早稲田大学石田研究室


姿勢変化が視覚情報処理に与える影響についての一実験
−反応時間との関係−

関 健一


1. 目的

人間の反応時間はマン-マシンシステムの全体の操作時間に影響する.現代社会において高度に自動化されたシステムが様々な分野で,様々な恩恵を人々にもたらしている.しかしそのシステムが高度に複雑にそして巨大になるにつれてそれを扱う人は,一瞬の判断の遅れやエラーにより甚大な被害を人々に及ぼすことが考えられる.

そこで本研究において,反応時間が上体の姿勢変化及び刺激提示位置,そして頭部固定をすることによって影響するかどうか,つまりそれらが反応時間に関与する要因(変数)となりうるかどうかについて検討を行った.

2. 方法

椅子に座らせた上で上体の角度を変化させそれぞれの角度において,表示器上のLED水平方向(左右方向),垂直方向(上下方向)に刺激を表示させ音声反応によって反応時間をとる方法をとる.また上体角度0度の時,頭部の運動を固定する条件を付け加える.

実験システム図
図1 実験システム図

3. 結果

それぞれの組み合わせにおいてt検定を行った.上段の●×は有意差があるかどうかで,●は有意差ありの場合,×は有意差無しの場合である.下段の数値はt値である.t値の後ろの*は*が5%の,**が1%の,***が0.05%の有意水準である.

表1 水平方向と垂直方向における反応時間の有意差の有無
水平/垂直方向における反応時間の差

表2 上体角度変化における反応時間の有意差の有無(水平方向)
上体角度変化よる反応時間の差(水平方向)

表3 上体角度変化における反応時間の有意差の有無(垂直方向)
上体角度変化よる反応時間の差(垂直方向)

表4 頭固定と頭固定なしにおける反応時間の有意差の有無
頭固定と頭固定なしにおける反応時間の差

表5 表示部分における反応時間の有意差の有無(左右方向)
表示部分による反応時間の差(左右方向)

表6 表示部分における反応時間の有意差の有無(上下方向)
表示部分による反応時間の差(上下方向)

4. 考察

1)水平方向(左右方向)と垂直方向(上下方向)には反応時間で見る限り明らかな差が見られる.つまり水平方向は,上体角度が床面に垂直な線を中心として,±30度の間にあり,刺激表示角度などが同じ条件上にあるとき,垂直方向より反応時間ははるかに遠いということが言える.

2)姿勢変化は刺激が水平方向に出る場合ほぼその影響を示さない.また表示位置が垂直方向においても上体角度が-15度から15度の間ではほとんどその影響を受けないが,上体角度が-30度以下もしくは30度以上となった時に反応時間へ与える影響を考えなければならない.また上体が仰向けになるよりも,うつ伏せになる方がその影響は大きくなると考えられる.

3)頭部を固定することによって生じる反応時間の形態は,固定しない条件と比べ差が生じる.とりわけ垂直方向においてはその差が顕著となってあらわれまた固定することによって特殊な反応時間グラフを描くことがわかった.また頭部運動と眼球運動の協応関係もここにおいてクローズアップされた.

4)水平方向において右側と左側の表示出現部分による差は,上体角度変化を含んでもほぼ考慮しなくても良い範囲にある.しかし垂直方向においては上体角度変化がもたらす様々な要素によって上側と下側では明らかな差となって現れた.とりわけ上側が見えにくくなると考えられる.15度および30度(うつぶせに近い姿勢)の上体角度の時は角度が増えるにつれ,上側と下側に明確な差がつきやすいと考えられる.

5. 結論

本実験は反応時間に影響を与える要因(変数)について実験・考察されたものである.本実験で考えられたそれぞれの要因(変数)については考察においてそれぞれの項目でまとめてあるのでここではトータル的な視野に立ち実験全体を考えていきたいと思う.

基本的に,反応時間はかなり些細な影響によって変動することがわかった.これは当初予想していた結果よりも各項目において差が見られたことに起因する.

上体変化というものが視覚情報処理に与える影響もまた他の要因(変数)以上に考慮されなければならない.今回行った実験において上体変化が影響せずに単独で考えられる要因(変数)はない.つまり上体の角度によって全ての要因(変数)は影響を受け,上体角度とその他の要因(変数)の相乗効果が反応時間に現れる結果となっている.特に刺激表示部分が垂直方向のときに上体角度は影響を受けやすい結果となっている.

今回の実験では上体角度0度の時にしか行わなかった頭部運動の固定はいろいろな意味で興味深い結果をもたらした.刺激表示位置が上下左右とも45度の範囲であったので大きな差は生じなかったが,垂直方向においては他の条件にはない特異な反応,すなわち反応時間のグラフが3本の異なった傾きを持つ直線によって構成されているという結果である.これは頭部−眼球運動の協応関係という点からみると非常に有意義なものと考えられる.

また刺激表示位置が左右方向では反応時間に与える差は上体角度が変化してもほぼ変わらない結果となった.しかし上下方向においては上体変化によってその差は顕著に表れており,人間の視覚に関しての制限などを知らしめる結果となった.

結論付けると反応時間は上体変化に関しても,刺激表示位置に関しても,頭部の固定に関しても,多かれ少なかれ影響を受けたといえよう.つまり今回行った実験における各条件は,反応時間に影響を与える要因(変数)であるといえる.


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