率が高いことからも,非効率的な負荷といえよう.似た傾向を示すのが最大条件であるが,自分でペースコントロールできるためにそれほど強い負担は現れない.精神負荷が見られたのが負荷率1.2倍,0.8倍である.負荷率1.2倍は作業者の達成意欲を損なう量ではなく,作業へ積極的に取り組まれていると思われる.負荷率0.8倍では比較的余裕のある作業が行われている.精神緊張の種類としては,負荷率1.2倍の打鍵への没頭,達成努力からくるものよりも,打鍵制御,ペース配分に対する緊張と思われる.負荷率0.6倍,普段のペースにおいて精神負担が少ない.特に作業要求に対するプレッシャーはほとんどない.しかし,負荷率0.6倍は飽きて気が散ってしまう傾向が見られ,一方,普段のペースでは安定した打鍵作業が行われ,集中している傾向にあると思われる.


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